三百三十八話 星魔法事情の変転と評価の可能性
みなさんの公式イベントの参加予定を聴き終えたことで、そこはかとなく満足さを感じた後、次いではたと、念のためステラさんにお伝えしようと思っていたことを思い出した。
「そうでした。ステラさん、少し内緒のお話が……」
「ないしょの、おはなし?」
「えぇ」
ふわりと微笑みながら席を立ち、他のみなさんから離れた位置で、こっそりとステラさんに今回の戦いでは星魔法が特別強い攻撃になることと、今回のイベントがはじまった後はもう星魔法を秘密にしておく必要はないことを、お伝えする。
コクコクとうなずくステラさんと笑顔を交わし、私たちの秘密のお話をあえて気にせず会話をつづけてくださっていたみなさんのもとへ戻り、席に着く。
シルラスさんだけは、薄緑の瞳を私へと注いでくださったので、少しだけお茶目な笑みをお見せする。
ふっと小さく口元をゆるめたシルラスさんには、おそらく私がステラさんに星魔法のことをお伝えしたのだと、察していただけたことだろう。
――喜ばしいか、はたまた悩ましいかはともかくとして、今回の公式イベントの開催にともない、星魔法の事情は変転したと言っても過言ではない。
なにせ、公式イベントに関する情報の一部として星魔法の名が出た以上は、オリジナル魔法同様、これからは公然と星魔法をお披露目していいと、公式から許可が出たということなのだから。
つまり、これにて今まで常に星魔法につきまとっていた、いわゆるネタバレ問題は解消されたわけだ。
ステラさんにこれからは星魔法を秘密にしなくていいと告げた理由は、まさにこの情報開示があったからこそ。
その点は、常に周囲の人目を確認した上で星魔法を使っていた私としては、正直ありがたい。
……が、しかし。そうは言っても、だ。
現状、名前が知れ渡るだけで習得できるほど、果たして星魔法は習得が簡単な魔法なのかと言うと……残念ながら、謎が残る。
もし仮に、これから先、星魔法を習得したいと希望するかたがいたとして、そのかたへ習得に必須である〈星の詩〉や星の石の場所などの情報を、お伝えすること自体は不可能ではない。
けれども困ったことに、それ以外の条件はいまだに、よく分かっていないのもまた、星魔法の問題点として残っている。
必要なレベルや、前提とするスキルがあるのか。
そもそも、エルフの里の場合ならば大老アストリオン様との出逢いのタイミングさえ、もしかすると何かしらの条件があるのかもしれない。
当然、他の種族のかたがたに星魔法の使い手がいらっしゃるとして、そちらはどのように習得する流れがあったのかも、現時点では私には分からないことだ。
一瞬、独特な一文目からはじまっていた、星魔法について書かれていたとおぼしき語り板の存在を思い出したが、あの語り板だけではおそらく、まだ情報としては足りない可能性が高い。
星魔法を習得するための情報に関しては、もはや今後集まっていくことを、願うしかないだろう。
そう、つらつらと思考しながらも、みなさんの会話にはしっかりと耳をかたむける。
「ログインをしておくだけで、評価になるのはありがたいよね」
「とても素敵なお考えだと思いますわ!! 天の果ての神々に、感謝ですわね!!」
「ホント、助かるよな~!!」
「ありがたいですね……!」
「ログインなら、わたしもできる!」
「良かったな、ステラ」
「うんっ!」
今回のイベントでは、最低限のログインをするだけでも評価が与えられるため、報酬をもらうことができる、という事実の確認をしながら笑顔を咲かせるみなさんに、私も自然と口角が上がった。
「大規模戦闘に参加するだけではなく、今までの日々と同じように、冒険やものづくりをおこなうことで評価が与えられるという点は、本当にありがたいことですね」
「――そうか。兄君であれば、装飾品やポーションを作るだけでも、評価の対象になるのだな」
「えぇ。おっしゃる通りです」
穏やかに紡いだ言葉に、納得の響きを乗せたシルラスさんの言葉がつづき、その通りだと肯定を返す。
と、ふいにフローラお嬢様がひらりと扇子をひるがえして、口元にそえた。
「実際のところ、どのような行動が評価対象となるのか……少しわたくしたちで考えてみましょう!!」
華やかに笑ったフローラお嬢様の言葉に、私もふくめ、全員の瞳が煌く。
「良い案だね、フローラ。みんなで公式の情報を見ながら、意見を出してみよう」
かっこいい笑みを口元にうかべ、そう告げたロゼさんは、綺麗にパチンと指を鳴らしてご自身の眼前に灰色の石盤を開き、操作をはじめる。
すぐに机の上に大きく広がった石盤には、公式情報の文章が載っていた。
こうして、実際に提示されている行動の他、どういう行動が評価になるのかと語り合う議論めいた会話は弾みに弾み……。
結果、案外本当に何をしていても、この大地に降り立ち行動している限りは、評価対象になるという可能性に、改めて【シードリアテイル】の自由度の高さを感じることとなったのだった。




