三百五十九話 特効攻撃は鮮やかに輝きて
※戦闘描写あり!
蒼光に導かれる浮遊感の後、再び緑の瞳を開くと、そこはさきほどまで戦っていた私にふさわしい戦場だった。
どうやら、この流れで浮遊大地へ戻ってくると、元々いた場所に戻ってくる仕様らしい。
すぐさま近くから突進してきたラファールディアーの攻撃を〈瞬間加速 二〉で避けて、周囲もろとも並行雷矢で一掃。
忘れず、精霊さんたちへ共闘を願う詠唱を紡ぐ。
「〈フィ・ロンド〉!」
『まかせて~~!!!!』
頼もしい返事と共に、小さな四色の精霊さんたちが肩と頭の上から、頭上の空中へとうかび上がり、円状に並んだ後、間を置かず姿を隠したままの精霊さんたちから、攻撃の精霊魔法が周囲へと放たれた。
容赦のない精霊魔法の煌きを眺める間もなく、約十五分前はあったはずの空白地帯をうめつくした魔物たちの攻撃と、時折天空から飛来する風の刃の攻撃を避けつつ、迎撃していく。
それにしても――さすがは大規模戦闘、と言うべきか。
案の定、次から次へと迫りくる魔物たちを見ていると、とても数が減っているようには見えない。
いや、正確に言うと、範囲魔法や手数の多い魔法によって、一時的にはしっかりと空白地帯が出来上がるのだが……それが束の間であることが、なんとも悩ましい。
もっとも、大規模戦闘はいぜんとしてまだはじまったばかりではあり、この状況は当然と言えば当然なのだけれども。
とは言え、このまま単純に、魔物の群れと言う名の物量対、範囲と手数の攻撃魔法の応酬をつづけるのは。
少々――芸がない、と言うものだろう。
「ようやくはじまった公式イベント、はじめての大規模戦闘……。創世の女神様の願いにお応えするための殲滅戦をつづけることは、大前提としまして――やはり、楽しむことを忘れてはいけませんよね?」
静かに呟き、口角を上げる。
『しーどりあ、わくわくしてる!!!!』
「おや! やはりみなさんにはお見通しですか」
『えへへ~~!!!!』
とたんに頭上からかけられた、小さな四色の精霊さんたちのまとを得た言葉に、少しばかりお茶目に返して楽しさを導く。
それと同時に、魔物たちの殲滅をつづけながら、どちらを使おうかと思考を巡らせていく。
大規模戦闘が開始されてから今まで、あえて使わなかった種類の魔法が、二種類あった。
これはずっと、後のお楽しみのためにと、使わないままにしておいた魔法たち。
何事も、まずは事前の情報収集からはじめて、必要な準備をおこない、次いでお試しの実践、小手調べをしたのちにようやく、後のお楽しみにとっておいた本命を出す。
これまでにも【シードリアテイル】の大地では、よくこの方法かこれに近しい方法で、さまざまな物事を楽しんできたわけだが……実はこの大規模戦闘でも、この方法をすでに用いていた。
そう、あくまで今までの戦闘は――まだまだお試しの実践、小手調べ。
本命は、後のお楽しみにしっかりと、とっておいたのだ。
そろそろ……本命のお楽しみに移っても、好い頃合いだろう!
「決めました! まずはこちらから――〈プルス〉!!」
好奇心と高揚と共に、凛と宣言したのは古き浄化の魔法。
穢れを祓う美しくも鮮やかな白光が、前へと伸ばした右手からパァッと放たれ、前方一帯を眩く染める。
変容型の名の通り、発動者の意思に従い扇状に広がった白光が、その輝きをふっと消し去ったのち。
ぽっかりと広がった魔物のいない空白地帯を見て、思わず笑みが零れた。
「ふふっ! 本当に効果てきめんでしたねぇ」
『わぁ~~!!!! じょうかまほうすご~いっ!!!! しーどりあすご~いっ!!!!』
満足さを含んだ私の言葉に、四色の精霊さんたちが頭上で円になったままくるくると舞い、歓声を上げる。
褒めてくださった精霊さんたちへ、左手を右胸へと当て、ふわりと微笑み感謝を紡いだ。
「古き浄化魔法共々、お褒めにあずかり光栄です」
とたんにきゃっきゃと楽しげな声を響かせる精霊のみなさんへ、美しい微笑みをお返しして――次いで、その笑みをフッと深める。
他の魔法と比べ、まさしく桁違いの威力を見せてくれた特効攻撃の素晴らしさに、心が躍るのは仕方がないと言うものだろう!
今回のイベントで、特効攻撃だと明記されていた、二種類の魔法の一つ、浄化魔法。
またたく間に、中範囲の攻撃魔法よりも広い範囲に輝きを広げて、魔物たちを文字通り白光にて消し去った威力は、まさに絶大!!
このような楽しい心境になってしまったからには……やはり、もう一つの特効攻撃も、試してみたい!!
すでに半ば、結果を想像しながらも不敵に微笑み、その魔法名を凛と紡ぐ。
「〈スターリア〉!」
頭上から、漆黒の球体が銀と蒼の光をまとい、戦場に美しく流れ落ちる。
一条の星は、左側から突進しようと頭を下げていたラファールディアーをつらぬき――刹那、ひときわ強く輝いた後、近くにいたハイアーラファールウルフたちまでをもつむじ風に変えて、かき消した。
……ええっと。
これはいったい、どういう状況なのでしょう??
「なにやら……単体魔法が範囲魔法に変わっているのですが……??」
『ほしまほう、すご~~いっ!!!!』
たしかに、凄いのは、間違いない。
それは間違いないのだけれど……何というか。
これはもはや――別の魔法では??
〈プルス〉の、広範囲殲滅魔法みたいな効果も、たしかにとんでもないものだったけれど。
星魔法の威力もまた、予想の斜め上を飛んでいったのは、間違いない。
さすがに、特効攻撃がこれほどまでのものだとは、予想していなかった。
いや、予想というよりも、こう……心の準備ができていなかった、と言うほうが心境的には近いのだけれど……。
昼の陽光が、細く大地に線を注ぐ光景を眺めながら――特効攻撃としての変化もまた、創世の女神様の守護のおかげなのだろうなと察して、束の間視線を彼方へと放り投げた。




