二百九十七話 歓迎会の終幕
宵の口へと移り変わった時間に、夜のはじまりを示して、小さな光と闇の精霊さんが場所を交代する。
小さな光の精霊さんとまたねを交わし、頭の上にぽんっと乗った小さな闇の精霊さんを微笑みながら迎え入れたのち。
さきほどまでの語り板でのやり取りについて、アルさんがサロンのみなさんに、いかに私がとんでもない情報を提供していたかを、分かりやすく説明してくださるのに対し、あいづちをうつ。
察していたらしいロゼさんをのぞいて、シルラスさんやステラさんまで驚きながらアルさんの話を聴いていたので、どうやら本当に私がもっていた情報は、とんでもないものだったらしい。
「無自覚系って、ホントこわい」
「うん、ちょっとその怖さを理解できた気がするよ」
「さすがのわたくしも、びっくりですわ!!」
「あははは……」
真顔で私を見て告げてくるアルさんとロゼさん、金の瞳を丸くして声を上げたフローラお嬢様に、もはや苦笑を返すことしかできなくなっていると、ぽつりとシルラスさんがつぶやいた。
「これで攻略系だけではなく、プレイヤーの総合的な強さが底上げされるな」
おや……? その点は少々、異なるかもしれない。
腕を組んで考え込むシルラスさんに、ゆるく首を横に振ってから、私の考えを伝える。
「いえ。現状では残念ながら、総魔力量が少ない種族のかたですと、オリジナル魔法を連発することは難しいと思いますので……一概には、強さが底上げされるとは言えないかもしれません」
「そうなのか?」
「えぇ」
「えっと……オリジナル魔法の場合、無詠唱での発動が絶対条件だから、ですよね?」
「その通りです」
「そう言えばそうだったな……」
シルラスさんの疑問に、アルテさんが以前ちょうど私とお話した部分の説明をしてくださったことで、シルラスさんの薄緑の瞳に納得が灯った。
アルテさんの説明の通り、ある意味では無詠唱でのみ発動できるオリジナル魔法の、唯一の懸念点が、この魔力消費量の多さという部分であるため、ここが改善されない以上は、すべてのプレイヤーの強さが底上げされる、という変化は起こらないだろう。
ではどうすれば、この点を改善できるのかという議題が、これからの主流になるのかもしれない。
そう思ったのは、シルラスさんもアルさんも、他のサロンのみなさんも同じだったようで、全員そろって解決法がないものかと考え込む。
うぅん、と複数重なった悩ましい声音が零れたところで――ステラさんが、声を上げた。
「あっ! 青色のポーションをのむと、魔力いっぱいにもどるよ!」
「――なるほど、その手が」
思わず、深い声音でステラさんへと納得を返す。
錬金術師としてポーションをつくっていても、戦闘中にポーションを飲む機会がほとんどなかったため、思い至らなかった。
自然と同じ錬金術師であるアルさんへ視線を向けると、神妙な表情で「なるほどなぁ」と私と同じ納得を零していらっしゃる。
「魔力ポーションを飲みながらオリジナル魔法を使うって戦法は……まぁ、たしかにアリと言えば、アリだなぁ」
「えぇ。アリ、かと」
「たしかに、アリだな」
「……美しくはないけれど、戦法的には、アリだね」
アルさんの言葉に、私とシルラスさんが深くうなずき、ロゼさんがしぶしぶながらも、同意を示す。
「おてがらですわよ、ステラ!」
「えへへ~!」
フローラお嬢様の言葉に、笑顔をうかべて照れるステラさんの名案が、まさしくキラリと光ったと言えるだろう。
そうして、引きつづき雑談をしながら石門をくぐり、大通りを歩いて中央の噴水広場へと戻ってくる。
大噴水のそばで、ぱっと扇子を開いて口元にそえたフローラお嬢様が、シルラスさんとステラさんへと視線を注ぎ、華やかに笑む。
「歓迎会は、楽しんでいただけたかしら?」
「あぁ。とても楽しい時間だった」
「たのしかった!!」
フローラお嬢様の問いかけに、シルラスさんがほのかに微笑んで満足気に答え、ステラさんが満面の笑みでうなずいた。
とたんに笑顔が満ちた中、アルさんも一歩踏み出して笑顔で口を開く。
「俺も楽しませてもらいました。混ぜてくれて、ありがとうございます」
どうやら、すっかりサロンに馴染んでいたアルさんにも、楽しい時間だったと感じていただけたようだ。
アルさんの言葉を聴き、ふわりとみなさんの口元の微笑みが深まる。
「三人共、たいへんよろしくってよ!! これからも遠慮なく、楽しく! わたくしたちと一緒にお茶会を楽しむこと、お忘れなく!!」
ひらりと扇子を閃かせるフローラお嬢様の言葉に、お三方が笑顔を返す。
――これにて、歓迎会は終幕だ。
「それでは、俺はこの後作業をするんで、このあたりでお先に。ロストシードさん、またな~!」
「えぇ! 今日はありがとうございました、アルさん」
「こっちこそ、ありがとな~!」
さらっと他のかたがたとフレンド登録をすませたアルさんと、そうあいさつを交わし、アトリエのクラン部屋へと戻っていく背中を見届け、私もサロンのみなさんとまたを交わしてその場を後にする。
「神々へのお祈りをして、今回はまたお久しぶりに神殿の宿部屋で、ゆっくりすることにいたしましょうか」
『はぁ~~いっ!!!!』
小さな四色の精霊さんたちと言葉を交わし、白亜の神殿へたどり着くと、さっそく今回のログイン後にまだおこなっていなかった、神々へのお祈りを捧げたのち。
二階へと上がり、扉を開いて入った白亜の宿部屋にて、ほっと一息をつく。
展開していたオリジナル魔法とスキル《隠蔽 四》を解除し、姿を現した小さな多色と水の精霊さんたちの舞をゆっくりと眺めていると、そろそろ現実世界では夕食の時間という頃合いになった。
「さて――それでは、小さな精霊のみなさん。私はまた一度、空へ戻りますね」
『はぁい!!!! またね、しーどりあ~!!!!』
「えぇ! また遊びに戻ってまいります!」
『わぁ~~い!!!!』
眼前でくるくると嬉しげに舞う、小さな四色の精霊さんたちに微笑み、精霊魔法も解除して、ベッドへと横になる。
小さな四色の精霊さんたちが、胸元へとぴたりとくっつく姿に名残惜しさを感じながらも、またすぐに戻ってくるのだからと気を持ち直して、小さくログアウトをつぶやいた。
※明日は、主人公とは別のプレイヤー視点の、
・幕間のお話
を投稿します。




