三百三十七話 お茶会の優雅なイベント参加予定
引きつづきお願いした商談を今回もおこない、他の商品と共にしっかりとフィードさんご要望の腰飾りもお渡しすることが出来た。
どことなく満足気なフィードさんと別れて、商人ギルドを出た後、お次はサロン【ユグドラシルのお茶会】のみなさんにも、公式イベントのお話を聴こうと思い至り、さっそくクラン部屋へと足を向ける。
途中、朝の時間へと移り変わり、小さな闇の精霊さんとまたねを交わしてから、クラン部屋の中へ入り込むと、私をのぞくメンバー全員と視線が合った。
「あらっ! ロストシード!」
「ごきげんよう、フローラお嬢様。みなさんも、おそろいでしたか」
フローラお嬢様が上げた声に、エルフ式の一礼と共に微笑みながらあいさつを紡ぐと、一気に部屋の中の雰囲気が華やぐ。
「うん。麗しのロストシードも来てくれたから、ちょうどみんなそろったね」
「おれとシル兄とステラちゃんも、ついさっききたとこ!」
「おや、そうでしたか。では遅ればせながら……これで、全員そろってのお茶会を楽しむことが出来ますね」
「みんないっしょにいるの、うれしい!」
ロゼさんとルン君の言葉にうなずき、ルン君の左隣に座るシルラスさんの左の席へ腰かけて、上品に微笑む。
とたんに幼げなお顔を輝かせ、声を上げたステラさんの可愛らしさに、ほわっとみなさん共々、笑みが深まった。
ステラさんを間に挟んで座る、ロゼさんとアルテさんの手が小さな頭の上に伸び、なでなでと優しく撫でる姿を見る限り、どうやらお二方はすっかりステラさんの可愛らしさのトリコのよう。
――かく言う私も今まさに、ふわふわと胸元へと降りて来た小さな四色の精霊さんたちを左の掌に乗せ、右手の指先で順に撫でているのだから、お二方のことは言えないのだけれど。
サロンの部屋に癒しの雰囲気が満ちる中、そう言えばと本題を思い出し、穏やかな沈黙に音を生む。
「ところで、みなさん。実は私、本日はみなさんと公式イベントについてのお話をさせていただきたいと思い、こちらへうかがったのです」
「まぁ! そうでしたのね!」
「公式イベント!! おれすげぇ楽しみ!!」
扇子をパッとひるがえして声音を弾ませるフローラお嬢様にうなずき、つづいたルン君の言葉に笑顔を返す。
軽く見回した他のみなさんの表情にも、楽しさや好奇心がうかんでいた。
「内容はたしか、大規模戦闘……だったよね?」
「えぇ」
「私は、現状の実力を試す意味合いも含めて、戦闘に参加する予定だ。兄君も、戦闘への参加はするのだろう?」
「はい。シルラスさんのお察しの通り、私も大規模戦闘へ参加いたします」
ロゼさんの質問に答え、シルラスさんからの確信を宿した問いかけにも、肯定を紡ぐ。
元々、シルラスさんは大規模戦闘に参加するだろうと予想していたが、シルラスさんも私が参加することを察していたようだ。
「わたくしたちも参加はいたしますけれど、シルラスやロストシードほど強くはありませんから、出来る範囲で、華麗なる戦闘を楽しむつもりですわ!!」
「華麗になるかはともかくとして、戦闘の時も美しくふるまいたいよね」
「フローラお嬢様とロゼさんの華麗で美しい戦いに、戦場が華やかになることは間違いありませんね」
「まぁ!! えぇえぇ!! その通りでしてよ!!!」
「まぁね」
得意気なフローラお嬢様とロゼさんの素敵な笑みに、同じく笑みを返して、ルン君を見やる。
明るい笑顔と力強い眼差しからは、大規模戦闘への意欲が満ち満ちているように感じた。
「おれも、ロスト兄やシル兄みたいに――は、できなくても、全力で戦うつもり! いっぱい倒せればいいんだけどな~!!」
「ルン君なら、きっとたくさん倒すことが出来ますよ」
「あぁ。ルンなら出来る」
「へへっ! なんかもっとやる気出てきた!!」
シルラスさんと共に告げた信頼は、ルン君にしっかり伝わったようで、何より。
ルン君の楽しげな表情につられて上がった口角をそのままに、そろりと移した視線の先で、アルテさんとステラさんのつぶらな瞳と視線が合った。
「えっと、わたしたちにとっては、腕試し……みたいなものでしょうか」
「わたしも、おねえさまたちみたいに、たたかってみる!」
「おや! お二人も戦いに参加されるのですね」
「はいっ! 戦いが私たちにとって難しすぎた場合は、ステラちゃんと二人で別の方法で評価点をためようって、お話しました!」
「なるほど、そう言うことでしたか……。たしかに、今回のイベントでは、戦うことだけが評価されるわけではないようですからね」
「はい……!」
「うんっ!」
控えめながらも高揚感が伝わるアルテさんと、コクコクとうなずくステラさんに首肯を返し、改めてサロン【ユグドラシルのお茶会】のみなさんも、それぞれが公式イベントを楽しみにしていることを感じて嬉しさが胸に湧き上がる。
大規模戦闘の舞台である専用フィールドで、みなさんと肩を並べて戦うことができるかどうかは分からないけれど。
――きっとお互いに、全力で今回のイベントを楽しむのだろう、と。
それだけは強く、確信した。




