表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【PV・文字数 100万越え!】マイペースエルフのシードリアテイル遊楽記  作者: 明星ユウ
一章 はじまりの地は楽しい誘惑に満ちている
35/440

三十四話 小さな精霊が導く交友

 



 スキル《瞬間記憶》で本の内容を頭に入れた後、一冊の本を持って薄緑の蔓で作られた机と椅子のもとへ行き、ようやく腰を下ろす。

 机の上に丁寧に置いた[精霊との交友と精霊魔法]と書かれた本の、その緑の古ぼけた表紙を優しくひと撫でして、納得を吐息にする。

 クインさんが勧めてくれた通り、私がクインさんへ投げかけた質問の答えは、この本の中にあった。

 ぺらぺらとページをめくり、その個所を開く。


『ぼくたちのほん~!』

『ぼくたちのことがかいてるよ~!』

「えぇ。この本には、みなさんのことがたくさん書かれていました」


 精霊のみなさんの言葉に、深いうなずきを返す。

 なぜ、私は早くから精霊のみなさんと交流することができたのか?

 その疑問に対する答えは、案外単純と言うか、素朴なものだった。

 ――いわく、[より幼いころから多く交流を持った者に、精霊は親しむ]と。

 そう書かれており、そこでようやく合点がいった。

 この大地に生きている、いわゆるノンプレイヤーキャラクターのエルフたちと、私たちシードリアたるプレイヤーの決定的な違いは色々とあるが、誕生の仕方もその中に含まれる。

 なにせ、私たちシードリアが産声を上げた時というのは、この大地で目醒めた瞬間、という扱いなのだから。

 そこから導き出されるのは、生まれたてほやほやに違いないシードリアの中でも、本当に出会った次の瞬間に、私が水の下級精霊さんと交流をしていたという事実。

 生まれてすぐに精霊のみなさんとの交流をはじめたことで、いち早く仲良くなれたのではないか、という答えだった。

 少なくとも現時点では、あくまでこう仮定しておく。


「みなさんと仲良くなることができて、本当に良かったです」


 三色の下級精霊のみなさんを見つめ、頬をゆるませながら穏やかな声音でそう語ると、すぅっと水の下級精霊さんが近づいてくる。

 小さな四枚翅がぱたぱたと動き、次いで幼げな声が響いた。


『ぼくたちのこと、もっとおしえてあげる!』


 その言葉にぱちりと瞳をまたたくと、水の下級精霊さんはふよふよと、風と土の下級精霊さんを伴って蔓の本棚へと向かって行く。

 その小さな光を追いかけて腰を上げ本棚へと近づくと、たしかに先ほどまではなかった場所に、タイトルが書きこまれた本があった。


「[精霊言語解説録]……?」


 背表紙の文字を読み上げ、それからはっと閃く。

 聞き取りと発話、つまり会話としての《精霊言語》は、エルフとしての種族特性により問題がない。

 解説を必要とするほど、下級精霊のみなさんの言葉が意味不明な表現であるかというと、当然それも違う。現に今まで問題なくやりとりができているのだから。

 ……であれば、解説に当てはまるたぐいの言語は、残り一種類のみ。


「まさか、これは精霊魔法の魔法名……詠唱に使われている言葉の解説録ですか!?」


 自身で思うよりも大きく驚愕に満ちた声が出て、あわてて口を閉じる。

 しかし、そんな私の様子を気にした様子もなく、三色の精霊のみなさんはくるくると嬉しそうに舞って答えてくれた。


『そうだよ~!』

『ぼくたちのまほう、ぼくたちのことばだから!』

『ぼくたちのこと、もっとわかるよ~!』

「なんと! 教えてくださりありがとうございます、みなさん!」


 高揚感のままにお礼を告げると、きゃっきゃと喜ぶ声が書庫に木霊する。

 さっそくと本を棚から抜き出し、《瞬間記憶》で覚えると、どうやらこの本は精霊魔法に使われている言葉と、普段話している言葉とを照らし合わせた辞書のようなものらしい。

 興味深さに、口角が上がる。

 先ほどの[精霊との交友と精霊魔法]の本には、いくつかの私がまだ習得できていない精霊魔法が書かれていた。

 辞典のようになっているこの解説録と、すでに習得している精霊魔法、そして交友と精霊魔法の本の中に書かれていた精霊魔法を見ることで、ある程度の魔法名の意味が分かるのではないだろうか!

 いや、すでに一つは簡潔に解説されていた。

 フィとは、精霊の意。

 精霊のみなさんへの声かけをし、助力を願う最初に習得した精霊魔法の〈フィ〉は本当に精霊よ、と呼びかけていたのだと書かれており、一気に高揚する。

 本を持ったまま机へと戻り、夢中で文字を照らし合わせ、〈ラ・フィ・フリュー〉が小さな精霊のささやき、〈恩恵:シルフィ・リュース〉が風の精霊の音届け、という意味であることを確認したところで、我に返った。

 解説録により精霊魔法の魔法名の意味が分かることは、たしかに精霊のみなさんをより良く知るということに繋がる。

 交友を深めるためにも、何より私自身の若干学者気質な部分を刺激する好奇心を満たすためにも、この言語理解のための照らし合わせは素晴らしい行動だ。

 とは言え、時間はこの大地の上でも有限である。

 他にも試したいことがあったのを思い出し、小さな三色の精霊のみなさんに向き直った。


「みなさん。素晴らしい解説録の内容はしっかりと記憶しましたので、今後じっくりと言語理解とみなさんについての知識を深めて行きますね」

『わ~い!』

『やった~!』

『いっぱいしってね~!』


 素直に喜んでくれる精霊のみなさんに、微笑み大きくうなずきを返す。

 これからは、精霊魔法の言葉の意味を調べるだけではなく、より精霊のみなさんのことを知ることができるだろう。

 深まる交友の予感に、自然と笑みが広がった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] わぁ〜思わず3話の精霊さんとの出会いを読み返して来てしまいましたぁ(´∀`*)やはり最初のご挨拶が大事…!からのつんつんでしたね♡ ひたすら癒されております〜✨
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ