三百六十七話 自由参戦と感謝の祈り
※戦闘描写あり!
決意を新たに、ゆったりと作業をつづけ、昼から夕方へと時間が移り変わったところで、切り上げる。
机の上に並んだ小瓶をカバンの中へと入れて、伸びを一つ。
この後は――評価上限に達した後にも、大規模戦闘に参戦できるか否かを確認してみよう!
サッと、イベント専用ページが載った灰色の石盤を開き、[参戦する]の選択肢がまだあることに、小さく不敵な笑みをうかべる。
その上にはしっかりと、さきほど見た、本日の評価上限に到達したことを示す文言も刻まれているものの……だからこそ、まだこの選択肢が残されている意味を、察した。
おそらくは――この後も引きつづき、参戦はできるのだ、と!
たしかに本日は、これ以上の評価を獲得することはできない。
しかし、創世の女神様の願いが、あの浮遊大地を埋めつくす魔物たちをできる限り倒して減らすことであることもまた、事実。
であるならば……やはり私は、評価の上限など気にすることなく、参戦したいと思う。
そして、思ったのであれば、後は行動するのみ!!
「みなさん。もう一度、浮遊大地へ戦いにまいりましょう!」
『うんっ!!!! ぼくたちも、しーどりあといっしょにたたかう!!!!』
「えぇ! 共闘、よろしくお願いいたします!」
『まかせて~~!!!!』
私が紡いだ次の行動を示す言葉に、小さな四色の精霊さんたちも戦意を宿して、返事を響かせてくださる。
それに頼もしさを感じながら、不敵な笑みを返し、迷わず[参戦]のボタンを押した。
浮遊感ののち、踏みしめた土の地面の感触と共に、白光の浄化魔法〈プルス〉を放つ。
そうそうに〈フィ・ロンド〉も唱えて、精霊さんたちとの共闘の状態を整えつつ、本日五度目となる殲滅戦を開始!
空飛ぶ魔物たちが埋めつくす天空へも、円盤状の水の渦や回旋する氷柱、それに石の杭や雷の矢の攻撃を飛ばしつつ、しっかりと特効攻撃である〈プルス〉を活用して、周囲一帯を空白地帯に変えていく。
その際、やはり右隣からいくつかの視線が注がれていたが……こればかりは、もはや仕方がないだろう。
希少な魔法に目を奪われることは、私とてよくあること。
小さく苦笑しつつも、いさぎよく気にしないことにして、殲滅戦をつづけていく。
『えいっ!』
『そこ~!』
『たおす~!』
『まけない!』
頭上でリング状に並ぶ、小さな四色の精霊さんたちも戦いに慣れて来たのか、姿を隠しながらも共闘してくださっている、同色の精霊さんたちを鼓舞するように声を上げはじめた。
あぁ――やはり戦場であっても、精霊さんたちは世界一、可愛らしい!!
多少殺伐とした周囲が、むしろこの可愛らしさを際立たせているのではないだろうか!?
ついにこにこの笑顔になりかけ、しかしハッと現状を思い出して、気合いと根性で穏やかな微笑みに整える。
距離は開いているものの、近くには攻略系のかたがたがいらっしゃると言うことを、忘れてはいけない。
そうして自重しながら戦い、問題なく、評価上限に到達した後でも浮遊大地への転送と大規模戦闘への参戦が可能であることを、文字通り身をもって確認したのち。
一時間になる手前でイベント専用ページを開き、[地上へ戻る]と書かれた文字を押して、自主的に転送魔法を発動させ、宿部屋へと帰還した。
「小さな精霊のみなさん、共闘ありがとうございました」
『ありがとう~~!!!!』
小さな四色の精霊さんたちと一緒にお礼を告げて、〈フィ・ロンド〉を解除し、戦闘の余韻をはらうように吐息をつく。
ちょうど夕方から宵の口へと時間が移り変わり、小さな光の精霊さんが眼前でくるりと一回転をした。
『またね! しーどりあ!』
「はい、またご一緒してくださいね、小さな光の精霊さん」
『うんっ!』
『きたよ~! しーどりあ~!』
「いらっしゃいませ、小さな闇の精霊さん」
『ひかりのこ、またね~!!! やみのこ、いらっしゃ~い!!!』
光と闇の小さな精霊さんの交代を、小さな三色の精霊さんたちと共に見届け、新たな四色の形に微笑む。
まだ明るい夜のはじまりの空を、窓越しに眺めた後、さてとログアウト前の一時間である本日最後のこの時間にしておきたいことを、小さな四色のみなさんへと紡いだ。
「さて。それでは本日の大規模戦闘を無事に乗り越えたことを、神々へご報告にまいりましょうか!」
『はぁ~~いっ!!!!』
元気な返事に笑みを深め、さっそくと賢人の宿を後にする。
職人通りを歩きながら、これからおこなう神々への感謝のお祈りは、やはり欠かせないと強く感じた。
なにせ、今回の公式イベントは、メインの内容となる大規模戦闘は当然として、普段と同じ遊びかたでも評価を獲得することができると判明している。
それはつまり、今回は守護を直接かけてくださっている、創世の女神様はもちろんのこと――いつもお祈りを捧げている神々からも、今回のイベントにお役立ちなものをすでにたくさん授かっていた、ということに他ならない。
普段の冒険や細工や錬金で、しっかりと活用しているスキルや魔法はまさしく、精霊神様や天神様や魔神様、獣神様や技神様に、授かったものなのだから。
であるならば、もっとも感謝を捧げたい神様が、神殿の中に神像がない創世の女神様であるという点だけはいたしかたがないとしても、やはり他の神々へのお祈りはしておきたい!
意気込みも新たに、中央の噴水広場を抜け、大通りを進んで壮麗な神殿へと踏み入ると、精霊神様から順にゆっくりじっくりと感謝の念を捧げていく。
改めて、授けていただいたさまざまなスキルや魔法によって、私の【シードリアテイル】での日々の冒険が彩られていることを思い返しつつ、はじめての公式イベントでも存分に活かすことができることに、深い感謝を――。
そうして、大切な感情を込めたお祈りを捧げたのち。
今回はそのまま神殿のお宿でログアウトすることを決めて、白亜の階段をのぼり二階の宿部屋へと向かう。
空き部屋を見つけて、どこか神聖さをまとう宿部屋の中へ入ると、各種魔法を解除して小さな多色と水の精霊さんたちを見送り、ベッドへと横になる。
「それでは、みなさん。名残惜しくはありますが、私は空へ帰って休みますね。みなさんも、本日はたくさん戦いましたから、ゆっくり休んでくださいね」
『はぁ~い!!!! またね、しーどりあ~!!!!』
「えぇ――また」
胸元にぴたりとくっつく、小さな四色の精霊さんたちともまたねを交し合い、ゆっくりと緑の瞳を閉じて……静かに、ログアウトを呟いた。
戻ってきた現実世界でも横になりながら、公式イベント初日を振り返りつつ、二日目となる明日に思いをはせる。
思考の大半は、どうしても大規模戦闘がしめており、だからこそ思う。
さすがに一日中戦いつづけることは難しいが、しかしそれでも。
女神様の願い通りに――あのうごめく魔物たちを減らすため、明日以降も可能な限り参戦しよう、と。
ロストシードとして、そこの妥協をするつもりはないのだから、と。
そう、くすぶる戦意をなだめながら、眠りについた。
本日で【遊楽記】は、初投稿から一周年となりました!
作者自身、驚きの毎日投稿の継続は、ひとえに読者のみなさまが楽しく読んでくださり、そして素敵なご感想をくださったからこそです。
改めまして、本当にありがとうございます!!
そしてここからは、一周年の先のお話なのですが……。
これからの生活環境の変化をみすえて、投稿頻度をゆっくりにすることに決めました。
毎日投稿から、まずは一週間に一回、金曜日の21時更新へと変更させていただきます。
まだまだ今後の予定は未定ですが、ひとまず7月は週一投稿を、お楽しみいただけますと嬉しく思います!
手はじめに、今週の金曜日の更新をお楽しみに!
(すでに本日更新しておりますが、細かいことは好いのですよ♪)
※次回は、世迷言板内のやり取りの記録の、
・幕間のお話
を投稿します。
今後とも、【マイペースエルフのシードリアテイル遊楽記】を、お楽しみください♪




