三百二十話 番外編五 Disce libens(楽しく学べ)
※現実世界でのお話です。
【シードリアテイル】の大地から、空――現実世界へと感覚を戻し、夕食の準備をはじめながらも、頭の中はやはり【シードリアテイル】のことでいっぱいだ。
特に、公式イベントのことについて!
適当に選んだ食事が転送装置に送られてくるまでの待ち時間で、空中に情報を展開する。
しかし、少々意外なことに、公式の情報はまだ追加されていないようで、特別変化のないお知らせ欄を視線でなぞってから、そっと肩を落とす。
公式イベントの開催日は、シードリアの目醒めから十五日目……つまり、十三日目である今日を含めても、準備期間は残り二日しかない。
大規模戦闘という、明確なイベント内容はすでに知らされてはいるものの、さらなる詳細が語られていない現状では、さすがにできることにも限りがある。
今の段階で、準備をしていたほうが良いと思うものは、おおよそ戦闘系イベントと呼ばれるイベントにとっては、もっとも基礎的なものくらいだ。
その内の一つ目は、消耗品の確保。
これは、生命力や魔力を回復するポーション、状態異常を解除するポーション、あるいは攻撃に役立つ錬金薬や罠などの、戦闘時に必要である消耗品を手元に確保しておくこと。
二つ目は、装備品の確認、あるいは新調。
武器や防具などの消耗具合の確認をおこない、不安があるようならば新しく買い替える場合もある。
この二つは言わば、普段の戦闘時にも欠かせない準備なので、今の段階でおこなっても良いと思う。
……問題は、そこから先の準備だ。
戦闘系イベントと言えば、やはりどのような敵、どのような場所、どのような戦法で戦うと効率よく安全に戦えるのか、という点が気になるところ。
しかし、残念ながらこのあたりの情報がまだ出ていない以上、これらの確認や準備は現状では難しい。
おそらくは、攻略系のかたがたでさえ、困っている点だろう。
とは言え――まったく知識面での準備ができないとまでは、思わない。
なぜなら、今回の公式イベントである大規模戦闘の様相は、想像がついているから。
そう……たとえば、穢れや厄災という要素が含まれる、という状態が。
【シードリアテイル】の大地で進めてきた冒険の中で、少しずつ不思議と明らかになって来た、穢れや厄災と語られる、脅威。
あくまでも個人的な予想ではあるものの、どうにも大規模戦闘と言われてしまうと、これらの脅威とまったく関係がないとは、思えない。
かつて厄災に襲われた、コロポックルの遺跡やエルフの里の歴史と、最初に創世の女神様が伝えてくださった困難と言う言葉も、すべてはこの公式イベントに繋がってくる気がするのだ。
当然、ただの予想である以上、もはや綺麗すぎるほどさっぱりと、すべてが間違っている可能性も大いにあるのだけれども。
それはそれとして、すべてが繋がる可能性を考えておくほうが、純粋に楽しいのだから、公式情報が出るまではこの予想を主軸にして行動しよう!!
届いた食事を、今回はささっと食べ終えたのち。
個人的な予想にもとづき、遺跡や穢れ、厄災についての情報を、語り板や考察系記事や動画で、さっそく調べてみる。
さいわい、語り板だけでもタイトルに、[ダンジェの森の奥にある遺跡について]や、[穢れと浄化魔法の関係性]といった、遺跡や穢れに関するものをいくつか見つけることができた。
それぞれ、連なる書き込みの文を読み込んでいくと、昔の厄災によって滅んだ遺跡といった解釈や、穢れの謎、浄化効果を持つ光魔法の希少さについて語られていて、思わずうんうんとうなずいてしまう。
特に、現状穢れをまとう魔物自体は倒すことができるものの、穢れを完全に消し去るすべが、数少ない浄化魔法のみである、と書かれていた部分。
今回の大規模戦闘でも、この浄化魔法が必要なのか否か、という部分は気になる点だ。
他にも目を通しつつ、単純な読み物としても充分に面白く、また興味深い議論が交わされている場面もあり、ついじっくりと没頭しかけて、慌てて本題を思い出す。
今回はあくまで、情報収集が本題だ!
意識を切り替え、お次にと考察系の記事や動画を調べてみると、こちらは遺跡について私の解釈と極めて近しいものがあり、少しばかり驚く。
おそらくスキル《解析》や解析の魔法〈アナリージス〉を習得したかたが情報提供をしたか、あるいは記事や動画の作成者なのだろう。
それ以外にも、今回の大規模戦闘がまさにかつての厄災の再現なのではないか、という考察もあり、どうやら私と同じ予想をしているかたもいるようだと、嬉しさに口角が上がる。
楽しみながら情報収集をして、理解した学びや注意しておくことなどを、そのつどメモに書き留めていく。
この内、今回の大規模戦闘にて特に気にかけておいたほうが良いと思うことは、やはり穢れと厄災の関連性だ。
穢れにより、魔物が普段よりも強力な力を得ている可能性があることと、穢れをまとう魔物たちが、集団で襲ってくる可能性があること。
そして、コロポックルの遺跡で映像として見たかつての厄災の光景と同じような、大量の魔物が一気に、なだれ込むように襲ってくる可能性。
つまるところ、これらを前提に、今回の戦闘における戦法を考える必要があるわけだ。
それはきっと……とても楽しい思索の時間になるだろう!
ふっと口元にうかぶのは、愉快さゆえの笑み。
あぁ――まさかはじまる前から、こうも心躍る公式イベントと出逢えるとは!!
詳細情報さえない現状でも、すでにコレなのだ。
実際に大規模戦闘が開始された後は、いったいどれほど楽しいのだろうか?
これはどう考えても、今日明日は全力で準備期間を楽しむほかはない!
さしあたり、この後の寝る前までの時間は――基礎的な準備を進めよう!!
※明日は、
・十三日目のつづきのお話
を投稿します。
引き続き、お楽しみください!




