三百十二話 幕間三十二 魔法の申し子のようなエルフさん
※主人公とは別のプレイヤー、テト視点です。
五感体験型を強調した、新作没入ゲーム【シードリアテイル】。
元々、剣と魔法のファンタジー世界を舞台にした没入ゲームは好みだったから、このゲームも興味本位で初日から遊びはじめたんだけど……。
――正直、予想以上に奥深くて面白いゲームだった。
ボクが特に興味をもったのは、魔法。
最初は、小さな子供のようなかわいい見た目をした、コロポックル族の姿を楽しみながら、ほのぼのファンタジーライフを満喫できればいいかな、って思っていたんだけど。
そんな当初のふわふわな予定を忘れてしまうほど、【シードリアテイル】の魔法は奥深かった。
既存魔法と呼ばれている、指南役に教えてもらったり、魔法の一覧が書かれた本を読んだりして魔法名をおぼえて、それを実際に試して習得する魔法だけでも、いろいろな種類があることが面白い。
威力も弱くて、けっこうありふれた単純な性能をしているけど、魔物との戦闘では重宝した。
まぁ……それは、コロポックル自体がそもそも魔法を使わないと攻撃手段がないってことも、関係していたんだけど。
でも、この既存魔法だけでも、ボク自身のレベルが上がればより威力が増し、本に新しい既存魔法が増えることもあって、性能や自由度を調べることがとても楽しかった。
これに輪をかけて魔法の楽しさを実感したのが――オリジナル魔法!
今まで遊んだ他の没入ゲームでも、プレイヤー自身が創り出すオリジナル魔法という概念はあったけれど……【シードリアテイル】のオリジナル魔法は、まったくその比ではなかった。
はじめてオリジナル魔法を習得したのは、神殿でお祈りをすると、新しいスキルや魔法がもらえるっていう情報を、語り板で見て実践した、その後。
こんな魔法があればいいなぁ、なんて軽い気持ちでお祈りをつづけていたら、ほとんど想像通りの魔法が習得できて、驚いた。
それがウワサのオリジナル魔法だって気づいた時、数秒間固まってしまったくらいには、まさしく――ボクにとっては、青天の霹靂だったと、今でも思う。
それ以降、頭の中で想像する形が、実際に魔法となって習得できるという神秘体験のような【シードリアテイル】のオリジナル魔法に、すっかり夢中になった。
日夜、どんなオリジナル魔法が創れるか考えて、実践するのを繰り返していたら、普通にパルの街周辺の魔物とは戦えるようになっていて、ちょっと驚いたりもしたけど。
そんなことより、新しくオリジナル魔法を習得する瞬間や、それをはじめて使う瞬間が楽しみで、あっという間に日々が過ぎて行った。
【シードリアテイル】の自由度の高さを、オリジナル魔法で楽しむボクの日常。
ここに、新しい彩りを加えたのは――[シードリアの魔導師]と呼ばれることになった存在の、登場だった。
そのプレイヤーは、オリジナル魔法についての議論が交わされていた語り板に突然現れて、自身の情報を書き込んでくれたのだけど……たぶんその時語り板を見ていた全員が、その内容に驚いたと思う。
書き込まれたその内容は――ちょっと分かりやす過ぎたから。
オリジナル魔法の自由度は、ボクもたくさん実践してきて、分かっていたことだったけど。
オリジナル魔法どころか、魔法そのものを習得するための、基礎の要素なんて……その要素があることさえ、ボクは考えたこともなかったのに!
[前提条件として、これはおそらくすべての魔法がもつ要素だと思いますが――習得したい魔法の属性に、親しむ必要があります]
そう書かれた文字を視線でなぞった後は、さすがにそんな要素があったのかって、頭を抱えそうになったよ。
そもそも、親しむって、何??
同じ疑問をいだいたらしい、他の閲覧者と一緒になって詳しくたずねると、この世界の住人さんですか? って訊きたくなるくらいに、他の情報まで細かく教えてくれて、正直内心はずっと白旗を振って降参の気持ちを捧げていた。
だからうっかり、本物の魔導師のかたなのか、なんて変なことを訊いてしまったんだけど……たぶん、ボクのこの発言がきっかけで、さらに上手く繋げてくれた人の発言の結果、[シードリアの魔導師]と言う二つ名が爆誕してしまったんだよね……。
そのことに関しては、ちょっと申し訳なかったな。
ただ、その後よくよく調べてみたら、意外な事実に繋がっていて、むしろこの二つ名は妥当だと、思い直したけど。
それは、あのシードリアの魔導師さんの、正体。
元々、初日からすでに語り板で有名な攻略系や先駆者のプレイヤーは、数人いたんだけど……まさかの、その内の一人だったなんてね。
エルフ族のプレイヤーたちから流れて来た、精霊たちと仲良くなる方法。
それを伝授してくれた、精霊の先駆者さん――それが、シードリアの魔導師さんと同一人物だったとは。
それなら、あの知識量にも納得だなぁ、なんて思いながら、また日々を過ごしていたんだけど。
今日、トリアの草原に挑戦する目的で組んだ即席パーティーの中に、あの精霊の先駆者さんかつシードリアの魔導師さんで、プレイヤー名はロストシードさんと言うらしい、その人が加わった。
……うん、さすがに顔に出すのは自重したけど、それでも内心は疑問符と混乱と緊張と感動の嵐だったよ!!
まぁ、そのあとふわっと仲間なことが発覚して、勝手に親近感をおぼえたくらいには、一緒にいて落ち着く人柄なのは確信したんだけど……。
ただ、回復役としてパーティーに参加してくれて、良いタイミングで的確に回復魔法をかけてくれている姿を眺めながら、気になったことが一つ。
――この人、ぜっったい、本気出してない。
試しに、攻撃系のオリジナル魔法を使ってみてもらったけど、ボクが使う魔法よりずっと強力な魔法だってことと、やっぱり本気出してないってことしか分からなかった。
でもそれなら、分かるような状況をつくればいいんだよね。
素直な好い子なんだろうな、っておもうアネモスとウルにも協力してもらって、次はもっと強い敵がいる、トリアの森に挑戦することに決めた。
さいわい、ロストシードさんもまだ付き合ってくれるみたいで、一安心。
お互い昼食後、再度パーティーを組んで、トリアの森に行くことを約束してから、三人より先にログアウトしたのは――楽しみすぎるこの気持ちが、そろそろ顔に出そうだったから、なんだよね。
※明日は、
・十三日目のつづきのお話
を投稿します。
引き続き、お楽しみください!




