三百五十二話 レベル五十と次なる段階
※軽い戦闘描写あり!
今回のレベル上げでは、攻略系のかたがたが多くいらっしゃるだろう広場までは行かないことにして、砂利道を行ったり来たりと移動しながら、ラファールディアーとの戦闘を繰り返していく。
このほうが、星魔法を気楽に発動できるため、レベル上げついでの訓練にもなる。
そうして、宵の口、さらには夜の時間をすぎても戦闘をつづけた結果――。
もう何頭目か、すっかり数えるのをやめた銀色のつむじ風を見送り、とたんにリンゴーンと響いた鐘の音と、つづいた二種類の効果音に、反射的に口角が上がった。
眼前に現れて光る文字をあえて確認しないまま、一度〈フィ・ロンド〉を解除して、ささっと素材を回収し、砂利道の端によった後。
灰色の石盤を開いて、まずはと確認した基礎情報のページには、しっかりと[レベル五十]の文字が光っていた!!
「レベル五十、到達です!!」
『わぁ~~!!!! おめでとうしーどりあ~~!!!!』
思わず上げた歓声に近い目標達成の言葉に、頭上から眼前へと降りて来た小さな四色の精霊さんたちが、そろってお祝いの言葉を響かせてくださり、つい嬉しさで頬がゆるむ。
「ありがとうございます、みなさん! みなさんが一緒に戦ってくださったおかげですよ!」
『えへへ~~っ!!!!』
お礼にとみなさんへの感謝を紡ぐと、これまた嬉しげにくるくると舞う姿が夜に映え、その美しさにほぅ……と感嘆の吐息が零れた。
公式イベントの直前に、レベルを五十まで上げることができた点は、準備の最終段階としては上出来だと思う。
満足さに笑みを深め、次いでレベルアップの効果音につづけて鳴っていた、スキルや魔法が昇格したことを示す鈴の音の、その内容を確認していく。
どうやら、今回昇格したのは三つのスキルだったようだ。
「[《自然自己回復:魔力》]は、種族特性に含まれているスキルですね! ええっと……回復力が、上の下から、上の中に上がりましたか」
『まりょく、いっぱいかいふくする~!!!!』
「えぇ。魔物との連戦の際には、たいへんお世話になること間違いなし、です」
『うんっ!!!!』
楽しげにふわふわと石盤のそばで小さな身体をゆらす、可愛らしい精霊さんたちに癒されつつ、必ず公式イベントでその便利さを発揮してくれるだろうスキルの昇格に、口角を上げる。
――そう、まさしく、大規模戦闘では役立つに違いない、と!
現状でさえ《効率魔法操作》を習得してから、すべての魔法の魔力消費と魔法操作の発動が効率的なものに調整できているため、魔力量の消費をさして気にする必要がないのだ。
その上、今回の昇格にて、自然と回復していく魔力の量や回復速度が一段階上がったのだから、その素晴らしい結果はもはや語るまでもないだろう。
事実上、これでより多くの魔法を連発して戦える土台が、整ったことになる。
さらにもう二つのスキルの昇格も、実にありがたいものだった。
[《並行魔法操作》]
[魔法操作の一つで、複数の種類の魔法を同時に発動する。スキルの熟練度にともない、同時に発動できる魔法の数が増加する。現在は七つの並行発動が可能。能動型スキル]
[《隠蔽 五》]
[《隠蔽 四》の昇格により習得。精霊魔法・属性魔法・身体魔法の発動にともなう痕跡を五つ隠す。決闘およびイベント時の集団戦では使用不可。能動型スキル]
そう書かれた二つのスキルの昇格に、うっかり拳を星空へと突き上げる。
喜びに上げた勝利の宣言だけは、脳内ですませたものの……かなりテンションが上がったことは否めない。
私が振り上げた右手の拳の上に、次々と乗ってくる小さな四色の精霊さんたちを落としてしまわないように、ゆっくりと腕を下ろしながら、少々不敵な笑みをうかべた。
並行してあつかうことができる魔法が、七つに増えたことと、隠蔽できる魔法が五つに増えたこと。
どちらもそれこそ、普段待機させておく魔法の選択肢さえ増える、まさに魔法使いとしての私の在りかたの可能性を、広げてくれるような昇格だ!
「やはり、並行発動できる魔法の数と、魔法の痕跡を隠すことの出来る数は、大切ですよね!!」
『たいせつ~~!!!!』
小さな四色の精霊さんたちも大切だと言っているのだから、この二つはたしかに私にとって大切なスキルに違いない!
ほくほくと、喜びで胸があたたかくなるような感覚に微笑みながら、最後に残していた新しくスキルや魔法を習得したことを示す、しゃらんと鳴った効果音の内容を探し――見つけたそのスキルの名前に、ぱちりと緑の瞳をまたたいた。
「[《安定魔力 一》]?」
ぽつりと零した疑問の言葉を置き去りにして、視線で説明文を読み進める。
[現在の自身のもっとも安定している魔力を基準として、魔力の安定性を一定値固定する。常時発動型スキル]
魔力の安定性を、固定する……と言うことは!?
はっと反射的にのみ込んだ息を、驚愕と共に言葉に変える!
「これはつまり! 変動する魔力状態によって魔法が不発する可能性が、減ると言うことですね!?」
『おぉ~~!?!?』
私の喜び混じりの驚愕に、四色の精霊さんたちまでつられて驚いていらっしゃる様子が、たいへん愛らし……いや、落ち着こう。
精霊さんたちが可愛らしいという事実は、なにも今にはじまったことではなく、かつ今重要なのはさすがにこの新しいスキルのほうだ!
一度ふるりと首を横に振って、意識を引き戻す。
「安定した魔力状態を保つことが出来ると言うことは、当然それにともなって、発動しようとした魔法が不発となる機会を、少なくできると言うこと……! なんと私にとって理想的なスキルでしょう!!」
『しーどりあがよろこんでる~~!!!!』
「はい! とても嬉しいです!!」
『わぁ~~いっ!!!!』
ひゅんひゅんと綺麗に飛び交う精霊さんたちに笑顔を返し、確信に近い解釈に、心を弾ませる。
必ず魔法を発動させるために、現状もっとも必要だと認識している要素こそが、魔力の安定性だったのだ。
《安定魔力 一》は、現時点ですでに安定した魔力状態を常時固定化してくれているだけではなく、さらには一という数字が示す通り、まだこの先の伸びしろもある。
それはすなわち――これで、私が理想とする不発知らずの魔法使いに、また一歩近づけたのではないだろうか?
そう解釈してしまっても、好いのでは!?
今、この胸の内と共に、緑の瞳と表情が輝いていることだけは、間違いない。
私は今回、自身の理想とする魔法使いを目指す過程で、まさしく次なる段階に進んだことを示す、最高のスキルを習得したと言えるだろう!!




