三百十五話 再会の誓いと屋台の食事
※飯テロ注意報、発令回です!
遠吠えをさせずに倒したほうが良い、という私の発言に返されたお三方の「無理」という言葉に、さすがに少し難しかったかもしれないと反省をする。
そもそもお三方はおそらく、このトリアの森の魔物を苦労せずに倒せるほどの強さは、まだ持ち合わせていらっしゃらないのだ。
こういう力技の戦法は、やはり実力がともなってからでなければ、たしかに難しいだろう。
夕方へと移り変わったトリアの森と草原からそうそうに離れ、石門前へとたどり着いたところで、お三方が深い吐息を零す。
「さすがに、神殿送りになるかと思った……」
「オレも~~!」
「うん。今回はさすがに、ボクもまずいかもしれないと思ったよ。まぁ、結果的にはロストのおかげでこうして無事なんだけどね」
浅緑の瞳で見上げてくるテトさんに、ふわりと微笑む。
「本当に、みなさんがご無事で何よりです」
「ありがとう、ロストシード!」
「マジでたすかった!!」
「ありがとう。キミが攻略系くらい強くなかったら、とても無事にここまで戻ってくることはできなかったよ」
「こちらこそ、パーティーでの戦いを学ぶ機会をくださり、ありがとうございます。みなさんとの冒険は、とても楽しかったです!」
次々に紡がれる感謝の言葉に、こちらも思いを込めて言葉を返すと、全員で笑顔を交し合う。
とは言え、さすがにハイアーフォレストウルフとの連戦の疲れはすぐに取り除くことは難しいようで、お三方のお顔には疲労感がにじんでいるように見えた。
はじめての戦闘フィールドで、複数体を相手に三連戦もしたのだ、さもありなん。
この後は、ゆっくり休んでいただいたほうが良いだろう。
――であれば、私が紡ぐ言葉は、一つだ。
真面目でおおらかなアネモスさん、快活で飄々とした雰囲気をもつウルさん、そして冷静で敏いテトさん。
お三方共に、これまた魅力的なかたがたで、偶然の成り行きとは言え、出逢えた幸運に感謝をしている。
だからこそ……改めてお三方へと居住まいをただして向き直り、左手を右胸へとそえて、その言葉を紡ぐ。
「みなさん。私はこのように素敵な出逢いと冒険をしたことは、きっと何かの縁だと思います。ですので、もしみなさんがよろしければ――ぜひ、私とフレンドになっていただけませんか?」
「なるっ!」
「もちろん!」
「ぜひ!」
穏やかな笑顔で紡いだ願いに、間を置かず返って来た、ウルさん、アネモスさん、テトさんの言葉が、心をあたためる。
嬉しいお返事に微笑みを深め、ありがたさを感じながらフレンド登録をおこなったのち。
「ぜったい! また一緒に遊ぼう!」
「冒険者ギルドのクエストとかなら、オレらも手伝えるとおもうからさっ!」
「ボクも、一応いろいろなオリジナル魔法が使えるから、意外とお役立ちだと思うよ」
「私は――強敵にお悩みでしたら、お役にたてるかと」
「あ、あぁ、そうだね……」
「おぉ、それは、な」
「うん。それは知ってる」
……感動の再会の誓いが、なぜか生暖かな雰囲気になってしまった。
はて? と小首をかしげてみるものの、お三方の眼差しの生暖かさは消えない。
さいわい、その時間は決して長くはなく、不思議と湧き立った笑い声を交し合ってから、パーティーを解散した。
お三方はもう少しトリアの街を観光していくとのことで、私は小さな四色の精霊さんたちと共に、一足先にワープポルタを使ってパルの街へと戻ってくる。
最初の噴水広場を見回し、ふとすっかり忘れかけていたレベルアップのことを思い出して、確認のためにと広場の端により、灰色の石盤を開く。
確認した基礎情報のページには、四十一に上がったレベルが記されており、パーティーでの戦いを思い出して口元がゆるむ。
そっと上品な微笑みに戻しつつ、石盤を消した後は、自然と大通りへと足が動いた。
さて、お次は――たくさん戦ったので、休息もかねて屋台の食べ物でも、楽しむとしようか!
「お次は、屋台の美味しい食べ物を、食べに行きますね!」
『はぁ~~い!!!!』
肩と頭の上に乗る、小さな四色の精霊さんたちへと次の方針を紡ぎ、足早に大通りを進んで行くと、すぐに街の中央にある噴水広場へとたどり着く。
夕陽に照らされる時間となっても、まだ客寄せの声を上げて、さまざまな物を売っている屋台へと視線を向けると、ふわりと口元がほころんだ。
導かれるように歩みよったのは、もちろん、美味しそうな香りを風に乗せている、食べ物の屋台!
以前美味しく頂いた、草原鳥の肉の串焼きの屋台や蜜がけリヴアップルを売る屋台に視線を奪われつつも、今回は別のものを頂こうと口角を上げる。
目当ての屋台は、ちょうど二つの屋台の隣にある、二台の屋台。
鉄板の上で焼きそばのようなものを焼いている屋台と、クレープのような食べ物が目をひく屋台だ!
どちらもとても美味しそうで、さっそくとまずは焼きそばのようなものを一皿注文する。
『へい! 焼き麺一杯、おまち!』
「ありがとうございます」
なんとも気の良さそうな青年店主さんから、木の板に乗った料理と木製のフォークを受け取り、お店と通行の邪魔にならない位置まで移動してから、改めて焼き麺と呼ばれた料理を緑の瞳に映した。
見た目は、麺と野菜とおそらく草原鳥であろう肉を混ぜ合わせた、焼きそばに他ならない。
塩味ベースらしく、お皿代わりの木の板に乗った焼き麵から立ち昇る香りは、まるで塩焼きそばのよう。
小さく頂きますを呟き、いそいそとフォークに麺をからめ、一口食べてみる。
とたんに口の中で感じたのは、ほどよい塩味と麺の味、それにキャベツのような野菜のシャキシャキとした食感と、やはり草原鳥のものとおぼしき肉のやわらかさと旨味!
これはまた、なかなかに私好みの料理だ!
ついつい勢いづいて食べ進めると、あっという間に食べ終えてしまい、少しばかり物足りない気持ちになる。
しかし、今回はもう一つ気になっているものがあるので、おかわりは次の機会にしよう。
木の板とフォークを返しながら青年店主さんに美味だったことを伝え、お次にとクレープらしき食べ物を売る少女の屋台へ。
『シードリア様! リブベリーのクレープ、おひとついかがですかっ?』
「えぇ、一つ、頂きます」
『ありがとうございますっ!』
可憐な笑顔が素敵な少女店員さんいわく、イチゴのような果物リブベリーと、生クリームのような白いふわふわをくるりと薄い黄色の生地で巻いた食べ物は、予想通りクレープと呼ぶらしい。
一つ買い、また広場の端のほうへと移動してから、ぱくりと一口かじってみる。
甘い香りの通りに口に広がる生クリームの甘さと、リブベリーの甘酸っぱさ、それに生地の少しモチモチとした食感が、絶妙にあわさり――これまた美味!!
こちらもぱくぱくと美味しさを楽しみ、あっという間に食べ終わってしまった。
少女店員さんに感謝を伝え、しばし大噴水のそばで、美味しい食べ物との出逢いに満ち足りた心地に浸る。
この素晴らしい味覚を再現してみせた【シードリアテイル】の偉業を、もう一度讃えよう!
――五感体験は、やはりとても魅力的だ!!




