三百十一話 いいえ、攻略系ではありません
※戦闘描写あり!
休憩を挟みつつ、草原での戦闘をさらに数回おこない、ずいぶんとお三方の慣れが見えるようになってきた頃。
サァァ――と闇色から一転し、明るくなった空から薄青の光が降り注ぐ美しい光景に、四人そろって夜明けの時間の空を見上げる。
ぱっと眼前に現れた小さな光の精霊さんが、嬉しげに声を上げた。
『きたよ! しーどりあ!』
「いらっしゃいませ、小さな光の精霊さん」
迎え入れた光の精霊さんが、頭の上に乗る姿に微笑みを深める。
精霊のみなさんが見えない人間族のアネモスさんとウルさんからは、やはり不思議そうな視線を向けられているけれど、それはそれとして。
テトさんまでも、浅緑の瞳で順に小さな五色の精霊さんたちを興味深げに眺めているのは、光と闇の精霊さんが珍しいのだろうか?
小さなお姿と反する落ち着きをもったテトさんの、純粋な様子が少々可愛らしい。
ついにこにこと笑顔になっていると、ハッとした表情を一瞬うかべたテトさんは、コホンと一つ咳払いをした。
「そう言えば、だけど」
「はい」
「うん? どうしたの? テト」
「なんか気になるコトでもあったか?」
おもむろに呟いたテトさんの言葉に、私たちがそろって反応を返すと、浅緑の瞳が真っ直ぐに私へと注がれる。
「ちょっと思ったんだけど。もしかしなくても、ロストシードさんって回復魔法より、攻撃魔法のほうが、すごい魔法使えたりします?」
――おっと、その点に思い至ってしまいましたか。
テトさんの言葉に、アネモスさんの銀の瞳とウルさんの金の瞳まで、じぃっと注がれはじめる。
ここは素直に、肯定の言葉を伝えるとしよう。
一つうなずきを返して、穏やかに答えを紡ぐ。
「えぇ。お察しの通り、私は攻撃系の魔法のほうが得意です。基本的には、敵からの攻撃を受ける前に、攻撃魔法で倒す――という戦法を、とっておりますので」
「やられる前にやる! ってやつだなっ!」
「はい。事実上、そうなっております」
戦法の説明に対し、ニカッと笑ってウルさんが告げた言葉に、こちらも笑顔で返す。
たしかに、まさしく倒される前に倒してしまおう、という戦法なため、なんとも的確な表現だ。
ウルさんの表現に笑みを深めながら、どこか感心したような表情をうかべているアネモスさんと、何やら考えごとをしているらしいテトさんを見やる。
しかしアネモスさんと会話をはじめる前に、テトさんが顔を上げて口を開いた。
「なら試しに、次の戦闘はロストシードさんも、攻撃魔法を使ってみてくれませんか?」
「回復魔法ではなく、ですか?」
「うん!」
……心なしか、伏し目がちな浅緑の瞳が、煌いているように見える。
いったい何がテトさんを楽しませているのかは分からないものの、チラリとうかがい見たアネモスさんとウルさんもうなずいてくださったため、お次の戦闘では私も攻撃魔法を使うことが決定した。
それではさっそくと再び挑んだグランドグラスパンサーへ、アネモスさんとウルさんが攻撃する動きに合わせながら、合間に雷光の一閃や風の一閃を飛ばして参戦する。
私が攻撃系のオリジナル魔法を活用した結果は、予想通りずいぶんとあっさりグランドグラスパンサーがつむじ風となってかき消えたことで、お三方の瞳にはっきりと映ったことだろう。
「うん……予想はしてたけど。ロストシードさんって、やっぱり攻略系だったんですね」
「いえ、違いますね」
「え?」
なぜか生暖かい眼差しと共に紡がれたテトさんの言葉に、即座に首を横に振る。
思わず、と言った風に疑問を口から零したテトさんのみならず、アネモスさんとウルさんもそれぞれ驚いた表情をしているところ、申し訳ないのだけれども。
――この認識はゆずれないので、しっかりとお伝えさせていただこう。
「私は攻略系ではありませんよ。ただマイペースにこの大地での冒険を楽しんでいるだけの、いちプレイヤーですから」
にこり、ととびきり美しいはずの笑顔で告げた私の言葉に、どうしてかお三方が一様にビシリと表情を固めた。
どうしたのだろうかと、固まってしまったお三方に小首をかしげると、さらに驚愕を深めた表情になったウルさんが、あわあわと口を開く。
「へっ? あんなに強いオリジナル魔法を使っておいて……?? や、ありえねぇだろ??」
「えぇっと……あり得ます、よ? 現に、私が拠点としているのは、まだパルの街です。本物の攻撃系のかたでしたら、おそらくもう何日も前から、トリアの街に拠点を移しているはずですよ」
混乱を極めたように疑問を零したウルさんへ、高めの声音をさらにやわらかく発声することを意識して、説明を紡いでみる。
すると、テトさんとアネモスさんはゆったりとうなずきを返してくださった。
「それは……たしかに、そうだとボクも思います」
「俺も、拠点とかは、そうだと思います」
「分かっていただけたようで、何よりです」
お二人の肯定の言葉に、また笑顔を返しながら、胸の内で良かったと呟く。
どれほど私が、最前線近くでも問題なく戦えるほどの強さを有していたとしても、実際に攻略系として【シードリアテイル】を遊んでいるわけではないという事実は、くつがえりはしない。
であれば、誤解は早めにとけたほうが良いと思うのだ。
いまだに首をひねっているウルさんの肩と背中を、アネモスさんとテトさんがぽんぽんと軽く叩いているのを眺めながら、そう言えばと思考する。
今回のお話の流れから、お三方が攻略系ではないという察しはついたわけだが。
そうなると現在は、攻略系ではないプレイヤーも、そろそろトリアの街に集まりつつある、と言うことではないだろうか?
このような変化が起こっていると言うことは、必然的に後発組のプレイヤーのかたがたもまた、順調にレベルや技能を上げてきている、と言うことに他ならない。
一度この点に気づいてしまうと、私ももっとこの最前線に近い場所を楽しみたいと思えてくるのだから、不思議なものだ。
とたんに小さな五色の精霊さんたちが、小さくぽよぽよと肩と頭の上で跳ねる様子に、好奇心や高揚感は自然と他者にも伝わっていくものなのかもしれないと感じて、素敵さに口角が上がる。
そのような思考をしている間にも、気を取り直したウルさんと一緒に、アネモスさんとテトさんが何やら相談をはじめていたらしく、テトさんの呟きが零れた。
「う~ん。正直、草原ではロストシードさんの力を、引き出すこともできなさそうなんだよねぇ」
「あ! なら、森に行こう!」
「おっ! それいいな!!」
テトさんの言葉に、そうアネモスさんとウルさんが意気込んでいる。
みなさんと一緒にトリアの森の魔物と戦いに行くことは、いっこうにかまわないのだけれども。
実はそろそろ、現実世界では昼食の時間なのだ。
ここは一つ、可能ならば休憩を挟んだ後にさせていただきたいところ。
眼前で名案だと声を上げるお三方の会話の中へ、「まぁまぁ」と穏やかに参加する。
「森へ行くことはかまいませんが、お腹がすいていては、戦はできないと申しますからね。――昼食後、改めて挑戦してみるのはいかがでしょう? もちろん、みなさんのご都合がよろしければ、ですが」
右手の人差し指を立て、微笑みながら紡いだ私の提案に、お三方はすぐに肯定を返してくださった。
その後、みなさんと共に一度石門をくぐり、すぐそばの大通りの端にて、ログアウトすることに決まる。
「では、また後で」
「また!」
「またな~!」
「えぇ、またのちほど」
テトさん、アネモスさん、ウルさんとつづいたあいさつの言葉にまたを返して、お三方が金光と共に姿を消す様子を見届けたのち。
少しだけ失敬して見知らぬ家の陰に隠れ、各種魔法を解除し、小さな多色と水の精霊さんたちが、あまり他のシードリアのかたに目撃されないことを祈りながら見送り。
小さな五色の精霊さんたちとも、またねを交わして――ログアウトを呟いた。
※明日は、主人公とは別のプレイヤー視点の、
・幕間のお話
を投稿します。




