三百一話 見えざる癒しの付与魔法
素晴らしい付与魔法の神秘を知ったからには――この知識をよりよく活用してこそ、魔法使いを名乗れるというもの!!
「みなさん! 今回のレベル四十にする目標は達成できましたので、お次は新しい付与魔法を習得しようと思います! 神殿へまいりましょう!!」
『わぁ~~い!!!!! しんでん~~!!!!!』
肩と頭の上でぽよぽよと跳ねながら歓声を上げる、小さな五色の精霊さんたちに笑顔を返して、枝を蹴る。
夜明けの幻想的なトリアの森を、さっそくスキル《疾走》を活用してより速く駆け抜け、草原も抜けて石門をくぐり、トリアの街中へ。
この街のつくりは、パルの街とほとんど変わらないため、中央の噴水広場を抜けた先には、白亜に煌く神殿が薄青の光に照らされて建っていた。
神殿へと踏み入ると、サッとぶしつけにならないていどに、広間を見回す。
神々の壮麗な白き巨像が鎮座していることは、変わりなく。
パルの街と同じように、いろいろな種族の神官さんがいるが……人数はパルの街よりも少なく、これまたそれぞれ忙しそうにしていた。
見回す限りでは、少々人間族の神官さんが多いだろうか?
ドワーフ族の神官さんも、少し多いように見える。
白亜の空間を進みながら、パルの街の神殿との違いを楽しみつつ、迷いなく精霊神様のお祈り部屋へと入り込む。
長椅子へと腰かけて、まずは《祈り》を発動。
しっかりと感謝の念を捧げたのち――本題の付与魔法について、思いをはせる。
「まずは、今後スキルに昇華するとして、それはどのような効果だとありがたいか……。この点が、大切ですよねぇ」
あえて言葉にして思考を整理しながら、考えを巡らせていく。
「より速く走る付与、守護の風魔法の効果を高める付与……身体が慣れることでスキルへの昇華に至ると言うことは、おそらく身体に何らかの影響をおよぼすたぐいの魔法である必要が――」
つらつらと思考をつぶやきながら、少しずつそれらを魔法の形に落とし込む。
「もっとも端的に有用な、身体に影響を及ぼす魔法と言えば……回復魔法、ですかね」
『かいふくまほう、だいじ~~!!!!!』
くるくると、眼前で綺麗な舞を見せてくださる、小さな五色の精霊さんたちの肯定に、一つうなずきを返す。
「そうですよね。やはり、いざという時の回復手段は多いほうが良いと、私も思います」
『うんっ!!!!!』
精霊さんたちの元気な返事に、ふっと口元がゆるむ。
果たして、実際に回復系のスキルが習得できるかは、いまだ半信半疑なところではあるが……とは言え、生命力回復効果の付与魔法は、習得しておいて損はないだろう。
癒しと言えば、今までも水や風や光の魔法を回復魔法として習得してきた。
ただ、今回習得するのは付与魔法なので、複数の属性を併用する難しい魔法を想像することは、やめておこう。
一瞬、光魔法ならば天神様のお祈り部屋で習得したほうがいいだろうか、と頭を過ぎり、少し悩む。
とは言え他の種類の魔法ならばともかく、付与魔法となるとやはり、一番魔法を習得してきた精霊神様のお祈り部屋でおこなうほうが、個人的には安心できると感じた。
素直に、直感には従っておく。
さて――もろもろが決まれば、あとは習得するのみ!
深呼吸をして、集中。
身体へと付与するイメージを忘れずに、しかし今回はシンプルな魔法にしよう。
普段使いをしやすいように、色を隠した白光の回復魔法が、身体の傷を癒していく想像を鮮やかにおこない――身体を包む、かすかなぬくもりを感じた、刹那。
しゃらんと、聞き慣れた効果音が鳴った。
そっと閉じていた緑の瞳を開くと、眼前には光る文字。
[〈オリジナル:見えざる癒しの白光の付与〉]
そう書かれた魔法名に、ふわりと微笑みがうかんだ。
『いやしのふよまほうだ~~!!!!!』
とたんに嬉しげな声を上げ、ひゅんひゅんと溶け消えて行く文字を囲む精霊さんたちのほうに癒されながら、新しい癒しの付与魔法の説明文を見るべく、灰色の石盤を開く。
サラサラと刻まれてゆく説明文を、視線で追いながら読み上げた。
「[無詠唱で発動させた、付与型のオリジナル回復系下級光魔法。白の色を隠して身にまとう、癒しの白光の付与。無詠唱でのみ発動する]――完璧ですね!」
『かんぺき~~!!!!!』
問題なく、想像通りの付与魔法を習得できた喜びに、小さな五色の精霊さんたちへと両手を広げ、掌と小さな身とでぽよっとハイタッチを交わす。
以前、回復魔法は重ねがけをすることで、一度に多くの生命力を回復することができると教えてくださったのは、他ならぬ精霊さんたちだった。
癒しの付与魔法の習得により、これでまたいつか生命力が大きく削られるような出来事があった際にも、身を護る手段が一つ増えたと言える。
複数の回復魔法の重ねがけならば――もしかすると、一瞬で半分まで減った生命力さえ、全快させることが可能かもしれない!
もちろん、そもそもそれほどまで生命力を削られるような状況は、可能な限り回避し、せめてその手前で解決することが出来れば、なお良いのだけれど。
「この大地での冒険は、何が起こるか分からないところが、一番の醍醐味ですからね。備えあれば患いなし、です!」
『うれいなし~~?????』
「えぇ! 癒しの付与魔法があると、安心できると言うことです!」
『あんしん~~!!!!!』
精霊さんたちへ説明をして、さて実践をと新しい付与魔法を発動。
持続的に展開する意識をして、発動した〈オリジナル:見えざる癒しの白光の付与〉は、ほわりとほのかにあたたかな温度を身体にもたらした。
しっかりと白光のその輝きが見えないことを確認したのち。
素晴らしい出来に、再度精霊神様へと感謝のお祈りを捧げたのだった。




