三百五十八話 定められた唯一の制約
※戦闘描写あり!
ハイアーラファールウルフたちを雷の矢で一掃し、ふ、と吐息をつきながら、また奥からこちらへ、続々と集まってくる魔物たちを見やる。
「……思いのほか、魔物の数が減りませんね」
『まもの、いっぱいいる~~!!!!』
「えぇ。戦いはじめた頃は、少しずつ奥へ進めると予想していたのですが……これは、認識を改める必要がありますね」
深めた声音で呟き、結局奥へと進めないままに留まり、浮遊大地と天空の魔物たちを相手取っている地点から、ぐるりと周囲を見渡す。
すでに後方にいた攻略系の集団も、徐々に奥へと進んできている様子が見て取れ、数名は私と距離を取りつつも横並びになるような位置で、戦う姿も見えた。
ポーションを飲みながら現在の状態を観察し、ぽつぽつと天から魔物のすきまをぬって射し込む陽光が、ひときわその眩さを増す光景に、昼の時間への移ろいを感じた――刹那。
「っ」
『わっ!!!!』
突然蒼光に包まれ、最後の一口分だったポーションを反射的に飲み込むのと、小さな四色の精霊さんたちが驚きの声を上げるのとが重なったのち。
一瞬の浮遊感と共にぱっと切り替わった光景に、緑の瞳を見開く。
ざわざわと普段よりもにぎやかな音が広がるその場所は、つい一時間ほど前に待機していた、トリアの街の噴水広場。
――どうやら、さきほどの蒼い光によって、浮遊大地から地上へと強制的に転送させられたようだ。
慌てて〈フィ・ロンド〉だけはいったん解除しつつ、なぜという疑問には、眼前の空中で開いている灰色の石盤の中に、きっと答えがあるはずだと確信する。
『もどってきた~????』
「えぇ、トリアの街に戻されたようです。
えぇっと……連続戦闘可能時間は、現実世界の時間で一時間までで、一時間経つと強制的に地上へと転送させられる……。
――なるほど。どうやら、浮遊大地で戦うことが可能なお時間には、少々制約があるようですね」
不思議そうな声を上げる、小さな四色の精霊さんたちへとうなずきを返しつつ、石盤に刻まれた文字をかいつまんで読み、今度は納得にうなずく。
『せいやく????』
「はい。おそらく、創世の女神様が私たちを案じて、無理をしないように定めてくださったものなのではないかと」
『おぉ~~!!!!』
コテッと目の前の空中で半回転して疑問を表現する精霊さんたちに、微笑みながら説明を重ねると、ようやく歓声が上がった。
現れた石盤に記された制約は、つまるところ長時間つづけて戦闘をおこなう状況にならないように、という配慮なのだろう。
それを示すかのように、一時間の戦闘後、強制的に地上へと戻されたその後は、十五分の休憩時間を挟むことで、再度一時間まで戦闘が可能なのだと記されていた。
たしかに、長時間の戦闘は単純に疲れてしまう。
きっと女神様……あるいは【シードリアテイル】そのものが、その点を考慮した上で今回の公式イベントを開催しているのだ。
この情報はすでに、イベント開始時から参戦していた多くの他のシードリアたちも、私と同じく今まさに学んでいらっしゃるはず。
そう思い、追加で語り板を開くと、予想通り今回の公式イベントに関するタイトルが書かれたページを見つけた。
内容は――戦闘可能時間と、そこから導き出される、評価上限について。
[今回の公式イベントでは、大規模戦闘への参加時、一時間ごとに地上へ強制送還され、十五分の休憩が必要]
[イベント専用ページの評価ゲージを参照したところ、一日に獲得できる評価ポイントの上限は決まっている可能性がある。次の日にも前日分のゲージを埋めることができるかはまだ不明]
[計算上、攻略系が全力で魔物を倒して評価を獲得した場合、約五時間分の戦闘で、一日の上限に到達すると思われる]
[上記を参考に、おおよそだがイベント期間での総合評価上限と照らし合わせてみると、全力で戦闘をして評価を稼いでも、今日から五日間は楽しめる、はず!]
そう連なる文章を読み込み、さっそく計算までしてくださっている、この情報提供者のかたに内心で感謝を捧げる。
公式イベントの貴重な最新情報の解釈を拝見したのだ。
――これはしっかりと、この後に活かしたいところ!
サッと開いたイベント専用の石盤のページにはたしかに、評価ポイントとおぼしき横棒のゲージが上から下へと、五本並んでいた。
この横棒一本分が、一日に獲得できる評価の上限だと、現時点では仮定しておこう。
納得に微笑み、最初に開いていた戦闘時間の説明が書かれたページのみを残して、語り板のページと評価のページが開いた石盤を消す。
残した石盤には、必要な休憩時間の数字が刻まれており、少しずつ切り替わる数字に時折視線を向けながら、しばし手持ちのポーションの数をたしかめる作業をつづけ、十五分の時をすごしたのち。
さらさらと文字を入れ替え、石盤に刻まれた新しい内容を見て、口元の笑みを深めた。
「それでは、みなさん。また浮遊大地での戦いを、再開いたしましょう!」
『うんっ!!!! しーどりあといっしょに、たたかう!!!!』
「えぇ、よろしくお願いいたします!」
私の戦意を宿した言葉に、小さな四色の精霊さんたちからも気力に満ちた返事が響く。
それに不敵な笑みをうかべて、精霊のみなさんへ協力の願いを紡ぎ、さっそくと見やった石盤の中、[参戦する]の文字をしっかりと押して――また戦場へ!




