三百六十話 休む時間も大切に
あまりにもすさまじい、特効攻撃による殲滅は……ひとまず今はまだ、時折使うだけに留めることにして。
また精霊のみなさんと一緒に戦闘をつづけ、昼の時間から夕方の時間へと移り変わり、少したった頃。
ちょうど一時間の区切りとなり、再び蒼光に連れられて、地上へと戻ってきた。
強制送還された、夕陽に照らされたトリアの街の大噴水のそばで、ふぅと戦闘後の疲労感を吐息で流す。
〈フィ・ロンド〉を解除して、小さな四色の精霊さんたちが肩と頭の上に戻り、ぽよっと跳ねる様子に和んだところで――今回はゆったりと休憩することに決めた。
「戦闘の後は、やはり休むことも大切ですよね」
『おやすみも、だいじ~~!!!!』
「えぇ。と言うことで、この後はのんびりとポーション製作を楽しみましょう」
『はぁ~~い!!!!』
小さな四色の精霊さんたちと語り合い、今後の方針を定めると、さっそく素材を買い込むために職人ギルドへと向かう。
大通りを行き交う、他のシードリアのかたがたを眺めながら歩き、職人ギルドで魔力回復ポーションの素材であるマナプラムを大量に買った後は、神殿に足を運ぶ。
休息を兼ねたものづくりに、もっとも適した場所と言えば――やはり、この神殿の中にある技神様のお祈り部屋だろう。
小部屋へと入り、まずはと技神様へ穏やかな心で《祈り》を捧げたのち。
ポーション製作に必要な品々を並べて、丁寧に魔力ポーションをつくっていく。
「そう言えば……この作業にも、評価が与えられるのでしたねぇ」
『しーどりあがすること、ぜ~んぶ! かみさまたち、みてるよ~!』
「はい。……きっとそれは、今までもそうだったのでしょうね」
のほほんとした呟きに、言葉を返してくれた小さな水の精霊さんへとうなずきながら、小さく気づきを零す。
創世の女神様は本日最初のログイン時、今回の大規模戦闘での戦いをずっと見守ってくださると、そうおっしゃっていた。
しかし、よく考えてみると、きっと他の神々も今までずっと、私たちシードリアのことを見守ってくださっていたに違いない。
これは、そうであってほしいと言う希望ではなく、むしろほぼほぼ確信に近かった。
……なにせ、思い当たる節がありすぎる。
特に、これまで習得してきたスキルや魔法たちの、その習得のタイミングを考えると……やはりどう考えても、少なからず神々は私を見ていらしたと思う。
その点に関しては、引きつづき深く感謝を捧げて、いっそう神官としてお祈りにはげむことで、ありがたい見守りにお応えできると良いのだけれど。
そのようなことをつらつらと考えつつ、美味しいハチミツ入り魔力ポーションをつくっていき、ちょうど五本目の小瓶にポーションを作り終えた時、ふと一瞬アトリエ【紡ぎ人】のみなさんはどのようにお過ごしだろうかと、疑問が頭を過ぎった。
様子を見に行こうか、とまで思考を巡らせ……ふるりと小さく頭を横に振る。
公式イベントがはじまった後、私がすぐさま大規模戦闘に参加したように、おそらくアトリエのみなさんもご自身の作品作りに、すぐに取りかかり、現在も制作にはげまれているはずだ。
イベント開始後、すでに数時間が経過しているとは言え、生産職のかたがたにとってはものづくりの最中こそが、戦場で戦っている時だと言っても過言ではない。
私がアトリエのクラン部屋に行くことで、みなさんの製作時の集中を乱してしまう可能性を考えると――やはりもう少し時間をあけてから、見に行くことにしよう。
脳内で自己解決しつつ、減った分のポーションを作り終えたところで、ハッと重要なことを思い出して顔を上げる。
「そうです! すっかり忘れておりました!」
思わず声を上げて、素早く灰色の石盤を開く。
それは今回の公式イベント専用のページで、基礎情報のページの生命力や魔力ゲージのように、横棒が五本描かれていた。
『なになに~~????』
「えぇっと、今回の大規模戦闘における、評価ゲージの進み具合を確認しようと思っていたことを、すっかり忘れておりまして……」
『かくにん???? だいじ!!!!』
「えぇ。だいじ、です」
ふよふよと石盤のそばへ近寄って来た、四色の精霊さんたちに説明とうなずきを返し、改めてページを見る。
上から下へと五本並んだ横棒のゲージの内、一番上のゲージが本日分の評価ゲージなのだろう。
しかし……まだ二時間分しか戦っていないと言うのに、すでにゲージの半分近くが淡い金色に染まっているのは……はて? どういうことだろう??
たしか、攻略系のかたがたが全力で一時間戦うという前提で、このゲージ一本分を埋めるには約五時間が必要だと、語り板には書かれていたはず。
私も全力で戦ったという点においては、相違はないのだけれど、それでもまだ戦った時間は二時間だ。
一本のゲージを五等分したとして、五分の二を超えることはないはずなのだけれど……。
と、謎な状況に首をかしげたのち、気づく。
コレは、もしかしなくても――特効攻撃の殲滅力のおかげでは!?
ふっと広がった表情が、実に微妙な温度をたたえる微笑みであることは、鏡がなくとも自覚できた。
「特効攻撃……おそるべし、ですねぇ」
納得と同時に、もはや自然な動作で彼方へと視線を放り投げる。
とたんにふわっと頭の上へと集合した小さな精霊さんたちが、頭を優しく撫でてくださった。
本当に、精霊さんたちは私の変化によく気づいてくださる。
なでなでよしよしとつづく優しさに、たっぷりと癒された後は、出来上がったポーションをカバンへと入れて片づけをすます。
次いで、せっかく神殿をおとずれたのだから、この機会に他の神々へもお祈りを捧げることにして、技神様へと再度《祈り》を捧げてお祈り部屋から広間へ戻り、順に神々へと祈りを捧げていく。
久しぶりにじっくりとすごした神殿内は、まさしく浄化されるような、清らかな心地になる場所だと――改めてそう、しみじみと感じた。




