三百六十九話 勇敢なるフレンドたちの情報提供
朝の気配に目を覚まし、日課の散歩をしっかりとおこない、朝食を楽しむ。
そうして準備を整えた後は、本日もまた好奇心をたずさえて――サービス開始から十六日目、初の公式イベント開始からは二日目となる【シードリアテイル】へと、ログイン!
『おかえりしーどりあ~~!!!!』
「小さな精霊のみなさん! ただいま戻りました」
『わぁ~いっ!!!!』
それぞれの色が彩る身をぽよっと胸元で弾ませた、小さな四色の精霊さんたちの声に瞳を開き、返した言葉に喜ぶ姿についつい口元をゆるめながら、神殿の白亜の宿部屋、そのベッドの上から身を起こす。
見やった窓の外は、本格的な夜色に染まっていて、あまり飾り気のないトリアの街を、さらに落ち着いた雰囲気で満たしていた。
――それはそれとして。
「おや、これは……?」
どうにも、視界の右斜め上で、何かがチラチラと見えるなと思い、注視してみると……。
[フレンドからのメッセージあり 三件]
そう、おそらく私が空――現実世界へ帰っている間に届いたのだろうメッセージの、お知らせ文がうかんでいた。
三件も、と少々驚きながら、メッセージのページである灰色の石盤を開くと、三名の送り主の名に緑の瞳をまたたく。
お一人は、サロン【ユグドラシルのお茶会】のサブリーダー、男装の麗人なロゼさん。
お二人目は、アトリエ【紡ぎ人】のお仲間、エルフ族の錬金術師の先駆者であるアルさん。
そして三人目は、辻ヒールの件で知り合った、コロポックル族のフレンドのテトさん。
このお三方からのメッセージとは、いったい何事だろうか?
接点も共通点も、お三方同士ではあまりないかたがたが、それぞれメッセージを近しいタイミングで送ってくださっている現状に、思わず困惑してしまう。
お三方に共通していることと言えば、敏く賢い人だという点だが……。
若干おそるおそる指先を伸ばし、それでもまずはと、ロゼさんの名前を押す。
パッと切り替わり、開いたメッセージはしかし、短い本題を示した文から先は、丁寧に隠されていた。
[ごきげんよう、麗しのロストシード。
今回の公式イベントで獲得する評価について、きっと君では確かめることが難しいだろう部分の答えを、送るよ。
ただ、これは種明かしだから、確認は君の流儀に反しない範囲で、無理はしないようにね。
――ここから先、ネタバレあり――]
そう綴られたメッセージに、ロゼさんの気づかいを感じて、自然と微笑みがうかぶ。
しかし、今回のイベントで獲得する評価に関することで、私では確認ができないであろう部分の答え、とは?
……なんだかとても気になってきたが、ここは一度落ち着いて、先に他のお二人のメッセージも見てみよう。
「ええっと、アルさんのメッセージは……」
呟きながら、ふよふよと石盤のそばでうかぶ四色の精霊さんたちと共に、お次のアルさんのメッセージを開く。
[ロストシードさんに、ネタバレ情報提供!
評価について、ちょっと詳しく調べてみたから、興味があれば確認してみてくれ~!
ちなみに、ロストシードさんもこの他に情報持ってるなら、ぜひ教えてくれ!!
――ここから先、ネタバレあり――]
視線でなぞった文に、思わず小首をかしげる。
アルさんのメッセージも、ロゼさんのメッセージと同じ、評価についてのものらしい。
これは……偶然の一致なのだろうか?
はて? と思いながらも、お二人のネタバレ部分のメッセージを読む前にと、先にテトさんのメッセージも見てみる。
[ごんにちは、ロスト。
公式イベント、楽しんでいるかい?
ボクはいろいろと検証をしながら、楽しんでいるところだよ。
実は、このメッセージを送ることにしたのも、検証した情報の中に、キミに伝えておいたほうがいいかな? って思う情報があったからなんだ。
キミはきっと、大規模戦闘でたくさん評価を稼いでいると思うのだけど……がんばりすぎもよくないからね。
だから、評価に関しては、少しくらいのんびりしても大丈夫だよってことだけ、先に伝えておくね。
詳細は下に書いておくから、ネタバレが大丈夫なら、見てみて。
――ここから先、ネタバレあり――]
ぱちぱちと、つい緑の瞳をまたたかせてしまう。
――まさかの、おそらくお三方共に近しい内容の、ネタバレ込みメッセージだった!
ここまでくると、むしろ気になって仕方がない!!
さっそくロゼさんから、ネタバレ部分のメッセージを確認していこう!!
そうして、反射的に上がった口角をそのままに、ネタバレ部分を読んでいった結果。
多少の内容の違いはあったものの、やはりお三方の伝えたいことは、同じ情報のようだった。
それはまさしく、イベントのページに並ぶ、五本のゲージで獲得量を示された、評価のこと。
五つに分けられ、一本分がおそらく一日分の獲得評価上限を示すものだと言うことまでは、昨日の時点で私自身ほぼほぼ確定だろうと、分かっていた。
この情報に加え、お三方はさらに、評価ゲージはその日獲得した評価だけではなく、次の日以降に獲得した評価でも、問題なく染まっていく、と。
つまりは一日分の上限に、一日だけで到達することができなくても、次の日以降でゲージの空白部分を埋めることができるのだと、そう教えてくださっていた!
「なるほど……! これはたしかに貴重かつ、イベントのネタバレをふくむ情報ですね!」
『おぉ~~!!!!』
湧き上がったありがたさに、つい声音を弾ませて紡ぐと、小さな四色の精霊さんたちも嬉しそうに声を上げる。
精霊のみなさんの可愛らしさに笑顔を零しつつ、さっそくお三方にお礼のメッセージを送るためにと、返信の欄を開いた。
感謝と、アルさんには残念ながら他の情報はまだ見つけていないことをしたためながらも、しみじみと思う。
……この評価ゲージの情報は、本当にとても貴重なものだ、と。
改めて考えてみるまでもなく、この情報はどう考えても、お三方ご自身が身体をはった検証……意図的に一日分の評価上限を満たさず、次の日を迎える実験をおこなった上で、得たもののはずだ。
それはつまり、もし一日分の評価ゲージが、次の日以降では埋めることができない仕様であった場合。
――ゲージを満たせないままイベントを終える、という結果をむかえてしまう、その危険をおかしたことに他ならない。
これは本来、とても勇気の必要な行動で、少なくとも私はそれを試すという選択をしなかった。
多大なる勇気と、そしておそらくは深い探究心。
この二つの心をもって、検証をしてみせた勇敢なるお三方を、しっかりと胸中でたたえながら……感謝のメッセージを丁寧につづり、そっと返信を送った。




