三百六話 状態異常対策戦!
※戦闘描写あり!
「さて。魔法を習得したのであれば――お次は実際に試してみなければ、ですね!」
『おためしだ~~!!!!』
「えぇ! 今回のお試しは、トリアの森でおこないましょう!」
『はぁ~~いっ!!!!』
小さな四色の精霊さんたちへ次の行動をお伝えして、精霊神様に再度感謝のお祈りを捧げてから、お祈り部屋を出る。
そのまま神殿の外へと出ると、あたたかな夕陽を浴びながら大通りを歩き、ワープポルタのある最初の噴水広場へと踏み入った。
蒼い球体に手をかざし、トリアの街をイメージ。
すぐに輝いた光に包まれ――トリアの街へと転送完了!
中央の噴水広場から、さっそく石門へと向かって足を進め、他のシードリアのかたがたが戦うトリアの草原をすぎて、トリアの森の中へ。
夕方から宵の口へと時間が移ろい、小さな光の精霊さんとまたねを交わして、小さな闇の精霊さんを迎え入れながら、まずは森の右側へと枝の上を移動する。
このトリアの森の右側には、雷属性の魔法を使う魔物が、多数生息しているらしい。
今回はまずその魔物と戦い、麻痺の状態異常とその解除を試すことにした。
枝を蹴り、次の枝の上へと優雅に着地して――スキル《存在感知》の反応に、その場で足を止める。
いやに静かな森の中、ひときわ大きくザッと地を蹴る軽やかな音が耳に届いた、刹那。
――眼前に突如、小さな獣の姿が現れた!?
とっさに〈瞬間加速 一〉発動し、思い切り真横へと飛びのく。
左耳がバリッ! と雷の魔法特有の効果音を拾ったことで、どうやら目当ての魔物と遭遇したらしいと察しつつ、飛びのいたそのままの勢いで近くの樹の幹の陰へと身を隠す。
遅れて、さきほど大きく地を蹴る音を耳に届けてくださったのは、〈恩恵:シルフィ・リュース〉による小さな風の精霊さんたちの力だと察して、心の中で感謝を紡ぐ。
急襲に対応できたことは、素直にありがたい限りだ。
……とは言え、すでに対峙した今もまた、油断できる状況ではないのだが。
そろり、と幹の陰からのぞき見たさきほどまで足をかけていた枝の上には、茶色い毛並みに一筋の線を紫の毛で描いた、イタチ姿の魔物パラリシスウィーゼルが、余裕の態度で毛づくろいをしていた。
樹の幹の陰に、私がいることには気づいていると思うのだけれど……なんとも、倒しがいのある相手のようで。
思わず、フッと不敵な笑みを口元にうかべて、こちらも打って変わって余裕の態度で樹の幹から姿を現す。
元々、麻痺状態の確認も含めての戦闘を望んでいたのだ。
――ここは一つ、まずは麻痺状態になってみよう!
「ごきげんよう」
『キーキー!』
不敵な笑みをうかべたまま、再び対面したならばと紡いだあいさつの言葉に、パラリシスウィーゼルも鳴き声を返してくれた。
もっとも、次の瞬間には素早い動きで眼前に迫って来たため、可愛げを感じるヒマもなかったが。
「っ!」
息をつめて、振り下ろされる小さな獣の手に、かろうじて左腕を引っかけるていどで攻撃を受け――次の瞬間、冷ややかな感覚が全身を駆け抜け、バリッと鳴った音と身体にまとわりついて煌く紫色の稲光に、麻痺状態になったことを察する。
視界の左上には、しっかりと[状態異常:麻痺]と書かれた文字がうかんでいた。
パラリシスウィーゼルからの追撃は、ない。
軽やかに後退し、まるで獲物を追い詰めるのを楽しんでいるかのように、次の一撃を加える機会を探っているようだ。
……そちらがその気ならば、こちらも存分にこの戦いを、楽しませていただきます!
明確に動きづらさを感じる身体に魔法発動地点を意識して――〈オリジナル:麻痺打ち消す珠の白雷光〉、発動!
ふわりと立ち上った白雷を宿した真珠大の蛍に似た白光が、あっという間に見事、麻痺を解除する。
フッと不敵な笑みを深めた私の様子に気づいたのか、再度一瞬で距離をつめて攻撃をしてきたパラリシスウィーゼルに、もう一度左腕だけを差し出す。
しかし、今回の攻撃では麻痺状態を示す各種反応が起こらず、代わりに[《祝福:不変の慈愛》により、状態異常:麻痺を回避]という文言が、視界の左上にうかんだ。
本当に、祝福とはなんと偉大な授かりものなのだろう。
深い感謝を夜明けのお花様に捧げつつ、今度は容赦なく、〈オリジナル:隠されし刃と転ずる攻勢の三つ渦〉を発動!
風と水と土の鋭い攻撃と、さらに転じて加えられた三色の渦の攻撃に、パラリシスウィーゼルはあっけなく、淡い紫色のつむじ風となってかき消えた。
地面に落ちた紫色の魔石と尻尾を拾い上げてカバンに入れ、ぴたりと肩と頭の上にくっついてくださっていた、小さな四色の精霊さんたちへと笑顔で紡ぐ。
「麻痺状態、およびその解除の確認、完了です!」
『かんりょう~~!!!!』
精霊のみなさんの嬉しげな声に微笑みながら、お次はと再び枝の上の移動を開始する。
次は石化状態とその解除の確認のために、トリアの森の中央から奥側にいるらしい、石化の状態異常をもたらす魔物を探す。
ツインロックという名のその魔物は、岩に擬態して待ち構えるアースロックに似た、小さめの灰色の岩を二段重ねたような姿の魔物だ。
他の魔物を振り切り、はじめておとずれるトリアの森の中央付近をすぎたあたりで、さっそく二段の岩に擬態した、ツインロックを発見!
さきほどのパラリシスウィーゼル同様、この魔物の攻撃を受けた部分が石化するらしいので、うっかり心配させてしまうことがないように、あらかじめ周囲を確認する。
さいわいにも、他のシードリアのかたはいないようなので、さも気づいていないかのようにゆっくりと、ツインロックへ近づく。
――刹那、予備動作なしに二段の岩が跳ねて、こちらへと突撃してきた!
すぐさま横に身体をずらし、左の掌だけを岩の体躯の攻撃に当てる。
掌全体がヒヤリと冷たさを感じるのと同時に、バキッと硬質な音が鳴り、左の手から手首にかけて艶やかな灰色にそまった。
試しに動かそうとしてみるものの、指先さえ動かせないほどしっかりと、固まってしまっている。
なるほど、これが石化状態かと、半ば感心しつつも地を蹴ってツインロックから距離を取り、〈オリジナル:石化崩し解く旋風の白砂光〉を発動。
サラサラと巻き起こった白光を煌かせる白砂が左手を撫でた瞬間、ボロボロと石が崩れるように石化状態が解除され、思わず笑みがうかぶ。
どうやらこちらも、見事な解除魔法として仕上がっていたようだ。
満足さに笑みを深めたのち――再び突撃してきたツインロックをさらりと避け、遠慮なく〈オリジナル:迅速なる雷光の一閃〉を連発して、灰色のつむじ風へと変える。
灰色の魔石と石をカバンにしまい、改めてぐっと右手で拳をつくり、微笑んだ。
「石化のほうも、確認完了! 素晴らしい出来栄えです!」
『しーどりあ、すご~い!!!!』
満足さに声音を弾ませて紡いだ言葉に、小さな四色の精霊さんたちが歓声を上げて拳の上へと集合する。
精霊のみなさんに褒めていただいたので、私はもう大満足です!!




