三百二十五話 幕間三十三 生産職の在り方と矜持
※主人公とは別のプレイヤー、ドバンス視点です。
【シードリアテイル】がはじまり、十三日目の夜。
作業部屋に顔を出したロストシードの言葉をきっかけに、公式イベントについての話し合いが出来たことは、さいわいだった。
[大規模戦闘]と銘打たれた公式イベントにおける、生産系のプレイヤーのあつかいは、どうしても気になる部分だったからな。
アルの言う、生産職ならではの参加方法は、わし自身も想定していることではあったが、ロストシードの言う個々人に合わせた参加方法があれば、なおよし。
そう思うのも、生産職としてこの没入ゲームを楽しむプレイヤーたちの、在り方の自由さが際立つがゆえだ。
生産系のプレイヤー、と一口に言うにしても、【シードリアテイル】ではあまりにも出来ることが多すぎる。
一つの職にこだわる必要もなく、そもそも生産にのみこだわる必要さえない。
当然、そういった自由度の高さこそが、この没入ゲームの醍醐味なのだと、百も承知していることではあるが……それはそれで、生産職としては弊害が出ていると、感じないわけではないのだ。
――いかんせん、人間という生き物は往々にして、横道にそれることを好む。
複数の職をかけもちすることは、よくある話だ。そこはかまわん。
だが、生産メインだと豪語する者の中でさえ、本当に生産のみをこなして過ごしている者が、果たしてどれほど存在しているというのか。
この没入ゲームは、五感を真実感覚として体験できるだけに、やはり生産以外の部分にも自然と意識が流される。
根本的なことを言ってしまうのであれば、わしの予想以上に、生産職の質……技量とも呼べるものが、今の段階ではまだまだだと、言わざるを得ない。
アルやロストシードのように、戦いや探索を楽しみながら、生産職としても十二分の技量をもつ者は、もとより極めて少ないものだが――生産職の中でも少なすぎるとなると、話は別だ。
大規模戦闘をメインとする公式イベントと言うことは、必然的に戦闘を得意とするプレイヤーたちの活躍が見込めるだろう。
しかしそのためには、やはり生産系のプレイヤーたちがつくり出す、武器や防具、装飾品などの質も、当然重要視される。
珍しいスキルだのオリジナル魔法だの、そういった力技だけですべてを解決されては、生産職の顔が立たないのだから、当然と言えば当然だ。
だからこそ、今回の公式イベントでも、何らかの形で戦闘以外がメインのプレイヤーたちに相応しい参加方法があるはずなのだが……。
それがどのような方法なのかは、また追加情報に期待する他はないだろうな。
それよりも、今回の公式イベントの告知によって、拠点を移すめどが立ったことのほうが、このアトリエ【紡ぎ人】の面々にとっては僥倖なことだった。
もとより、このアトリエの面々の技量は、どう考えても他より頭一つ抜きん出ている。
わしと同じく裁縫一本のナノと、エルフ族での錬金術の先駆者であるアルは、互いに自らの技量に誇りが見えるがゆえに、驚きはしないが。
細工と裁縫のかけもちをしているノイナも、細工と錬金のかけもちな上、戦闘まで楽しんでいるロストシードまで、一つの職に取り組んでいるはずの他の者たちより抜きん出ているのは、さすがに称賛に値する。
ならばこそ、この自らの技量を誇り、自らの傑作に矜持をもった者たちが、最前線へと近づくことは、喜ばしいことだ。
この技量をもって、攻略系の者たちをうならせるのも、悪くない。
トリアの街で、攻略系ではなくとも初期から遊び、それなりに実力をつけたプレイヤーたちという新しい客層を増やすのも、良いだろう。
いずれにせよ、わしはただひたすら、傑作たる武器をつくるのみ。
他の生産系のプレイヤーたちが、他のことに目移りするというのならば、その目を引き戻すほどの武器を世に出し、導くまでだ。
武器専門の鍛冶師として、防具や小物をつくらず、武器一本で鍛冶の技術を磨いているのだから、それくらいはこなしてみせる。
この世界一の武器をつくる、この世界一の鍛冶師になることこそ――わしの、【シードリアテイル】での目指す頂なのだからな。
※明日は、
・十四日目のはじまりのお話
を投稿します。
引き続き、お楽しみください!




