三百三十三話 予定の修正ととある名案
昼食後、再び【シードリアテイル】へ、ログイン!
『おかえり!!!! しーどりあ~~!!!!』
「えぇ、ただいま戻りましたよ、みなさん」
『わぁ~~いっ!!!!』
瞳を開く前に響いた、小さな精霊さんたちの声に笑み、胸元でぽよぽよと嬉しげに跳ねる姿を緑の瞳に映して、あいさつを返す。
蔓造りの宿屋、まどろみのとまり木での長期宿泊を終え、久しぶりに神殿のベッドから身を起こしながら、懐かしさと新鮮さが混ざる心地を深呼吸で落ち着ける。
見やった窓の外では、夜のはじまりを示す宵の口の明るい夜空が見え、この後の予定に心が躍った。
そう、この後はいよいよ、アトリエ【紡ぎ人】のみなさんと行く――トリアの街への拠点替え!
これもまた、ある意味では公式イベントに向けての準備の一つだと考えているため、自然と気合いも入ると言うものだ!
さっそくと各種魔法を持続展開して隠すいつもの準備を整え、小さな多色と水の精霊さんたちにもかくれんぼをお願いして、準備は完了。
「それでは――アトリエ【紡ぎ人】のみなさんとの集合場所へ、向かいましょう!」
『はぁ~~い!!!!』
小さな四色の精霊さんたちが、素早く肩と頭の上の定位置に乗って返事をくださるのに微笑み、さっそくと神殿の宿部屋を後にする。
今回は、お祈りはまたのちほど、と心の中で神々へお伝えしてから神殿を出て、大通りを進み最初の噴水広場へとたどり着くと、ワープポルタから少し離れた位置で立ち止まった。
そのままこの場で待機することにして、小声で小さな四色の精霊さんたちとの会話を楽しみながら、みなさんをお待ちすることしばし。
宵の口から、本格的な夜の時間へと移り変わると同時に、次々と噴水広場のあちこちでログインを示す金光が輝いた。
予想通り、金光の輝きの後に現れたアトリエ【紡ぎ人】のみなさんへと歩みより、声をかける。
「みなさん、こんにちは」
「お! やっぱロストシードさんが一番乗りだったな」
「おまたせ! ロストシードさん!」
「お待たせなのです!」
「待たせたな」
「いえ、私も先ほどこちらへ着いたばかりでしたから」
それぞれの言葉で気にかけてくださるみなさんに、ゆるく首を横に振って笑顔で応えると、みなさんからも笑顔や穏やかな雰囲気が返された。
ほわっと広がったあたたかな雰囲気のまま、丸メガネを押し上げたノイナさんが楽しげな表情で口を開く。
「みんなそろったことだし、すぐに! って言いたいところなんだけど……」
次いで、すぐに下がった眉を見やり、そう言えば今は夜の時間だったと思い出した。
「――あぁ! 夜の時間帯ですと、さすがに職人ギルドもあいておりませんね!」
「なのです!」
「そうなんだよなぁ~」
私の閃きによる言葉を、淡いピンクのふわふわとした長髪と翅をゆらしたナノさんと、肩を過ぎた長めの灰色の髪をゆらしながら、やれやれと首を横に振るアルさんが肯定してくださる。
すっかり、この大地での時間帯のことを失念していたと、全員の苦笑が重なった。
「ま、とりあえずトリアの街には行こうぜ! 爺さんは起きてるかもしれないしな」
「あっ! 今朝言ってた、錬金術師のおじいさん?」
「そうそう」
気を取り直して、と言う風に紡いだアルさんの言葉に、ノイナさんが問いかけ、それをアルさんが肯定する。
眼前で紡がれた会話に、ついつい、はて? と首をかしげてしまう。
錬金術師のお爺様と言うと、かのノクスティッラの納品依頼でお逢いしたお爺様だとは思うのだけれど……今回の拠点替えとお爺様の関係性が、見いだせない。
すると、私が疑問符を頭の上にうかべている様子に気づいたのか、アルさんがイタズラな笑みをうかべて口を開いた。
「いや、実はな? 前にロストシードさんと、ノクスティッラのポーションの名前を爺さんに訊きに行くかって話してたのを思い出して、なら今回爺さんにポーションの名前と、オススメの宿を訊いてみるのも面白いかもな~と思ってなぁ」
――なるほど! そう言うことか!!
アルさんの素晴らしい閃きに、反射的に自身の表情が華やいだのを自覚する。
「それは名案ですねアルさん!」
「だろっ? ってことで、昨日言ってた順番とは逆になるが、俺とロストシードさんは先に爺さんとこに行って、リーダーたちはその間に先にクラン部屋を見る。で、後で俺たちも合流してみんなでギルドがあくまで時間をつぶすって感じで、どうだ?」
つづけて、そう予定していた行動の修正をみなさんへたずねるアルさんに、ノイナさん、ナノさん、ドバンスさんが、そろってうなずきを返す。
私も同じくうなずきつつ、それならばと提案をつけ加える。
「でしたら、夜明けの時間になるまでは、職人通りで作業をする、と言うのはいかがでしょう?」
「それだっ! 冴えてるなロストシードさん!」
「ふふっ、以前職人通りで作業をしたことを、ふと思い出しまして」
「なるほどなぁ」
私の提案にパチン! とお上手に指を鳴らすアルさんに、笑みを零しながら言葉をつづけると、納得にゆるりとうなずいたアルさんは、再び深緑の瞳をノイナさんたちへと向けた。
「リーダーたちも、この流れで問題ないか?」
「問題ないない!!」
「大丈夫なのです!」
「おう。まずは先に、クラン部屋に良さそうな家を見ておく」
「よっし! 頼んだ!」
「よろしくお願いいたします」
今度こそ、しっかりと方針を定めたところで、全員そろってワープポルタへと手をかざし――トリアの街へ転送!




