三百話 レベル四十と付与魔法の神秘
※冒頭、少しだけ戦闘描写あり!
濃い緑色の毛をもつ巨体が、ドッと地を蹴り突進をしてくるのを、軽々と〈瞬間加速 一〉を使って避けつつ、樹の枝の上へ。
トンと枝を足場にして、空中へと身を躍らせ、こっそりひっそり必殺の一撃を巨大なイノシシ姿の魔物に放つ!
「〈スターリア〉!」
凛、と紡いだ魔法名は、美しい星を頭上から落とし――その星の魔法は、黒い牙を向けていた敵を、容赦なく鮮やかに貫いた。
フォレストボアの上位種、キングフォレストボアがつむじ風になってかき消えるのを見届け、リンゴーンと響く鐘の音と、しゃらんと美しく鳴った効果音に、ふぅと吐息を零す。
と、サァァ――と周囲の闇色が幻想的な薄青の光に移り変わり、夜明けの時間がおとずれた。
相変わらず美しい光景に、うっかり気を取られてしまい、新しく習得したのだろうスキルか魔法は、その名前を見る前に溶け消えてしまう。
小さな光の精霊さんを迎え入れつつ、ひとまず確認をしようと、近くの樹の枝に登って安全を確保したのち。
サッと灰色の石盤を開き、まずはたしかにレベル四十になっていることを緑の瞳に映す。
「間違いなく、レベル四十ですね」
『わぁ~~い!!!!! しーどりあ、おめでとう~~!!!!!』
「ふふっ、ありがとうございます」
小さな五色の精霊さんたちのお祝いの言葉に、頬をゆるめて感謝を返し、お次はとスキル一覧のページを開く。
新しく習得したことを示す光る文字は、[《疾走》]と[《風の護り》]の二つ。
一応、魔法のページも開いてみたが、どうやら今回新しく習得したのは、先のスキルだったらしい。
改めてスキル一覧から、説明文を確認していく。
「ええっと……《疾走》のほうは[敏速な走りかたに順応し、より速く走ることができる。常時発動型スキル]。
《風の護り》は……[敵の攻撃から身を護る守護の風魔法の効果に順応し、より守護の効果を高める。常時発動型スキル]、ですか」
……どちらも、何やらおぼえのある効果なのは、気のせい、だろうか……?
「素早い動きを可能にする風の付与魔法と、風の盾をまとわせる付与魔法……の効果に、よく似ていますね?」
『うんっ!!!!!』
精霊さんたちからの肯定があったからには、私の認識も間違ってはいないことになる。
この二つの付与魔法とはすなわち、〈オリジナル:敏速を与えし風の付与〉と、〈オリジナル:見えざる護りの風盾の付与〉だ。
〈オリジナル:敏速を与えし風の付与〉の効果は、脚にまとわせることで、敏速な動作を可能にする風の付与。
〈オリジナル:見えざる護りの風盾の付与〉の効果は、銀の色を隠した風圧で、身を護る盾を付与するもの。
二つの新しいスキルはまさに、今身に着けている銀色の足輪と腕輪に付与された魔法の効果と、同じ効果を有している。
これではまるで……付与魔法が、スキルになったかのよう。
――少々、面白いことになってきたのではないだろうか?
ふっと、口角が自然に上がる。
二つの付与魔法と同じ効果を持つスキルを習得したという事実が、いったい何を示すのか。
どちらのスキルの説明文にも、[順応]という表現が使われているところが、気になる。
似たような言葉や文字を使った情報が、何かなかっただろうか?
うぅんと小さくうなりながら、記憶の中を探ること、しばし。
「そう言えば! たしか……以前マナさんのお話で、付与魔法を持続的にかけつづけていたり、付与魔法の効果を長時間受けたりすることで、身体がその効果に慣れて行く、と言うものがありましたね!」
右手に煌く蒼い手飾りを見下ろし、そのお話があったからこそ、私はこの手飾りを選びつづけると決めたのだと、かつての決意を思い出す。
手飾りには、魔力そのものを安定させる上級付与魔法が付与されており、魔法の不発を防いでくれている。
そしてこの手飾りを身に着けつづけることで、安定した魔力に身体を慣れさせ、不発知らずの魔法使いへと至ることが、私の目標の一つだ。
この点を考えると……今回のスキルの習得は、まさしくこの付与魔法の効果に、身体が慣れた、という状態なのでは!?
「と言うことは、まさか! 身体が慣れると、付与魔法がスキルに昇華されると言うことですか!?」
思わず、驚愕の声を上げてしまう。
自身で閃いた発想に、自身で驚くという妙な状態になってしまっているが、正直なところそれを気にしている場合ではない!
付与魔法の効果に慣れることで、近しい効果を有するスキルを習得できる、という推測が真実ならば、これはとんでもないことだ!!
なぜなら、まだまだ私にとっては謎の多い付与魔法の、その神秘……つまり、ロマンを一つ。
――自力で、紐解いたということになるっ!!
「これは、素晴らしい発見です!!」
『しーどりあ、すご~~いっ!!!!!』
「ありがとうございます、みなさん!!」
これには、つい声音を弾ませてしまうのも、仕方がないというもの!
さらなる魔法の可能性が示された現状に、思わず魔力ポーションで乾杯をしたい気分になった!




