三百二十六話 公式イベントの詳細情報
※現実世界でのお話です。
ふわりと浮上した意識に、朝の気配を感じてふっと口元をゆるめる。
身を起こして伸びを一つ。
――今日は一段と、楽しい忙しさに満ちた一日になる予感がする!
そう心を躍らせて、毎朝おこなっている散歩をはじめてすぐのこと。
いつもの癖で情報収集をしようと空中展開した、【シードリアテイル】の公式画面に――詳細な追加情報があることを発見した!!
「おっと、これは!」
思わず歓喜の声を零しながらも、まずは運動だと本日は速足で散歩を終えて、朝食が転送装置に送られてくるのを待つ間にと、ようやく詳細な公式情報に目を通す。
最初に書かれていたのは、開催日時。
公式イベントは、現実世界の時間で明日の昼過ぎ、十三時から開催されるとのこと。
それから、五感体験と共にその自由度の高さも売りとしている【シードリアテイル】としては珍しく、今回の公式イベントは自動的にすべてのシードリアが、事実上の強制参加となるらしい旨がつづく。
これには少々驚いたものの、シードリア個々人のさまざまな状況に応じて、評価と呼ばれる、イベントの貢献度を示すポイントのようなものが与えられると書かれており、詳しく書かれたそれを読み進めることでこの点にも納得ができた。
なにせ、極論を言ってしまうと、【シードリアテイル】の大地にログインしているだけで、評価が与えられるとのこと。
これならば、事実上の強制参加と言われても、普段と同じようにこの大地で遊んでいるだけで良いのだから、問題にはならないだろう。
というよりも、実際にはいつも通り遊んでいるだけでもイベントの評価が与えられるのだから、むしろ得をすると言っても過言ではない。
なぜ得をするのかは、しごく単純な話。
それは、今回の公式イベントが――しっかりと、報酬を用意してくれているたぐいのイベントだからだ!
公式情報いわく、評価獲得者には、獲得した評価の量や獲得方法に応じて、報酬があるとのこと!
なんでも、それぞれの遊びかたにもとづき、より便利さや快適さや強さを有する、スキルや魔法を授かることができるらしい!
このような報酬を手にすることが出来ると思うと、今回のイベント参加への意欲も、より高まると言うもの!!
獲得できる評価の上限は定められているが、その上限へと至るための手段は文字通り、ログインをしているだけの状態から大規模戦闘への積極的な参加まで、より取り見取りというところも素敵だ!
昨夜心配していた、アトリエ【紡ぎ人】のフレンドさんたちのような生産職のシードリアは、普段のように商品をつくることや、つくった商品を商人ギルドへ持って行くだけで評価を与えられると書かれており、ほっと安堵の吐息を零す。
また、探索を楽しんでいるシードリアは、地上である大地を観察しながら進むことで、地上の安全を確認するとみなされ、評価が与えられるらしい。
当然ながら、普段の戦闘フィールドにいる魔物たちを倒すこともまた、地上の安全を確認することにふくまれるため、評価される。
注意点として、地上の魔物とは異なり、今回のイベント内容である大規模戦闘にて相手取る浮遊大地の魔物は、残念ながら倒しても経験値は入らないため、レベルアップには繋がらないようだが……。
――ここで、評価の量や獲得方法に応じた報酬があるという点が、攻略系を筆頭とする戦闘を楽しむシードリアの興味を薄れさせないように、心をつかむ役割をはたしていると言えるだろう。
そう、これは単純な好奇心と向上心の話だ。
たとえ事実上、イベント期間中にログインをした、すべてのシードリアが報酬を手にするのだとしても。
その中でも大規模戦闘への参加にて評価の上限を目指し、より自身にふさわしく強力な新しいスキルや魔法を授かることが可能であること。
このロマンを秘めた状況が整っている以上……きっと、戦闘を楽しむシードリアから、異論が出ることはないだろう。
転送されてきた朝食を口に運びながら、いよいよ今回のイベントの主題である、大規模戦闘について書かれた部分を読み込んでいく。
どうやら今回のイベントではまず、イベント開始と共に大規模戦闘への参加の確認がおこなわれ、参加すると答えることで、上空にある専用の浮遊大地フィールドに転送されるようだ。
そして、転送された浮遊大地や天空を埋めつくす魔物を倒すという、大規模戦闘がはじまるらしい。
まさに、以前からしていた予想が的中し、思わず口角が上がる。
しかしすぐさま、表情を引きしめた。
なぜなら、これはまさしく――かつての厄災の、再来なのだろうから。
気を引きしめ直して、連なる文章を視線で追う。
事前に書かれていた通り、今回の評価は個人に入るため、パーティーを組んでも評価の分配はされないとのこと。
しかしそうなると、補助系の魔法や戦法でパーティーの補助をしていたシードリアや、回復役のシードリアが不利になるのでは……と思ったものの、そこはやはり対策がされていた。
いわく、今回の大規模戦闘に参加する者には、創世の女神様からの絶対的な守護が与えられ、魔物からの攻撃は無効化されるため、神殿送りにはならない、と。
さらには、こちらの攻撃はむしろ強化されると、そう書かれていた。
「なんて破格な守護……」
つい、そう驚愕を言葉にしてしまうのも、仕方がないと思う。
それよりも、そう明言されているからには、個人で戦っても問題ないはずだ、と読み進めたつづきの文に、なるほどと納得する。
どうやら、補助系の魔法や回復魔法でも、イベント専用フィールドにいる魔物にとっては、有効な攻撃となるらしいのだ。
気になっていた浄化魔法に至っては、特効攻撃あつかいだという記述まである。
たしかにこれならば、補助役や回復役のシードリアも、十分戦うことが可能だろう。
……だからこそ、そうなると、と思わず考えてしまった。
そう言えば、公式イベントの場合、星魔法などの現状極めて珍しい魔法の使用に関するあつかいは、どのようなものになるのだろうか、と。
そう疑問をうかべて、次の一文に目を通して。
[星魔法は、特効攻撃扱い]
そう記された一文に、ふっと彼方へと視線を投げた。
――なにもここまでしれっと、答えを書かなくてもいいと思う!!
ついつい深くため息を零しながらも、しかしと気持ちを切り替える。
ある意味この一文のおかげで、いざという時は星魔法を使えばいいのだと、有効的な戦法を知ることが出来たのだ。
ここは素直に、この助言めいた一文の教示を、ありがたく憶えておこう。
食事を終え、準備をして、口元に笑みをうかべる。
さぁ、今日も全力で楽しもう!
いざ――十四日目の【シードリアテイル】へ、ログイン!!




