二百九十八話 幕間三十 世界樹の名を冠するお茶会と常連仲間
※主人公とは別のプレイヤー、シルラス視点です。
(幕間六、十、十九と同じプレイヤーさんです)
【シードリアテイル】がはじまってから、十二日目。
今日は、かの精霊の先駆者、素晴らしい細工師、高名なるロストシードが所属するサロンのメンバーと、顔合わせをする日だ。
今回の彼の願い――サロンに招待をしたいという願いが、私と同じく先日知り合った幼いエルフ族の少女、ステラの保護者を増やす意図を含んだ提案だということは、分かっている。
しかしそれでも、ロストシードの澄んだ緑の瞳は、私に対しても真摯に注がれていた。
……だから、なのだろう。
ただでさえ、尊敬する彼が所属しているサロンに、自身も入ることができるかもしれないという可能性に、今日は朝から少々うかれている。
ダンジェの森で狩りをして、冷静になろうとつとめてみたが……残念ながら徒労に終わった。
仕方なく、一度集合場所であるパルの街の中央広場へと戻ってから、一度ログアウトをして、現実世界で物理的に頭を冷やし、ようやく平静を保つことに成功する。
その後――約束の時間よりも早くに再びログインした結果、すぐにロストシードと顔を合わせることとなり、平静さが吹き飛んでしまったが。
ポーカーフェイスにだけは自信があるため、せめてこの心のうかれ具合が伝わらないことを祈りながら、きたるその時をロストシードと、私のすぐ後にログインをしてきたステラと共に待つ。
やがて、駆けて現れたサロン【ユグドラシルのお茶会】の面々は……一目で、ずいぶんと個性的な者たちなのだと、そう感じた。
リーダーのフローラは、快活でにぎやかな一方で、上品で華やか。
まさしくお嬢様と呼ばれるにふさわしい、一番個性的な人物だが、おそらくはそういうロールプレイをしているのだと思う。
存外によく人を見ていて、ステラのような幼い子には、すぐに分かりやすい言葉を使う気づかいをしていた。
サブリーダーのロゼは、冷静に状況を判断して適切に動くことができる人物。
男装の麗人だと自ら語るその姿は、たしかにフローラ同様上品な所作が美しさを際立たせている。
ロゼの場合は、ロールプレイではなくありのままの姿で接しているらしく、自然な立ち居振る舞いには少々驚かされた。
アルテは、大人しくて優しい少女だと思う。
先の二人と比べると、ロストシードと同じくどちらかと言うと一歩下がって状況を見つめながら、会話をしているような印象だった。
ただ、ステラのことをとても可愛らしいと思っている、という部分だけは、筒抜けだったが。
もっとも意外だったのは、元気で明るい少年のルン。
一見すると、フローラ同様に快活な少年だが、思いのほか面倒見が良く、ステラの緊張をすぐに解いた手腕には、いっそ感服したほどだ。
一瞬、兄妹がいるのだろうかと疑問がうかび、すぐさま脳内から消す。
さすがに顔合わせの段階で、現実世界の家族構成を尋ねるのは、論外だ。
せめてもっと親しくなってから、尋ねるものだろう。
そう考えながら、最後にロストシードの人柄を、改めて見てみる。
今回はそもそも私とステラの顔合わせのため、常に間を取り持つように動いてくれているようだが、本来はアルテと同じく相手を観察しながら、穏やかに会話を繋ぐタイプだと思う。
礼儀正しく、親切で穏やか……という部分は、多少ロールプレイの要素もあるだろうが、それでも彼はそもそも心優しい人物だと感じる。
ステラと私が困っている様子を見て、声をかけてくれたことだけでもそう言える上、幼いステラの保護者を増やすために、今回の顔見せまで繋いだのだ。
――やはり、素晴らしい人柄だと、そう素直に尊敬する。
ならばこそ、私もサロンの流儀にのっとるとしよう。
まさに今が、偉大なるロストシード兄君の導きに、応える時だ。
「ぜひとも、サロン【ユグドラシルのお茶会】に、参加させては貰えないだろうか?」
「わっ、わたしも! はいりたい、です!!」
私の言葉の後、すぐにつづいたステラにも、もう迷いはなかったらしい。
そうして決定したサロン入りに、兄君はたしかに嬉しげな笑顔をうかべていた。
嬉しいのは、こちらなのだがな……。
束の間、ついに兄君と同じサロン、それもとても楽しいメンバーのいるサロンに入ることができた喜びに満たされていると、新しい巡り逢いがあった。
「アルさん!」
「よっ! 昨日はありがとな~」
親しげに名を呼び、軽やかに駆け出した兄君に、どこか泰然とした雰囲気をもつエルフの青年が片手を上げて応える。
友人だと一目で分かる雰囲気に、フローラ姐君が確認に行くと、なんと兄君と同じアトリエに入っているとのこと。
あの素晴らしい細工を創り出した兄君が入っているアトリエとなると……その他のメンバーも、ただものではないだろう。
そう思い、歓迎会に同行することになったアルと会話をしたり、買い物を共にしたり、サロンメンバーのオリジナル魔法に驚いたりした後。
……やはり、アルも普通のプレイヤーではないと気づいたのは、兄君のオリジナル魔法についての知識が、語り板に情報提供できるほどのものだと、分かった時だった。
エルフ族での錬金術の先駆者ということを聴いた際にも、驚きはしたのだが。
鷹揚とした振る舞いと、知的な会話の仕方を心得ているアルのもう一つの正体に気づいたのは、私だけだったかもしれない。
思いうかべるのは、エルフ族の世迷言板。
あの場に書き込む者たちの中でも、私と攻略系の人ともう一人が、現在では常連と言えるだろう。
その、もう一人の常連こそが……アルだと、確信した。
せっかくフレンド登録をしたのだから、後で確認のメッセージでも、送ってみよう。
良き友が増えた喜ばしいこの日に――また飲み物で、乾杯をしたい気分になった。
※明日は、
・十二日目のつづきのお話
を投稿します。
引き続き、お楽しみください!




