三百四話 幕間三十一 魔導師と逆鱗を語るエルフたちの世迷言板
※誰かの視点ではなく、世迷言板内のやり取りの記録です。
【シードリアテイル】サービス開始から十二日目。
現実世界では明日へと日付が変わる手前の、とあるエルフたちの世迷言板にて。
[はい! 常連さんたち、集合!]
[お? どうした?]
[はい。何事ですか?]
[シードリアの魔導師って、知ってる?]
[あ~~]
[……つい数時間前に、上がった呼び名ですよね]
[ふ~ん。お二人とも知ってたんだ? と言うかもしかして、この件関わってたりする?]
[ははは、いや~。……お見通しだよなぁ、やっぱり]
[……お察しの通りです。私は見学していただけですが]
[え、なに、もしかしてお一人が当事者で、それを隣で見学してた……みたいな?]
[俺は当事者っていうか、情報提供をその場で促したってかんじだな]
[私はおっしゃる通り、隣で見学していました]
[へぇ~? で、うながして書かせた情報の内容が、オリジナル魔法の謎を一部解き明かすようなものってことは]
[あ~~、まぁ。その……予想通りの人だ]
[やっぱりあの人なのね!?!?]
[まぁな]
[そうです]
[もっと早くにほしい情報だったよぉ~~!!!]
[まぁ、攻略系の人からすると、そうなるよなぁ。だからこそ、俺もその情報は語り板に書いてほしいって伝えたんだし]
[間違いなく、すべてのプレイヤーがオリジナル魔法を習得する足がかりになる情報、でしたよね]
[それな]
[ほんっとに! あの人って何者なの!? かなり初期の段階から、オリジナル魔法を使ってたのは知ってたけど!!]
[シードリアの魔導師だな]
[シードリアの魔導師の名に、ふさわしいかたかと]
[……そもそも、その呼びかたって、ちょっとすごすぎない?]
[あ~、凄すぎるって感想を否定する気はないが。ただ、例の人がそう呼ばれるだけの情報提供をしたのも、また事実――ってやつだな]
[すべてのプレイヤーの、魔法に関する部分を導く師。私は、彼にふさわしい呼び名だと思います]
[それが、すごすぎるのよ……]
[それはそう]
[たしかに]
[や、でも実際に提供された情報をもとに、オリジナル魔法の習得を試して成功したって事例は、続々と語り板に書き込まれてるぞ]
[それは見た。というか見たからこの話題をふったのよ]
[なるほどな~]
[素晴らしい反響ですよね。私も実際に彼のオリジナル魔法を見たことがありますが、本当に下級魔法なのか疑うほどでした]
[えっと、それって]
[まさか……な?]
[……そのまさか、かもしれません]
[うぉぉいマジか!?!?]
[お願いだれかウソだといって]
[もちろん、真相は分かりませんが。彼ならば、あるいは、と]
[そ~~なるよな~~!!]
[ちょっと、もう……どこまで想像の斜め上を行くのよ、あの人は……]
[中級魔法か……。攻略系の人たちって、もう使ってる人いるのか?]
[いるにはいるけど。ほとんど、魔法一覧の本から名前と効果おぼえて習得する、既存魔法のほうよ。中級のオリジナル魔法を使ってる人なんて、ほんの数人]
[マジかぁ……]
[それは……]
[うん。だからやっぱりすごすぎるのよ]
[……まさか、例の人。中級のオリジナル魔法の先駆者だったり……]
[……実は、あり得ると思ってる]
[わぉ]
[さすが、ですね]
[ほんとにね……。って、そう言えば精霊関連の話はきいた?]
[どれだ?]
[逆鱗の噂ですか?]
[それ!]
[逆鱗って……また物騒な]
[精霊を傷つけるととてもお怒りになる、とても強い青年エルフのプレイヤーがいる、という噂です]
[間違いなく例の人だろ、それ]
[あたしもそう思った]
[私もそう思いました]
[っていうか、それ、誰が何をやらかして、あの穏やかな例の人を怒らせる、なんてことになったんだ?]
[えっと、たしか魔物との戦いで、フレンドのエルフの子の精霊を魔物がおそって……って話だったと思う]
[私も、魔物が精霊を傷つけたことに対して、とても怒っていた、という内容のものを読みました]
[それで、精霊を傷つけるのは例の人にとっての逆鱗ってウワサになったのか]
[うん]
[そうです]
[――逆鱗、把握! これから会う時は気をつけます!]
[うん。あたしも気をつけておく]
[私も気をつけます]
[ほんと~に! 話題が絶えないな! 例の人は!!]
[それよ]
[本当にそうですね]
そうして、常連のエルフたちによる興味深い話題をそえた雑談は、今日もにぎやかにつづいていった――。
※明日は、
・十三日目のはじまりのお話
を投稿します。
引き続き、お楽しみください!




