三百六十二話 御伽話の弓使いとの共闘!
※戦闘描写あり!
広い店内から外へと出ると、少し悩んだ後、宿屋へと足を向ける。
二回の大規模戦闘への参加によって、今回の公式イベントでは浮遊大地へ戻った時も元々いた場所へ戻り、強制送還される際も地上の元々いた場所へと戻ってくることが分かった。
それならば、個室である宿部屋で行き来をすることで、精霊さんたちも私自身も周りを気にする必要なく、のびのびとイベントを楽しめるのではないだろうか?
戦意の声を上げてから戦闘に参加したり、送還の際も落ち着いて精霊魔法を解除したり……我ながら、これは名案だと思う!
本格的な夜の時間へと移り変わり、暗がりに沈む職人通りを進み、賢人の宿へと帰ってくると、迷わず宿部屋へと入り込む。
微笑みを深めて、小さな四色の精霊さんたちへと次の行動を紡いだ。
「みなさん。お次はまた、浮遊大地へまいりましょう! 一緒にたくさん魔物を倒しましょうね!」
『はぁ~~い!!!! まかせて~~!!!!』
元気いっぱいの返事を響かせる、四色の精霊さんたちに力強くうなずきを返し、大規模戦闘への参加を念じて灰色の石盤を開くと、また参戦の選択肢を選んで――三度目の浮遊大地での戦闘へ!
少しの浮遊感の後、ざわりと耳に入った戦闘の音に、すぐさま緑の瞳を開く。
周囲でうごめく、穢れをまとった魔物たちをサッと見回し、手飾りをつけた右手をかかげる。
――初撃の魔法は、決めていた。
「〈プルス〉!」
振るった右手に導かれるようにして、周囲一帯へと浄化の白光が眩く輝き、広がりおおう。
一瞬で多くの魔物たちを殲滅し、この場を空白地帯にした特効攻撃の威力は、やはり何度見ても凄すぎる。
これを連発する日は、もう少し後になるだろうと確信しつつ、〈フィ・ロンド〉を詠唱して隠れたまま、精霊さんたちに共闘をはじめていただく。
鮮やかなはじまりとなった、三度目の参戦に意気込み、右側の魔物を一掃するためにと並行雷矢を空中に出現させたところで――風切り音を連れて飛んできた、風をまとった一本の矢を筆頭に、追従してきた風の矢が数本、右側の少し後方の魔物たちをつらぬきつむじ風に変えた。
どうやら、他のシードリアのかたの攻撃がここまで飛んできたようだが……矢、という点が気になり、反射的に振り向いた先。
後方の魔物たちのすきまから、ひらりと片手が振られたのを見て、やはりサロン【ユグドラシルのお茶会】のお仲間、弓使いのシルラスさんだったと、当たった予想の結果に微笑む。
こちらも気づきやすいようにと、手を振り返してご挨拶をしてから、近くの空中に留めていた十八本の雷の矢を、そのまま目の前で群れていたハイアーラファールウルフたちへと放つ。
すると、少しだけ拓けた空白地帯を身軽に駆けて、銀色の弓を片手に持ったシルラスさんが、こちらへと来てくださった!
「シルラスさん! ごきげんよう。はじめて拝見しましたが、素晴らしい技をお持ちですね!」
「ごきげんよう、兄君。兄君こそ、さきほどの白い光は噂に聞く、特効攻撃の浄化魔法ではないか?」
「ふふっ! ご明察の通りです」
「やはり、そうだったか」
近くに来てくださったシルラスさんと、束の間声音を弾ませて語り合う。
とは言え、この場は戦場まっただ中。
空白地帯をぬりつぶし、また迫って来た魔物たちを二人そろって見やり、おもむろに背を合わせて敵を見つめる。
すぐに再開した戦闘は――魔法と矢が入り混じる、素敵なものとなった!
私が放つ範囲魔法が前方の敵を一掃し、次が来る合間にと見やった後方では、シルラスさんが放つ矢とそれに追従する風や水の魔法の矢が、的確に魔物たちを貫いている。
シルラスさんの弓の腕前が凄いという点は、もはや前提なのだけれど、追従する魔法の矢も狙いを違えず、魔物たちの頭に突き刺さっている様は、見応えが凄い!
思わず一瞬固まってしまい、その間に突進してきたラファールディアーへと、〈フィ・ロンド〉による精霊さんたちの、精霊魔法がいっせいに煌く。
こっそりと助けてくださった精霊のみなさんに感謝しつつ、各種オリジナル魔法を駆使しながら深く笑む。
――フレンドさんと背中合わせの共闘とは、なんと心躍る展開だろう!!
弓矢と魔法が織りなす、シルラスさん独自の戦法は、とても洗練されたもので、ついつい見惚れてしまうほど。
シルラスさんのような、凄腕の弓使いによる戦闘の光景を見ることができる幸運に、心底から彼とフレンドになる機会があったことへの感謝を誰にともなく捧げる。
次いで、ふととある語り板の内容を思い出して、はっと息をのみ、思わず内心でうなずきを繰り返した。
その語り板には、森の中で正確無比な矢を放つ、凄腕のエルフの弓使いさんがいる、と言った内容が書かれており、そのプレイヤーとはきっと、シルラスさんのことに違いないと、読んだ当時にも思ったことだが。
たしか、語り板の中ではそのプレイヤーのかたのことを、[御伽話の弓使い]と称して褒めたたえていた。
御伽話に出てくる、古きエルフの弓使いのような勇姿――シルラスさんの強さは、まさしく[御伽話の弓使い]の名に、ふさわしいものだと思う!!
そして、今。
私はそのようなかたと、背中合わせで戦っているわけで……。
状況を理解したとたん、さすがにスッと背筋が伸びた。
もちろん今までも、特効攻撃を使う回数をのぞけば、決して手を抜いていたわけではないのだけれど。
それはそれとして――素晴らしいかたとの共闘の場を、彩らないわけにはいかないというものだろう!!
刹那、フッとうかんだ不敵な笑みをそのままに、また〈オリジナル:麻痺放つ迅速の並行雷矢〉を発動。
計十八本の雷の矢は、背をあずけた弓使いの戦友の攻撃と対をなすように――鮮やかに煌き、魔物たちへと突き立った。
後方では風の矢が、銀の尾を引いて空中を行き、見事魔物たちの頭へ突き刺さっている。
あぁ、やはり共闘とは、こうでなくては!
チラリと見やったシルラスさんの口元もまた、ゆるく弧を描いていて、彼も楽しんでくださっているのだろうと察し、思わず笑みが広がる。
――心躍る鮮やかな共闘は、先にシルラスさんが強制送還されるのを見送るまで、しばらくつづいたのだった。




