三百五十三話 飲みながら戦法と最終確認
※戦闘描写あり!
またたく間に移り変わった、深夜の時間の闇色に染まる砂利道の端で、ひとしきりスキルの昇格や新しいスキルの習得を、喜んだのち。
冷静になってきた思考で、現状まだ残っている不安要素を呟く。
「並行発動できる魔法数の増加、隠蔽数の増加、それに魔力の安定性の固定……は、素直に戦闘の際に役立てるとしまして。――魔力消費だけは、おそらく自然回復分だけで完全に補うことは、難しいでしょうね……」
なにせ、今回の公式イベントのメインとなる内容は、大規模戦闘。
連続して、しかも数多くの魔物と戦う展開は、私のみならず多くのシードリア……もはや大半のプレイヤーが想定していることだろう。
そして残念ながらその場合、いくら魔力が自然回復したところで、消費する量のほうが多くなってしまうこともまた、容易に想像できる。
たださいわいにもこのような、戦闘中に魔力不足におちいった場合の対処法には、おぼえがあった。
それは以前、サロン【ユグドラシルのお茶会】に、シルラスさんとステラさんが参加してくださった後の、歓迎会の一幕で得た知識。
サロンのみなさんが習得したオリジナル魔法を、私に披露してくださったあの時、まさしく魔力不足という問題に関して、ステラさんが考えてくださった、とある名案――。
今回の大規模戦闘での魔力不足を解決するため、あの名案を採用しようと、思い至った。
それは、方法としてはしごく単純なもの。
足りなくなった魔力を回復したいのであれば……魔力回復ポーションを飲んで、回復してしまえば良い! と言うものだ。
――とは言え、実際には戦闘中にポーションを飲む必要があるため、口で語るほどには簡単ではないだろう、とも思う。
この戦法が、いったいどれほど難しいものなのか。
こればかりは、実践にて確かめてみるしかないだろう!
「みなさん。少々試してみたい戦法がありますので、トリアの森まで戻りますね」
『はぁ~~い!!!!』
小さな四色の精霊さんたちの元気な返事を合図に、素早く帰路を駆け抜ける。
ラファールディアーを振り切りながら砂利道を下り、麓のラファールウルフとの戦闘も回避して、樹の枝の上を渡りながらトリアの森の中を移動したのち。
比較的森の浅い場所で、六匹共にこちらを見上げた、風の流れのような銀の模様を緑の毛並みに描く狼姿の魔物、ハイアーフォレストウルフと対峙する。
安全面を考え、念のためラファール高山の広場にいるハイアーラファールウルフではなく、すでに戦い慣れているこの魔物たちにて、新しい戦法を試すことにしたのだけれど……果たして、どのような結果になるか。
今回のお試しの目的は、端的に言ってしまうと、戦闘中にポーションを飲む余裕をつくることができるのか、という部分の確認だ。
さいわい、私の場合は攻撃系のオリジナル魔法をいろいろと習得しているため、詠唱することなく魔法による牽制も可能で、基本的には安全な状態を確保しつつ、ポーションを飲むことが出来る、はず。
フッと不敵な笑みをうかべ――命名、飲みながら戦法、お試し開始!
「〈ラ・アルフィ・アプ〉!」
小さな水の精霊さんたちが、水飛沫を放って攻撃をする精霊魔法を詠唱して、ひらりと枝の上から意図的に地面へと降りる。
ぱっと姿を現した、小さな水の精霊さんたちが放った水飛沫を、一匹のハイアーフォレストウルフがうけると同時に、残り五匹の狼たちがいっせいにこちらへと飛びかかってきた。
それを、〈瞬間加速 二〉を発動し、姿勢を低くしてかいくぐり避けたところで、カバンから素早く魔力ポーションを取り出す。
小瓶の栓のようになっている蓋を抜き……再び襲いかかってきた五匹の狼たちの鼻先へ、〈オリジナル:大地よりいずる土の盾〉を発動!
突如出現した大きな土の壁に、狼たちがぶつかる鈍い音が連続して響く中、サッとポーションを飲みほした。
ポーションの量は、意識すれば三口分ていどで、飲むこと自体の時間は一瞬。
これならば――なんとか、飲みながら戦法は可能だと、思う!
土の壁を崩し、今まさに横からこちらへと駆けてくるそぶりを見せていたハイアーフォレストウルフたちに、〈オリジナル:麻痺放つ迅速の並行雷矢〉をすぐに二段階目へと移行して計十八本の雷の矢を放ち、雷光と共につむじ風へとかえて、お試しは終了。
「ポーションを飲みながら戦う戦法を試してみましたが、一応可能ではありますね」
『ぼくたちがいっしょにたたかえば、もっとあんぜん!』
『あんぜん~~!!!』
お試しの内容を軽く精霊さんたちにお伝えすると、小さな水の精霊さんを筆頭に、みなさんが共闘をすることで、もっと安全に飲むことが出来ると伝えてくださった。
たしかに、〈フィ・ロンド〉にて一緒に戦ってくださっている間は、より安全に飲みながら戦法を活用できることだろう。
「えぇ。その際はどうぞ、ご協力をよろしくお願いいたします」
『まかせて~~!!!!』
ありがたさを感じながらのお願いに、それぞれの色の光を強めて、頼もしい返事が響く。
それに微笑みを返し、深夜の闇色に沈むトリアの森から、トリアの街へ向けての帰路についた。
優雅に草原を駆け抜け、石門をくぐった後は、少しだけ足早に石畳の大通りや噴水広場、職人通りを進み、お世話になっている賢人の宿の中へ。
静まり返った一階から、なるべく音をたてないように気をつけて二階へと上がり、自身の宿部屋へと入って、吐息をついた。
漆黒に銀点が煌く、美しい星空を切り取った窓のそばの椅子に腰かけ、改めて必要な準備がすべて終わっているか、夜空を見上げながら簡単に確認していく。
まず、事前の商品のお届けは、問題なし。
すでに商人ギルドのフィードさんとの商談は、終えている。
次に、基礎的な準備。
装備品などは変更をしないので、気にする必要はない。
消耗品の準備は、私がそろえることのできる範囲――自作の生命力と魔力の回復ポーションを、たくさんつくってカバンに入れている。
……生命力回復ポーションのほうは、実際の大規模戦闘中には、創世の女神様の守護があるため、もしかするとあまり使う機会がないかもしれないけれど。
とは言え、つくっておく分には困らないので、これはこれでよしとする。
レベルも、無事に当初の目標を超えて、五十になった。
今回の公式イベントには、適正レベルなどの表記がなかったため、正確にはこのレベルでこと足りるのか分からないものの……まぁ、さすがに大丈夫だと思う。
――ひとつ、懸念事項があるとすれば。
戦いかたそのもの、だろうか?
なにせ結局、どのような魔物との戦闘になるのかといった情報までは、いまだ開示されていない。
そのため、実際に大規模戦闘にて有効な戦いかたはすべて、予測の域を出ないのだ。
この部分に関してだけは、少なくとも現時点では、ドキドキわくわくな文字通りのぶっつけ本番、と言うことになる。
……もっとも、もしかすると公式イベント開始直前に情報開示がある可能性も、まだ否定はできず、加えてイベント開始後は、そもそも実際の戦闘体験にもとづいた情報が随時語り板などには共有されていくと思うので、特に不安はない。
そもそも私としては、事前にいろいろな戦いかたを考えておき、それを実際の戦闘にて答え合わせをする、という楽しみかたも好いのではないかと思っている。
巡らせた思考に、自然と口角が上がった。
「……ここから先は、本当に楽しむだけ、ですね」
かすかな声音で呟きを零し、さっと椅子から立ち上がってベッドへと移動する。
精霊魔法やオリジナル魔法を解除して、小さな多色と水の精霊さんたちを見送り、四色の精霊さんたちに向き直った。
「それでは、私はまた一度空へと帰ります。のちほど戻ってきた後は、再度みなさんの力をお貸しいただくことになると思いますので、ぜひ一緒に楽しみましょうね」
『うんっ!!!! しーどりあといっしょに、たのしむ~~!!!!』
「えぇ!!」
楽しげに弾む幼げな声音に笑み、両手と小さな身とでハイタッチを交わして、この後のお約束を完璧に交わしたのち。
ベッドへと横になり、少し早めのログアウトを、呟いた。
※明日は、主人公の現実世界側での、
・番外編のお話
を投稿します。
お楽しみに!




