三百二十一話 まずは採取と商品製作
夕食後、はじめての公式イベントがはじまる明後日に備えることを決意して、再び【シードリアテイル】へとログイン!
『おかえりしーどりあ~~!!!!』
「はい! ただいま戻りました!」
開いた緑の瞳に、胸元でぽよっと跳ねてからあいさつをしてくれた、小さな四色の精霊さんたちが映る。
にこりと笑顔で返事をすると、くるりと小さな姿が一回転した。
『しーどりあ、たのしそう!』
『わくわくしてる~?』
『たのしいこと、あった~?』
『ぼくたちも、わくわくする!』
おやおや、どうやら可愛いみなさんには、すっかりこの心の内を見抜かれているらしい。
小さく笑みを零しながら蔓のハンモックから身を起こし、答えを告げる。
「えぇ! この後と空の時間での明日は、いろいろな準備を楽しもうと考えております!」
『わぁ~~!!!! じゅんび~!!!!』
くるくると舞う小さな四色の精霊さんたちは、果たしてどこまで私が楽しもうとしている準備の意味について、分かっているのだろうか?
そう考えることさえも楽しさとなる現状に、自然と口角が上がるのを感じた。
精霊のみなさんと一緒に蔓のハンモックから軽やかに降り立つと、窓から射し込む眩い昼の陽光に微笑み、さっそくいつもの準備を開始する。
小さな多色と水の精霊さんに精霊魔法を展開していただき、オリジナル魔法も発動して《隠蔽 四》で隠せば、あっという間に慣れ親しんだログイン直後の準備は完了だ!
「それでは、まずは水晶卿の地下遺跡へ行き、水晶の採取をいたしましょう! その後、職人ギルドでのお買い物をして、神殿でのお祈りと、技神様の祈りの間で商品用の装飾品をつくりますね!」
『はぁ~~い!!!!』
この後の予定をさらさらと紡ぐと、元気な返事が宿部屋に響く。
それに笑顔を返して、意気揚々と宿部屋を後にした。
靴音を鳴らしながら大通りから中央の噴水広場へと歩み、書館の通りを進んでさらに裏路地へ入り込むと、見えざる星魔法の魔法陣をそっと踏み――銀と蒼の光に導かれて、地下の空間へ。
暗がりに沈んだ通路を抜けて、水晶卿の研究部屋へと入り込むと、さっそく水晶卿の水晶の隣の地面へと、手をかざす。
「〈ソルフィ・クリスタルステス〉!」
水晶を創出する、土の精霊さんたちの精霊魔法を凛と詠唱すると、とたんにキラキラと地面が煌きを放ち、次いでパキィン! と綺麗な音と共に、新しい水晶が生み出された。
以前同じ魔法を使った後、採取せずにそのままにしておいた、一つの透明な水晶と二つの薄い水色の水晶、二つの薄い銀色の水晶が生えている地面。
そこに新しく加わった、透明な水晶五つ、薄い水色の水晶三つ、薄い銀色の水晶二つが煌く様に、微笑みを深める。
とは言え、今回はまったりとこの煌きを眺めつづけるわけにはいかないため、手早く透明な水晶を六つすべて採取してカバンに入れ、そうそうに帰路につく。
再び魔法陣を活用して裏路地へと戻ると、お次は職人ギルドへ。
お久しぶりに鑑定士のベルさんと笑顔を交わし、大量に素材を買ってギルドを後にすると、今度は神殿へ向かって石畳を歩み進む。
陽光に照らされ、いっそう美しく煌めく白亜の神殿へとたどり着くと、神殿内で行き来するたくさんの人々の横を通り過ぎて、精霊神様に天神様、魔神様に獣神様へと、お祈りを捧げたのち。
最後に技神様のお祈り部屋へと入り、こちらでもまずはと感謝の念を込めて、《祈り》を捧げる。
おかげさまで、日々素敵な装飾品やポーション、それにお役立ちな付与魔法が私の冒険を彩ってくれています、という思いをしっかりと伝えてから、商品用の装飾品づくりをはじめるために、カバンから素材を取り出していく。
本当は、装飾品づくりもポーションづくりと同じように、この後アトリエ【紡ぎ人】のクラン部屋でおこなうことにしようかとも、思ったのだけれど。
なにぶん新しく商人ギルドへとお届けすることが決まった、新作の腰飾りの制作には、時間がかかってしまう。
アトリエのみなさんならば、長々とつくっている様子を楽しんで見てくださるとは思うのだが……その他の商品よりも集中力が必要なことも含めて、共同空間でつくることを、今回は断念した。
腰かけた長椅子の横に置いた素材を、《同調魔力操作》でうかせて手元へと引きよせ――作業、開始!
黙々と装飾品製作に没頭すること、しばし。
出来上がった商品たちを前に、満足さと達成感に微笑む。
今回も問題なく仕上がった!
手早くカバンへとしまい込み、ふぅと一息つく。
これでいよいよ、消耗品であるポーションを製作するという、基礎的な準備に取りかかることができる。
そう言えば、他のシードリアのかたがたはおそらく気にされるだろう装備については、さいわい私は今の自身の装備に特別不安はないので、このまま公式イベントに挑むことにしよう。
……まぁ、というより私の場合は、不安があると言うことは必然的に、武器を手飾りから杖に替えるという事態になりかねない。
それは結果的に、手飾りを売ってくださったマナさんとのお約束と、私自身の信条とをたがえることになるため、もはや自動的に却下の意を表明する。
身にまとう装飾品もふくめて、私は装備に不安はない!
つまり、現状ですませておきたい基礎的な準備は、ポーション製作のみ。
さぁ――そうと決まればさっそく、アトリエ【紡ぎ人】のクラン部屋へ!




