二百九十六話 シードリアの魔導師
「みなさん!! 本当に素晴らしいオリジナル魔法でした!!」
「そうでしょうともそうでしょうとも!!」
「へへ! なっ? かっこよくできてただろ?」
「えぇ! とてもかっこよくて、美しい魔法でした!」
「僕とアルテは、少し工夫してみたんだ」
「戦いかたに合った魔法を、考えました!」
「一目で分かりましたよ! 水の渦による足止めや、蔓での攻撃は、まさにお二方の戦いかたに合っています!」
四人のオリジナル魔法のお披露目を終え、石門のそばの塀の近くへと戻ってきたフローラお嬢様とルン君、ロゼさんとアルテさんに、それぞれ称賛の言葉を伝える。
入れ替わりに、すっかり常の冷静な表情にお顔を戻したシルラスさんが、橙色の夕陽に煌く新しい弓でグラスパンサーを狙い撃つ。
かなり離れた位置からでも、問題なく動く魔物を射抜くシルラスさんの弓の腕前は、本当に素晴らしい!
これには私とステラさんをのぞいたみなさんが、一様に驚きに瞳を見開いてから、歓声を上げる。
「シルラスさんおにいさまは、とってもすごいの!」
「えぇ。シルラスさんは本当に凄い弓使いです」
どこか得意気に声音を弾ませたステラさんに、私もつづけて同感の言葉を紡ぐと、みなさんがいっせいにうなずきを返してくださった。
ふっと、ほのかに口元をゆるめるシルラスさんに、フローラお嬢様やルン君が興味津々で言葉をかける中。
シルラスさんの技量には驚いていらしたものの、いまだに困惑をお顔に乗せているアルさんへ、軽く先ほどのオリジナル魔法の流れについてご説明をしようと、口を開く。
「アルさん。実は今回、みなさんが私にオリジナル魔法を見せてくださったのは、私が以前みなさんにオリジナル魔法についてのお話をしたことが、きっかけになっておりまして」
「そうそう。ロストシードが、僕たちに魔法に関することとオリジナル魔法について、講義をしてくれたんだ」
横からひょいっと顔を出したロゼさんも、そう追加で説明してくださる。
そんな私とロゼさんへ、驚愕に見開かれた深緑の瞳が注がれた。
まるで――信じられないものでも、見たかのように。
「何ぃ!? オリジナル魔法の講義だとぉ!?!?」
「え、えぇ」
本気で驚いていらっしゃる様子のアルさんに、今度は私が戸惑いながらうなずきと肯定の言葉を返す。
すると、次の瞬間――ガシィ! と両肩をアルさんにつかまれた!
「ロストシードさんっ!! 頼むからその知識は、語り版に書き込んで、情報提供してくれ!!」
「えっ!? あ、えぇっと……?」
「ふぅん? やっぱり、そういうレベルの情報だったんだ」
全力で、もはや懇願に近しい声色で伝えてくるアルさんと、妙に納得したような言葉を零すロゼさん。
間に挟まれた私としては、突然の展開に、正直まだ理解が追いついていないのだけれど……ひとまず、語り板に情報提供をする必要がある、という点だけはなんとか認識した。
「ええっと、語り板に、私が知っているオリジナル魔法についての情報を、書き込んだほうが良い……と言うことですか?」
「そーゆーことだ!!」
ばっとアルさんの眼前で灰色の石盤が開かれ、何やら指先で軽く操作したかと思えば、くるりと可視化したページを見せてくださる。
それはちょうど、オリジナル魔法についての情報が書かれている語り版のページで、あれよあれよという間に、私のほうでも語り板のページを開いて、情報を書き込むことになった。
内容は、以前サロンのみなさんに伝えた、私が知っているオリジナル魔法の習得方法と、オリジナル魔法自体の自由度の高さ、それと重要な基礎の要素である、習得したい魔法の属性に親しむ必要がある点。
既存魔法との速度や威力の違い、習得するために必要なレベルについてなどは、すでに話し合われていることをざっとアルさんが説明してくださったため、この内容だけを伝えたのだが……。
――結果。
[すごく分かりやすいです! 貴重な情報をありがとうございます!!]
[あなたが我らの師か……!]
[たしかに、これはもう完全に私たちを、オリジナル魔法へと導いてくれている存在と言っても、過言ではないのでは?]
[えっと……本物の魔導師のかたですか?]
予想以上に、手前で情報を書き込んでいたかたがたの気持ちを、盛り上がらせてしまったようで。
ブフッと、隣でアルさんが愉快さにふき出すのを聴きながら、思わず即時に文字を返す。
[いえ、まさか。ただの魔法好きの、いちプレイヤーですよ]
[……本当に?]
[もちろん、本当ですとも。魔法にロマンを感じて、いろいろと可能性を模索しているだけの、みなさんと同じただの魔法使いですよ]
[いやもうこれは、俺たちシードリアにとっての魔導師ってことで、良いのでは?]
さらっととんでもないことを書き込んだ、隣にいらっしゃる張本人へと、すかさず緑の瞳を向ける。
「アルさん? この文はアルさんですね??」
「っふ、ははは! いや、悪かった! つい、出来心で!」
……おおいに、楽しそうで、それはそれで良いのです、が!
しかし! 精霊の先駆者の時よりもなお明確に、またもや私の予期せぬ呼ばれかたが広まるような展開になっている気しかしないのは……きっと、気のせいではないのだろう。
さすがにジトッと半眼で、アルさんへと視線を注ぐ。
「ねぇ、ロゼ? ロストシードが、見たことがない顔をしておりましてよ」
「うん。麗しのロストシードも、ああいう表情をするんだね」
「……あれって、怒ってたりする、かな? 姐さん」
「怒っては……いないと思いたいね」
「思いたいですわね」
「思いたいですね……」
「あぁ、思いたいな……」
後方から、そう遠く彼方へと視線を飛ばしていそうな声音でのやりとりが聴こえ、そっと肩を落とす。
怒っていないのは、事実ですけれども……!
とは言え、何やらまた気恥ずかしい展開になる予感を、ひしひしと感じる!!
聡明なアルさんがこのような流れにしたからには、相応の理由がある、ということは薄々感じているので、これは必要な展開だったのだろうとは思う。
オリジナル魔法について書かれている語り板の内容を見る限り、試行錯誤をしている一方で、行き詰っているようにも見えた。
つまるところ、私はその悩ましい状況に、変化をもたらす一石を投じることが出来たのだろう、と。
そうは思うのだけれども……やはり個人的には、気恥ずかしさがまさる。
コテンと不思議そうに小首をかしげるステラさんと、いつの間にか頭の上に集合して、よしよしと撫でてくれている小さな精霊さんたちだけが、今の私の癒しだ!
結局、私の予感通り、アルさんのイタズラの成果として――どうやら私に、シードリアの魔導師、という二つ名がつけられたらしい。
……ロマンあふれる二つ名であることは、素直に認めます。
えぇ、えぇ! かっこいいとは思いますとも!!




