三百二十九話 高山の麓でレベル上げ、その一 ~精霊の輪舞~
※戦闘描写あり!
「お次は、新しい魔法の確認も兼ねて、トリアの街の外でレベル上げをいたしましょう!」
『はぁ~~い!!!!!』
小さな五色の精霊さんたちの元気な返事に微笑み、さっそくと大通りへ足を踏み出す。
ギルド通りを抜け、たどり着いた最初の噴水広場の端。
ワープポルタの蒼い球体部分へと片手をかざして――トリアの街へと転送!
ざわっと人々が生む音が耳に届き、蒼光の眩さに伏せていたまぶたを上げて周囲を見回すと、トリアの街の中央にある噴水広場には、以前と比べるとずいぶん多くのシードリアたちが集まっていた。
おそらくは、私と同じく、公式イベントのためにと何らかの準備を進めにおとずれたかたがたなのだろう。
新しい装備を整えるため、拠点を移すため、あるいはレベルを上げるため……。
さまざまな考えのもと、トリアの街へおとずれた人々の間を通り抜けて、私はまっすぐに石門を目指す。
今まではあまり意識していなかったが、レベルの高さが魔法の強さに直結している以上、明日までにレベルは上げられるだけ上げておきたいところ。
可能かどうかは分からないが、今日中にレベルを四十五まで上げることを目標にして、今回のレベル上げにはげもう!
現在のレベルが四十一であるため、決して達成困難な目標ではないとは考えているが……さすがに、そろそろトリアの森の浅い場所にいる魔物では、経験値量が足りないかもしれない。
となると――やはりもう少し、奥へと進んでみる頃合い、なのだろう。
小さく不敵な笑みをうかべて石門をくぐり、トリアの草原をタッと軽やかに、そして優雅に駆け抜ける。
トリアの森の直前で、ちょうど夜明けから朝の時間へと移り変わる瞬間に立ち会うことが出来た。
薄青の光から、陽光へと変化していく眩さに、緑の瞳を細めて微笑む。
小さな闇の精霊さんとまたねを交わして、その小さな姿がぱっと消えるのを見届けたのち――気合いを入れて、トリアの森の奥へと枝の上を素早く移動していく。
伸びる枝と緑の葉の合間をぬい、浅いところから中央、そしてさらにその奥へとひとまず魔物たちを振り切って進むと、前方に明らかに攻略系であろう華麗な戦闘をおこなう集団が見えた。
お邪魔にならないよう、失敬して頭上の枝の上を通り過ぎ、次いでとたんに拓けた森の様子の変化に、目的地へ到着したことを察する。
この場所こそが、事実上の現在における最前線……の、おそらく一番後方の地点。
トリアの森の奥、灰緑色をまとって悠然と立つ、ラファール高山のその麓だ。
「これはまた、新しい景色ですねぇ」
『あたらしいばしょ~~!!!!』
思わず、未知の場所への好奇心のほうがまさり、興味深げにつぶやくと、小さな四色の精霊さんたちも楽しげに声を上げる。
樹々がなく、かわりに緑の草が灰色の岩肌にところどころ生えている、切り立った崖のようなラファール高山。
その麓であるこの拓けた場所は、まばらに立つ樹のそばにゴロリと灰色の岩が転がり、山の入り口を思わせている。
時折吹きつけてくる乾いた強めの風は、ラファール高山からのあいさつと言ったところだろうか?
まぁ……当然のことながら、そのあいさつは風だけにはとどまらないのだけれど。
ずいぶん手前から反応していたスキル《存在感知》と、すでに前方にいることが目視できている当の魔物の存在に、改めて気を引きしめる。
後方から響く戦いの音から考えれば、本来はこのようにのんきに景色を楽しむヒマなど、与えられることがない場所であるはず。
足音もなく、じりじりと間合いを詰めてきている、はじめましてな三匹の美しい銀色の毛並みをもつ狼姿の魔物を見やり、フッと不敵な笑みをうかべる。
このラファール高山の麓の魔物は、以前魔物図鑑を読んだ時には記載がなかったため、残念ながら事前情報がなく名前も能力も分からない。
しかし、用心をして冷静に戦いに挑むことさえ出来るのならば――決して今の私に倒せない魔物ではないだろう。
枝の上へと注がれる、赫い三つの炯眼から緑の瞳を外さず、深呼吸を一つ。
まずはお試しにと、新しく授かった精霊魔法を詠唱する!
「〈フィ・ロンド〉!」
『ぼくたちもたたかう~~!!!!』
凛、と紡いだ詠唱につづけて、小さな四色の精霊さんたちが戦意の声を上げ、ふわりと私の頭上で円状に並んだ――その瞬間。
ぱっとそれぞれの色を煌かせ、たくさんの他の水と風と土の小さな精霊さんたちも姿を現し、各属性同士で輪のような形をとったとたん、近づいて来ていた三匹の魔物たちの死角から、水飛沫と風圧と鋭い石が放たれた!!
『グルアァ!?』
精霊のみなさんによる不意打ちの攻撃は、見事に銀色の狼姿の魔物たちに当たり、三匹共から驚愕と不服を宿したうなり声が上がる。
この状況だけでも十分驚いたのだが、次いで小さな闇の精霊さんたちがぱっと姿を現してリング状になり、闇色に光る粒を振らせて三匹の魔物を眠りにつかせた時点で、思わず片手を額に押し当てた。
そう――新しい精霊魔法は、持続型。
私が〈フィ・ロンド〉を詠唱して発動した後は、この魔法が持続展開する間中……ずっと、こうして精霊のみなさんのご協力があると言うことだ!!
枝の上から下を見やり、今まさに小さな風の精霊さんたちの風圧の攻撃で文字通り叩き起こされた狼たちの姿から、そっと視線を彼方へそらす。
さまざまな色の小さな精霊さんたちが、輪の形になる姿はまさに詠唱名、精霊の輪舞の名にふさわしい。
……実際には、容赦のない精霊魔法が放たれる様こそが、この精霊魔法の効果なのだけれど。
「なるほど……」
ここにきてようやく、私は小さな四色の精霊さんたちがおっしゃっていた、いっしょにたたかう、という言葉の真意を理解するに至った。
「これは本当に、共闘で間違いありませんね……」
そうたまらず零した小さな呟きは、吹き抜けた風にかき消され、胸の内にはもはや一周回ってあきらめに似た感情が宿る。
とは言え、たとえ新しい精霊魔法のあまりにもとんでもない内容に、現実逃避をしたい気分だったとしても、実際にそうしている場合ではないことは、よく分かっているつもりだ。
『みてみて! しーどりあ! ぼくたちもつよい!』
『みんなでまもの、たおすよ~!』
『しーどりあのてき、たおす~!』
『ぼくたちも、しーどりあとたたかえる!』
そう、頭上でぴかぴかと自らの色の光をまたたかせて、えっへん! と胸を張るように自信を言葉にする小さな四色の精霊さんたちが、まさに今、共に戦ってくれているのだから。
――私も、みなさんの戦意に応えよう!!
「えぇ、素晴らしい戦いかたです! 小さな精霊のみなさんのご協力に、感謝を!」
『えへへ~~!!!! しーどりあ、よろこんでる~~!!!!』
嬉しげに円状のままくるくると舞う小さな姿に満面の笑みを返し、その笑みを不敵なものへと切り替えて、告げる。
「みなさんのご期待に、私も応えてみせます!」
いざ――共闘、開始!!




