三百五十七話 ふさわしい戦場での戦い
※戦闘描写あり!
時折頭上から大地へと、細い光の筋となって射す朝の陽光の横を通りぬけ、中央付近よりさらに奥、まだ距離があるものの、地を蹴り飛び上がった際には浮遊大地の最奥が見える位置まで進み、踏み荒らされた土の地面へと軽やかに着地する。
――刹那煌く、かくれんぼ中の小さな精霊さんたちによる精霊魔法と、〈オリジナル:隠されし刃と転ずる攻勢の三つ渦〉。
周囲で赫い炯眼をこちらへと注いだ、ラファール高山の麓にいた銀狼の魔物、ラファールウルフたちを精霊さんたちの魔法と、風の刃と細い水の針と土の杭が襲い、次いで三色の渦が他の魔物まで巻き込んでかき消す。
〈フィ・ロンド〉による共闘に心底から感謝しつつ、サッと慌てず焦らず、周囲の状況を確認する。
さきほどまでは視線を巡らせると、先陣を切り突出して戦う攻略系のかたがたが見えていたが……この場所からはずいぶんと後方で、周囲を埋めつくす魔物の壁のすきまから輝く魔法がかろうじて見えるのみ。
周囲にいる魔物は予想通り、ラファール高山やその麓にいた魔物たちであり、奥へ進むほど強い魔物がいるという配置は、間違いなさそうだ。
事実、さきほどまでいた中央付近では、周囲の魔物たちはすべてパルの街やトリアの街周辺の魔物たちがいて、奥のこの場所には、より強いラファール高山の魔物たちがいるのだから。
ただ……この場所より奥にいる魔物たちの姿には、少々戸惑ってしまった。
「アレは、いったい……?」
思わず疑問を零しながらも、突進してきた銀色の牡鹿の魔物、ラファールディアーの攻撃を避けつつ、〈オリジナル:昇華一:無音なる風の一閃〉で反撃。
併せてついでに周囲の魔物たちも巻き込み、〈オリジナル:昇華一:風まとう水渦の裂断〉と〈オリジナル:昇華一:風まとう氷柱の刺突〉にて攻撃をした上で凍結状態にする。
冷ややかな空気が辺りに満ちる中、それに追い打ちをかけるように〈オリジナル:吹雪き舞う毒凍結の花細氷〉を発動――さらなる冷気が、キィンと魔物たちを氷漬けにした。
しっかり追加で毒の攻撃も入っていることをチラリと確認したのち。
改めて、より奥の地にいる魔物たちへと視線を投げる。
おそらく、ラファール高山の魔物たちよりも強いとおぼしき、その魔物たちはなぜか一様に、穢れの赤黒い霧に全身がおおわれていた。
なんとも禍々しいそれらの姿はかろうじて、狼姿やスライムのような姿など、その輪郭が分かるのみで、毛色などの特徴は一切確認することができない。
これはおそらく、あの魔物たちがより穢れに染まってしまっている、と言うことなのだろうけれど……。
しかしあえて、別の視点から考えて見ると、だ。
あの姿はまるで――この先に出てくる魔物たちの情報を隠し、ネタバレ対策をしてくださっているかのようにも、思えてしまうのは……たぶん、私だけではないと思う。
「ふふっ――おっと、和んでいる場合ではありませんでした」
つい場違いにも、ありがたさと微笑ましさに笑みを零してしまったが、ここは十分手強い魔物たちが周りを取り囲む、戦場なのだ。
少しばかり周囲が氷像と化して静かになっているからと言って、油断してはいけない。
まずは、近くにいる見慣れた魔物たちから、コツコツと倒していこう!
「みなさん、お疲れの時は教えてくださいね。ご無理はなさらないように」
『はぁ~~い!!!!』
頭上で円を描く小さな四色の精霊さんたちの、まだまだ元気いっぱいの返事に微笑み――戦闘、再開!
近寄って来たラファールウルフたちや、ラファールディアーを再び凍結や毒や麻痺状態にしながら、ゆっくりと周囲を切り拓くように魔物たちを倒していく。
一見すると、魔物たちはまるで一つの軍勢のように、群れて迫ってきているように見えるが、その実しっかりと観察をすれば、それが烏合の衆であることが分かる。
異なる種族が高度な連携技をしかけてくることもなく、問題なく各個撃破に近しい状態での殲滅が可能な現状は、正直なところ殲滅する側としてはありがたい。
結果的に、想定よりも余裕の状態で、戦闘の合間に落ち着いてポーションをのむことさえ出来ている。
それでも、決して相手の魔物たちが弱いわけではないため、油断だけはしないようにと気を引きしめて、少しばかり前方へと進んだ……その時だった。
頭上からやけに大きく聞こえた風切り音に、ハッと顔を上げ、反射的に地面を蹴って後方へと下がった、次の瞬間――ザシュッと地面をえぐった風の刃の攻撃に、思わず口元が引きつる。
〈恩恵:シルフィ・リュース〉によって、風の精霊さんたちが風切り音を届けてくださったからこそ、かろうじて避けることができたが……これは。
「なるほど……天空の魔物からの攻撃、ですか!」
理解を言葉で紡ぎつつ、真後ろから襲いかかってきたハイアーラファールウルフの一匹を吹雪かせた細氷の攻撃で凍結させ、さらに十八本の雷の矢を放って残りのウルフたちも殲滅する。
さいわいにも、頭上から時折飛んでくるとおぼしき風の刃は、おそらく創世の女神様の守護によって無効化され、生命力を削られる事態にはならないだろう。
……とは言え、さすがに死角からの攻撃には危機感をいだくもの。
周囲の魔物たちだけではなく、頭上の魔物たちにも攻撃魔法を飛ばすことを、忘れないようにしよう。
静かに胸の内に戦意を灯しながら、不敵に笑む。
まさしくこの場所こそが――私にふさわしい戦場だと、そう思った。




