三百七十二話 既知の先の魔物たち
※戦闘描写あり!
決めた覚悟を胸に灯し、共闘をしてくださっている精霊さんたちへと、方針を紡ぐ。
「精霊のみなさん! さらに奥まで、行ってみましょう!」
『うんっ!!!!!』
頭上でリング状に並ぶ、小さな五色の精霊さんたちの元気な返事に笑みをうかべて、身体魔法〈瞬間加速 二〉を発動し、地を蹴る。
空で舞う魔物たちの間から射し込む、夜明け色の細い光の筋を目印に、群れる魔物たちのすきまを駆け抜け、さらなる奥地へ。
不思議と、天から注ぐ薄青の光の周りだけは、小さな空白地帯になっており、その地点を経由する形で進んで行くと、あっという間に浮遊大地の奥の端が目視できる場所までたどり着いた。
夜明けの光に照らされた、金から白金へと至る長髪が美しく煌めく、小さな空白地帯で足を止めて、素早く周囲を確認する。
当然ながら、辺りを埋めつくす魔物たちは赤の混じる黒霧の穢れに全身を染められて、やはりその姿はかろうじて輪郭が分かるていどだ。
それでも、輪郭からどのような魔物たちとこの先遭遇することになるのか、想像することは出来るだろうと、穢れの塊のようにさえ見える周囲に目を凝らす。
刹那、右横からザッザッザッと、まるで地面を素早く蹴って土を散らすような音が聞こえ、反射的に視線を向ける。
次いで――とっさに後方へと飛びのくこととなった。
軽い足音に反して、文字通り土をまき散らし。
……とんでもない速度で駆ける、ニワトリのような姿の魔物が、右から左へと爆走して行ったから。
思わず、無言で走り抜けていった左側を見つめる。
小さな五色の精霊さんたちまで、無言になってしまった。
共闘の証である精霊魔法さえも、今は止まっている。
微笑みを形作りそこねた口元を、静かに引き結び――集中。
……さきほどの爆走突進攻撃は、その姿が小さなものだったがゆえに、ラファール高山の牡鹿の魔物、ラファールディアーのものより軽やかに見えた、が。
しかしきっと、速度も威力も決しておとるものではないと、そう考えておいたほうが、いいはずだ。
ヒヤリと、冷や汗が流れるようなこの感覚は、油断してはいけないという警鐘に違いない。
――そう思考する時間は、ほんのわずかな間だった。
サッと前方へ戻した視線の先で、赫い炯眼と目が合う。
目線が同じ高さにある巨大な兎姿の魔物が、わずかに上へと頭を動かした後。
すぐさま、その頭を地面へと振り下ろす様子を見てとり、半ば無意識に近い動作で地を蹴り、真横へ飛ぶ!
直後、ついさきほどまで足下だった場所に、深い大穴が出来上がった!?
空中で身をひねりながら見たその光景に、緑の瞳を見開きながらも華麗に着地して――とにもかくにも、反撃開始っ!
刹那に〈オリジナル:麻痺放つ迅速の並行雷矢〉を発動して二段階目へ移行し、計十八本の雷の矢を巨大兎とおぼしき魔物へ放ちつつ、声を張る。
「精霊のみなさん!」
『あっ!!!!!』
先の爆走ニワトリとおぼしき魔物に驚き、固まってしまったままであった小さな精霊さんたちの意識を引き戻して、共闘を再開。
色とりどりの精霊魔法が空中から飛来する様子を見て、ようやく不敵な笑みを口元に戻す……が。
「それは想定外」
思わず愕然とし、想定外です、と紡ぐつもりだった言葉さえ、とぎれる。
左側から飛んできた、拳大の銀色の球体……風魔法の攻撃を、間一髪、左手首に飾った銀輪に付与した風盾の魔法で、受け流すのがせいいっぱいだった。
愕然としたのは、すでに突き立っているはずだった十八本の雷の矢が、巨大兎がいた場所にいつの間にか出現した半円状の土壁に、刺さっていたから。
それに追い打ちをかけるように、左側にいた人間の頭ほどの大きさの、浮遊する球体の魔物が攻撃を放ってきたことも加わり、内心さすがに焦ってしまった!
とは言え、やられてばかりはいられないというもの!
すぐさま意識を切り替え、左側の浮遊球体の魔物へも届くように、並行雷矢を発動。
前方と左側へ飛んでいった雷の矢は、さいわいにも先の雷の矢が突き刺さったことで一部が崩れた土壁のすきまから、精霊魔法と共にしっかりと巨大兎に届き、左側にうかんでいた浮遊球体も、つむじ風になった。
ついほっと安堵の吐息を零し……しかしこの安堵も、長くはつづかないだろうと、気づく。
前方で、ぴょん、ぴょん、と軽やかな動きで、二匹目、三匹目、と。
つづけて二匹の巨大兎たちが姿を現し、私の足下へと大穴をあけていく。
前後左右に移動して、その攻撃を避ける合間にも、左側に現れた浮遊球体の魔物から、これはどうだとでも言うように、今度は氷の塊が飛来する。
それも避けると、次は右側から、また爆走ニワトリが走って来た。
当然ながら、今の状況でも十分に厄介であるのは間違いない。
しかしそれでも、この魔物たちだけならばまだなんとか、範囲魔法と精霊魔法だけでも、対応はできる。
ただ周囲にいる敵は……なにも、この魔物たちだけでは、なかった。
他にも、額に一本角を生やした馬姿の魔物や、巨大なスライムとおぼしき魔物たち。
ツインゼリズとおぼしき魔物たちに、狼姿とおぼしき魔物たち……。
それらすべての魔物たちに、全方位から攻撃を向けられたところで――戦況の不利を、さとった。
慌てて避けることの出来る攻撃は避けながら、出し惜しみをしている場合ではないと、息を吸い込み、魔法名を宣言!
「〈プルス〉!!」
眩い白光が輝き、周囲一帯の魔物たちを包み込み――つむじ風に変えて消し去った!
やはり特効攻撃ならば、戦える!!
そう思い、少しばかり拓けた周囲を見やり……笑顔が固まったのを、自覚した。
――魔物たちの反撃が、あまりにも苛烈だったがゆえに。
文字通り、空白地帯へといっせいに襲いかかって来た魔物たちの攻撃に、範囲型や複数攻撃型のオリジナル魔法を連発するも、それでさえ対応が追いつかない!!
そもそも、魔物たちが攻撃を放つ頻度があまりにも高く、連続的すぎる!
創世の女神様の守護がなければ、今回こそ神殿送りになっていたに違いない。
一体一体との対戦ならば、きっと倒すことが出来ただろう。
けれど、一気に押しよせてくる状態では……さすがに対応が難しい。
唯一、特効攻撃に関してだけは、相対する魔物たちもさぞ、脅威を感じる状況だろうけれど。
「っ! 〈プルス〉!! 〈スターレイン〉!!」
乱れる思考をまとめつつ、まさしく唯一、この場を切り抜ける可能性を持つ特効攻撃を連発して、なんとか確保した退路を、久しぶりに本当に全力で駆け抜ける!
奥は奥でも、ラファール高山にいた魔物たちが群れる場所に一番近く、今の私の実力でも苦戦をしない強さの、穢れに染まる魔物たちがいる地点まで戻ってきたところで、ようやく移動を止めた。
慌てず焦らず、〈プルス〉にて周囲を空白地帯に変えてから、魔力回復ポーションを一気に飲みほして魔力を回復したのち。
……やはり、まずはこの場の魔物たちと戦うことにして、焦らず少しずつ前進して戦い慣れて行くことを目標にしようと、しみじみ思った。




