三百五話 解除ポーションと解除魔法
穏やかな朝の気配に目を覚まし、身を起こして深呼吸を一つ。
朝の散歩と言う名の運動をおこない、美味しい朝食を楽しみ――十三日目の【シードリアテイル】へ、ログイン!
ふっと大地での感覚が宿ると同時に、頭を撫でられるかすかな感触に気づき、思わず口元がほころんだ。
『しーどりあ、おかえり~~!!!!』
「みなさん! ただいま戻りました」
『わぁ~い!!!!』
私の頭を撫でた後、ぱっと眼前へと姿を現した小さな四色の精霊さんたちに、微笑みながらあいさつを返す。
蔓のハンモックから床へと降り立つと、窓から射し込む夕陽の眩さに緑の瞳を細めつつ、いつもの準備を開始する。
〈フィ〉と呼びかけて現れてくださった小さな多色の精霊さんたちに、〈ラ・フィ・フリュー〉の持続発動をお願いし、〈アルフィ・アルス〉を発動して小さな水の精霊さんたちにも継続的な発動をしていただく。
〈オリジナル:見えざる癒しと転ずる守護の水風〉と〈オリジナル:風をまとう石杭の刺突〉を展開したのち、石杭の魔法と精霊さんたちをスキル《隠蔽 四》にて隠して――準備完了!
ふわりと小さな四色の精霊さんたちに微笑みかけ、まずはとこれまたいつもの言葉を紡ぐ。
「それでは、まずは神殿へまいりましょう」
『はぁ~~い!!!!』
楽しげにくるくると舞い、ぽよっと肩と頭の上の定位置へと降り立った、四色の精霊さんの可愛らしい行動をしっかりと見届けてから、宿部屋を出る。
夕食の準備で忙しそうな女将さんに会釈をして宿屋を出ると、橙色に照らされた大通りを進み、中央の噴水広場を抜けてさらに先へ。
白亜の神殿へとたどり着くと、すでに見慣れた光景となった神殿内を行き来する人々の多さに笑みを深めながら、精霊神様のお祈り部屋に入り、さっそくと《祈り》をはじめる。
天神様、魔神様、獣神様へのお祈りも終え、技神様のお祈り部屋での《祈り》を開始して、先日新しい装飾品をつくったことをご報告した時――つづけて思いうかんだオリジナルポーションをきっかけにして、ふと疑問が湧いた。
「そう言えば……アード先生はどうして、状態異常を解除するポーションばかりを私に必要なものとして選んでくださったのでしょう?」
『じょうたいいじょう????』
「えぇ……解毒や麻痺、それに石化を解除するポーションを、パルの街へと進む手前の買い物の際、選んでくださったことを思い出しまして。少々不思議に思ったのですよ」
『ふしぎ????』
つい呟きとなって零れた言葉に、眼前で少しだけ小さなその身をかたむけて疑問符をうかべる精霊さんたちに、考えを紡ぐ。
「はい。実際には、パルの街周辺で状態異常をもたらすような魔物は、アースビーくらいしかいないはずです。ですから、なぜアード先生は状態異常を解除するポーションを、パルの街へ行く私に選んでくださったのか……不思議なのですよねぇ」
湧き出た不思議さに、うぅん、と片手を口元にそえながら小さくうなると、その身をよせあった四色の精霊さんたちが、ぱっと自らの色の光を強めた。
『あのね! それはしーどりあが、つよいから!』
『しーどりあ、いっぱいつよいまものと、たたかえるから~!』
『もっとつよいてきと、しーどりあはたたうから~!』
『とおいところでも、しーどりあがたたかえるように、だよ!』
――なるほど。つまりは先を見越しての選定だった、と!
予想外の真実に、思わず緑の瞳を驚きにまたたきながらも、しかし精霊のみなさんの言葉はたしかに的を得ていると感じて、うなずきを返す。
「そう言われてみますと、エルフの里では私のウワサ話が広がっていたくらいですから、アード先生も私がそれなりに強いということをご存知の上で、パルの街よりさらに遠い場所へ冒険に行くことを考慮して選んでくださった可能性はありますね……」
『うんっ!!!!』
自信満々な小さな四色の精霊さんたちに、納得の感情がつのっていく。
事実、トリアの街周辺にはたしかに、状態異常をもたらす魔物がいると、魔物図鑑には書かれていた。
むしろそれらの魔物と戦うためには、解除系のポーションをそろえておくだけでは、間に合わないかもしれないとさえ思う。
そこで――閃いた!
「そうです! ポーションだけではなく、状態異常を解除する魔法を習得できれば、戦いの際にも安心です! 何より便利です!!」
『わぁ~~!!!! あんしん!!!! べんり!!!!』
「えぇ!!」
精霊のみなさんもそう思うのならば、私の閃きは、名案だったに違いない!
さっそく、丁寧に技神様への《祈り》を終えて、再度精霊神様のお祈り部屋へと入り込む。
もう一度《祈り》を発動させたのち、改めて今回習得したい魔法について思考を巡らせていく。
正直なところ、夜明けのお花様から授けていただいた祝福以外で、私が知っている状態異常を解除するための方法は、各種解除ポーションのみだ。
回復魔法ではなく、状態異常を解除する魔法が存在するのかさえ、現状ではまだ分かっていない。
語り板をくまなく調べてみれば、もしかするとそのような情報も出てくるかもしれないが……しかし今回は、情報収集よりも自力で解決したいという気持ちのほうが、少々まさっている。
ゆえに――この好奇心にあわせて、私の想像力だけで魔法を習得できるか否かの、勝負に打って出てみよう!
自然に上がった口角をそのままに、ではどのような魔法にしようかと、さらに考えをまとめていく。
「さいわい、夜明けのお花様から授けていただいた祝福の効果で、私は常時解毒状態ですから、解毒の魔法は個人的には今習得しても、あまり使わない可能性が高いのですよね……」
つらつらと声に出しながら思考を整理して、ひとまず解毒の魔法は習得を保留にし、他の麻痺や石化を解除する魔法を習得することに決める。
どのような効果の魔法を習得するかを決めてしまえば――後は、魔法の形をイメージするだけ!
麻痺は雷、石化は石の要素をおびて状態異常をなすものと仮定し、麻痺には同じく気つけをかねた雷属性、石化にも同様に石どうしを打ち合わせて割り崩すように土属性をイメージに使うとして……。
ここに、回復や浄化をおこなう光属性を、解除でも活用できる可能性にかけて、加えてみよう!
麻痺解除は、白い雷を内包した、蛍が放つ光のような小さな丸い白光が地面から立ち昇り、触れた存在の麻痺を解除するイメージ。
石化解除は、白光を放つ白砂が低く渦巻いて、触れた存在の石化を解除するイメージをおこない――しゃらん、しゃらんと、つづけて鳴る美しい効果音に、緑の瞳を開く。
空中にうかぶ二つの魔法の名に微笑み、灰色の石盤を開いて説明文を確認する。
「〈オリジナル:麻痺打ち消す珠の白雷光〉は、[無詠唱で発動させた、小範囲型のオリジナル解除系複合下級光兼雷魔法。発動者の周囲、あるいは指定した地点に、白き雷を宿した無数の小さな球状の白光を立ち昇らせ、麻痺状態を解除する。無詠唱でのみ発動する]。
〈オリジナル:石化崩し解く旋風の白砂光〉は、[無詠唱で発動させた、小範囲型のオリジナル解除系複合下級光兼土魔法。発動者の周囲、あるいは指定した地点に、光る白砂を低く巻き上げ、石化状態を解除する。無詠唱でのみ発動する]――えぇ。好い仕上がりですね!」
完璧な解除魔法の習得に、つい満面の笑みがうかんだ。
――麻痺解除魔法、並びに石化解除魔法、習得大成功!!




