三百四十四話 最前線の狩り場にて
※戦闘描写あり!
銀色の牡鹿の魔物を倒し、銀の魔石と銀の角を回収しつつ、上へとラファール高山の登山道めいた砂利道を登って行く。
すでに時間は夜から深夜へと移り変わり、さらに少し経った頃。
唐突に眼前の砂利道が広がり、平らな拓けた場所が現れた。
思わずかすかに緑の瞳を見開いたのは、まるで広場のようなその場所では、鮮やかな戦闘があちらこちらで繰り広げられていたから。
麓の銀狼より一回り大きな六匹一組の銀狼の魔物たちを相手に、パーティーを組んでいるとおぼしき攻略系のかたがたが、綺麗な連携技で応戦している。
『つよいしーどりあ、いっぱい~!!!!』
「えぇ……お邪魔にならないよう、少し離れた端のほうへまいりましょうか」
『はぁ~~い!!!!』
他の強いシードリア――攻略系プレイヤーのかたが多くいらっしゃることが気になるのか、どこかそわそわとした雰囲気を放つ小さな四色の精霊さんたちが落ち着けるように、広場の端へと場所を移す。
次いでもう一度周囲をよく観察し、はたと気づいた。
攻略系のかたがたが、パーティーを組んで戦っていらっしゃること自体は、今さら不思議には思わない。
しかし……それが数組も、となると、少々お話が変わってくる。
その事実に、自然と背筋が伸びた。
「もしかしなくても……ここが、今の最前線の狩り場、ですかね?」
思わず小さく零した呟きには、疑問をふくませてみたものの。
どう考えても――もはやそうとしか思えなかった。
なにせ、一目見ただけでも、トリアの森やラファール高山の麓の比ではない数のパーティーが戦っている。
さらに言えば、振るわれる剣の動作や放たれるオリジナル魔法が、明らかに今まで拝見したどの攻略系とおぼしきかたがたよりも、洗練されて威力のあるものなのだ。
それはつまり、今ここで戦っていらっしゃるかたがたこそが、最前線を切り開くような、攻略系でも最先端を行くいわゆる本物のトッププレイヤーなのではないか、と。
どうにもそう思えてしまい、じわりと好奇心が胸の内ににじんだ。
当然、この解釈が正しいとは限らず、さらには一口に攻略系と言っても、上には上がいるものだと言うことも分かってはいる。
しかし、それはそれとして、本当にこの場所が最前線の狩り場であるのならば。
――腕試しの一つや二つくらい、挑戦してみることもまた、一興だろう!
見たところ、この広場やさらに上へとつづく砂利道は、大銀狼たちの縄張りらしく、そのためこのあたり一帯を狩り場として、攻略系のみなさんは戦闘をおこなっている。
当然、さきほどまで私が歩いてきた下側の砂利道には、ぽつりぽつりと銀牡鹿の魔物たちがいるため、今私がいる場所はちょうど二種類の魔物と交互に戦うことも可能な場所になっていた。
一応目標のレベルには到達しているものの、すでにこの山登りモドキにて、さらにレベルが上がっていることもまた事実。
せっかく攻略系のかたがたも狩り場にしているのだから、しっかり腕試しもふくめて――私ももう少し、この場でレベルを上げよう!
フッと不敵な笑みをうかべ、しかしここではさすがに人目がありすぎるため、まずは少々自重しての戦闘を開始する。
さっそくと腕試しの相手に選んだのは、近くにいた六匹一組の大銀狼。
攻略系のかたがたのどなたも、まだ戦闘をはじめていなかったその六匹へと近づき、赫い炯眼と静かに見つめ合う。
『グルルゥ……』
動かない私に対して、低いうなり声を上げる大銀狼たちは、じりじりと私を囲うように移動し、最終的には綺麗な円形状に並んで、私を包囲した。
囲まれた私へと、一番近くで戦いを終えたばかりの攻略系のかたがたが、気にかけるような視線を送ってくださるのに対し、にこりと優雅に微笑みをお返しして、大丈夫であることをお伝えする。
えぇ、なにせ――周りを囲まれたていどでは、敗因になりはしないのだから。
正面の大銀狼が、スッと赫い炯眼を細める姿に、フッと不敵な笑みを返して――刹那、〈オリジナル:吹雪き舞う毒凍結の花細氷〉を周囲へと発動!
ぶわりと吹雪いた細氷と毒のある花弁や葉が、私を包囲していた六匹の大銀狼をまたたく間に包み込み……吠え声一つ響かせる間も、逃げの一手を選択する間さえも与えることなく、凍結させた。
冷ややかな氷のみならず、薄い紫色のもやと化した毒までまとわりつき、大銀狼たちの生命力をじわじわと削る中、油断せずに追加の攻撃を次々と放つ。
《隠蔽 四》にてはじめから隠した状態で、〈オリジナル:昇華一:風まとう水渦の裂断〉を発動し、すぐさま二段階目へと移行。
七つの風をまとう薄い円盤状に渦巻く見えざる水の渦が、キィンと氷とあわさる涼やかな音を立て、攻撃と共に凍結をより強固にする。
さらには元々隠して展開し、待機させていた〈オリジナル:風をまとう石杭の刺突〉を二段階目へと移し、これまた見えざる七つの脅威となって、氷漬けになった大銀狼たちへと突き刺さり、銀色の体躯をつむじ風へと変えてかき消した。
『しーどりあ、やっぱりつよ~い!』
『わぁ~! つよいまものにかった~!』
『しーどりあ、すごいすごい~!』
『まものより、しーどりあがつよ~い!』
「ふふっ。ありがとうございます、小さな精霊のみなさん」
周囲に落ちて煌く、銀色の魔石と銀色の毛皮を手で拾ってカバンに入れつつ、小さな四色の精霊さんたちからのお褒めの言葉に、笑顔で感謝を伝える。
ふと視線を感じたほうを見やると、大銀狼の魔物たちとの戦闘がはじまる直前で、私を気にかけるような視線をくださった、攻略系のかたがたの視線だった。
六人が集っているらしきそのパーティーでは、半数が少しだけ驚いた表情を、残り半数がどことなく楽しそうな表情で、こちらを観察していらっしゃるご様子。
振り向いたついでに、ふわりと穏やかな微笑みをお返しして、すぐに下側の砂利道へと移動する。
元々、攻略系のみなさんのお邪魔にならないような形で、この狩り場で共にレベル上げをさせていただくつもりだったのだ。
私が気を引いていては、あのかたがたの戦闘がとどこおってしまいかねない。
そうならないためにと、しばし銀牡鹿の魔物と下側の砂利道で戦い、時折広場へと上がってきて、端のほうにいる大銀狼の魔物たちと戦う、と言う形で戦闘をおこなうことにした。
ついでと言っては失礼だけれど、自身の戦闘の合間に、攻略系のかたがたのオリジナル魔法を拝見することも忘れずにおこなう。
実にさまざまな属性、形、威力や効果のオリジナル魔法が、広場の中では飛び交う光景に、思わず心が躍った!
銀と紫の二色に彩られた旋風は、風と雷の複合魔法だろうか?
巨大な氷の柱のような杭が地面から突き出す様は、美しくも圧倒される!
橙色の矢はもしや、火の魔法では……!?
そうして、ついつい攻略系のかたがたのオリジナル魔法に心奪われる中で、一点だけ気になったことがあった。
それは、どうにも……私のオリジナル魔法の威力が、あの魔法たちに劣っているようには見えない、という点。
――私は、攻略系プレイヤーではないのですが??
この疑問に対し、自然とうかぶ脳内の疑問符を消し去るだけの答えは……あいにくとまだ、思いつかなかった。




