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【PV・文字数 100万越え!】マイペースエルフのシードリアテイル遊楽記  作者: 明星ユウ
三章 はじめての公式イベントを楽しもう
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三百五十五話 [穢れの魔物討伐戦 栄光なるシードリアの迎撃]

 



 高揚と好奇心を抑えることなく、普段より早く昼食後のログインをすると、すぐにぽよぽよと胸元で跳ねる小さな感触が連なった。


『しーどりあ、はやくかえってきた~~!!!!!』

「おや、全員おそろいですね。ただいま戻りましたよ、みなさん」

『うんっ!!!!! おかえり~~!!!!!』


 可愛らしく、今度はぴたっと胸元にくっついた、小さな五色の精霊さんたちについ口元をゆるめながら、ベッドから身を起こす。


 石造りの宿部屋の中には、窓から夜明けの光が美しく射し込んでいた。

 水色のローブと金から白金へと至る長髪をゆらして立ち上がり、右手の手飾りや左手の装飾品が、薄青の光に煌くのに緑の瞳を細め――いつもの準備を開始する。


 小さな多色と水の精霊さんたちに、二つの精霊魔法〈ラ・フィ・フリュー〉と〈アルフィ・アルス〉の持続展開とかくれんぼをお願いして、美しい多色と青の小さな姿が隠蔽されたのを見届けた後。


 今回は、先のレベル五十到達時に、スキル《並行魔法操作》が昇格した結果、魔法が同時に七つ並行発動できるようになったことを考えて……。

 〈オリジナル:風をまとう石杭の刺突〉と〈オリジナル:麻痺放つ迅速の並行雷矢〉を発動して一段回目で止め、《隠蔽 五》にて隠すことにする。


 最後に、いつもの〈オリジナル:見えざる癒しと転ずる守護の水風〉を展開し、かすかな風が長い髪をゆらす様子を確認して、準備は完了だ。


「それでは、いよいよ目前となりました大規模戦闘がはじまる前に、神殿にてお祈りをいたしましょう」

『はぁ~~い!!!!!』


 小さな五色の精霊さんたちへと告げ、元気な返事を聴きながら宿部屋を出ると、足早に職人通りを抜けて神殿へと向かう。


 たどり着いた神殿内は、普段よりいくぶんシードリアのかたの姿が多く、それだけパルの街からトリアの街へと拠点を替えたかたや、公式イベントに興味のあるかたが多いのだろうと思考を巡らせる。

 人々の間をぬって移動し、それぞれの神々のお祈り部屋にて、《祈り》と共に勝利への意気込みをしっかりと捧げ。


 そののち、大通りの石畳を再び鳴らし、中央の噴水広場へと戻ってきた。

 公式イベントがはじまるまで、この場で心を落ち着けて、待機することにしよう。


 にぎやかな広場の中、端により、静かに瞳を閉じて深呼吸をすること数回。

 パァッと夜明けの時間から、朝の時間へと移り変わり、小さな闇の精霊さんが姿を消すのを見送った後、またそっと瞳を閉じて、深呼吸を一つする。


 今の時間は、ちょうど現実世界の時間で十三時、すなわち公式イベント開始時間を少し過ぎた頃だろう。

 そう思った――次の瞬間。


 ゴォォン、ゴォォン……と、低い鐘の音が二回、脳内ではなく、空から響き降ってきた!


 何事かと、思わず顔を上げたのは、周囲にいた他のシードリアのかたがただけではなく、屋台で商いをしていたノンプレイヤーキャラクターのかたがたも一様に、いぶかしげに空を見上げている。


 素早くそれらの様子を観察し、しかし晴れた朝の空には特に異変はないと、多くのかたがたが首をかしげる動作まで眺めて。

 刹那、肩と頭の上に乗っていた小さな四色の精霊さんたちが、ひゅんっと慌てた様子で眼前へと飛び出してきて、あわあわと左右にゆれながら、不安を伝えてくださった。


『しーどりあ!!!! おそらのうえが、たいへんたいへんっ!!!!』

「えぇ。――どうやら、そのようですね」


 同時に眼前へと突如現れた灰色の石盤に、さらさらと刻まれていく文字を視線で追い、慌てる小さな四色の精霊さんたちへ冷静に言葉を返す。


 [今この時から、来たる厄災に抗うため、すべてのシードリアに参戦を願います。

 以降は、この石盤に刻まれる文字の導きのもと、あなたがたの意思を示してください。

 穢れの魔物討伐戦 栄光なるシードリアの迎撃 に、参戦しますか?]


 そう刻まれた文字を読み終え、フッと自然に口角が上がる。

 いよいよ――公式イベントの、幕開けだ!

 湧き上がる高揚を抑えつつ、改めて眼前でそわそわとしている小さな四色の精霊さんたちへと、確認を問う。


「みなさん。戦いの準備は、よろしいでしょうか?」

『うんっ!!!! まかせて!!!!』

「分かりました。それでは……」


 すぐさま返された頼もしい応えに、石盤に刻まれた文章の下に書かれた[参戦する]の文字を指先で押す。

 とたんに、ワープポルタの時と同じ蒼い光に視界をうばわれ、反射的に胸が高鳴った。



 一瞬の浮遊感と、ヒヤリと頬を撫でた冷ややかな風の感覚。

 そして……耳に届く、他のシードリアの声よりも明らかに多く重なって聞こえる、魔物たちのうめき声。

 ゆっくりと開いた緑の瞳に映った光景は――文字通り、大地と天空を埋めつくすほど、多種多様な魔物たちが前方と上空でうごめく姿だった。


 脅威的な光景に反して、不思議と恐怖はない。

 おそらくは、いつの間にかぽかぽかと身体の輪郭をあたためている、この淡い金の光……創世の女神様の守護の、おかげだろう。


 前に人の姿がない最前列から、チラリと見やった左右と後方に立つ他のシードリアのかたがたも、一見して圧倒的な脅威だと感じるはずの魔物の大軍が眼前にいるにしては、ずいぶんと落ち着いていらっしゃる。

 ……いや、落ち着いていると言う表現は、さすがに穏やかすぎたかもしれない。

 なにせ、私も他のみなさんも――恐怖はないが、戦意は充分にあるのだから!


「……これを、武者震いと言うのでしょうかね」

『まものたち、たおす~!』

『いっぱいいても、まけないよ!』

『しーどりあと、いっしょにたおす~!』

『ぼくたち、まけない!』

「――えぇ」


 そうだ――負けるわけにはいかない。

 反射的に、強く、そう思った。

 刹那、灰色の石盤が再び眼前に開き、この先の導きとなる言葉を刻む。


 [栄光なるシードリア、わたくしの愛し子たちよ。

 これは、厄災から世界を護るための戦い。その最初の一戦。

 どうか、穢れた魔物のすべてを――あなたがたの力で、倒してください]


「御心の、ままに」


 刻まれた創世の女神様の言葉に、両手を胸の前で祈るように組み、小さくそう呟く。


 この戦いは、創世の女神様の願い……厄災を防ぐための、第一戦。

 かつての厄災がむしばんだ歴史を、ほんの少し垣間見ただけでも、それがいかに大地や天空で生きる多くの存在にとって脅威であったのか、想像くらいはできる。

 そしておそらく、今回の戦いの結果次第では、この先私たちシードリアにとっても決して、他人事ではないのだろう、と言う予想もできた。


 であれば、私ははじめて事前情報を見た時から、すでに定められていた役割のとおり、創世の女神様の願いのとおりに。

 あるいは、この好奇心のままに――穢れた魔物を、完膚なきまでに、殲滅するのみ!


 フッと口元にうかぶのは、もはや慣れ親しんだ不敵な笑み。

 丘の上とおぼしき、少し高台になったこの場所から、下った先の前方と頭上にうごめく魔物たちを、静かに睥睨して、戦意を言葉にする。


「さぁ――殲滅戦を、はじめましょうか」


 開いたままの石盤の中、黙々と進んでいたカウントダウンの数字が、やがて……残りの十を、刻みはじめた。




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― 新着の感想 ―
[良い点] おぉ〜っ遂に!遂に公式大規模戦闘イベントの開幕ですね✨ロストシードさんも精霊さんたちも、そして他プレイヤーの方々も気合い十分ですね♪ 一体どの様なイベントになるのか…次回も楽しみです♬
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