二百九十五話 仲良しと他者のオリジナル魔法
※戦闘描写あり!
夕方の、橙色の光が降り注ぐ中。
お買い物を終えて、すっかり満足さにあふれた表情をうかべるみなさんは、さっそく新しい武器を試してみようと、石門を目指して大通りを再び歩みはじめる。
わくわくとしたみなさんの雰囲気が伝わったのか、肩と頭に乗る小さな四色の精霊さんたちも、そわそわとした気配をただよわせる様子が、なんとも可愛らしい!
うっかり口元をゆるめていると、唐突に左隣からトントンと軽く肩を叩かれた。
少しばかり驚きつつも、何事だろうとそちら側で足並みをそろえて歩いていたアルさんを見やる。
すると、普段は穏やかなお顔に、何やら不安げな表情がうかんでいた。
アルさんが不安に思う要素が、何かあっただろうかと、思わず小首をかしげることで問いかけてみる。
すると、口元に片手をそえたアルさんは、小さく口を開いた。
「さらっと、なんでかまだ俺も一緒にいるわけだが……本当に邪魔になってない、よな?」
なるほど。どうやら、この先の同行が大丈夫なのか、気になっていたらしい。
細やかな気づかいができるアルさんには、しっかりと問題がないことをお伝えしておいたほうが良いだろう。
ふわりと微笑みをうかべて、大丈夫であることを伝えるために、穏やかなうなずきを返す。
「こちらは大丈夫ですよ。みなさんはアルさんとのお話も、とても楽しんでいらっしゃいますから。むしろ、アルさんは大丈夫ですか?」
「こっちは問題ないさ。んで、そっちが問題ないなら、気にしなくても良さそうだな」
「えぇ。その点はさすがに、私が保証いたします」
「おう! それは安心だな!」
にっと嬉しげな笑顔を見せるアルさんに、こちらもにこりと確信を宿した笑顔を返しつつ、内心で再度、本当に問題などあるはずがないのですよ、とつぶやく。
なにせ――ご一緒しようとおさそいをしたフローラお嬢様を筆頭に、サロンのみなさんはすっかり、もうアルさんと仲良しなのだから!
チラリと横目でうかがった、私とアルさんの会話がぎりぎり聞こえていただろうルン君とシルラスさんからも、笑顔とうなずきが返ってきたのだから、間違いない。
そしておそらく、アルさんご自身も私の断言によって、そのことを悟ったのだろう。
好奇心を口元の笑みに乗せたアルさんを見やり、私もそっと笑みを深める。
眼前の石門をくぐれば――戦場、ノンパル草原へ到着だ!
草原を見回し、艶やかな緑の毛並みをもつ馬のような魔物グラスホースや、同じく緑の毛並みをもつ豹のような魔物グラスパンサーのうち、他のシードリアのかたが相手をしていない魔物を探す。
辺りへみなさんと一緒に視線を巡らせていると、突如ルン君が閃いたように声を上げた。
次いで、振り向きざまに、碧の瞳が私へと注がれる。
「そうだ、ロスト兄! おれたち、ロスト兄が前におしえてくれた、オリジナル魔法ってやつをおぼえたんだ!! かっこよくできたから、みてくれよ!!」
「おや! それはぜひとも!!」
まさか、最初の魚釣り後の食事会の中で、説明をさせていただいたオリジナル魔法を、みなさんがもう習得していらっしゃったとは……!
ルン君の素敵で心躍る提案に、思わず声音を弾ませて答えると、他のみなさんも次々に振り向き、煌く瞳が重なる。
「こっほん! わたくしの素晴らしい魔法を、お見せいたしますわ!!!」
「上手くできていると思うから、楽しみにしていてね、ロストシード」
「わたしも! 上手にできたので、ぜひ……!」
「えぇ、えぇ! とても楽しみです!!」
口々に出来栄えを教えてくださるフローラお嬢様、ロゼさん、アルテさんの言葉に、胸の内の高揚がさらに高まっていく!
「……は?」
「オリジナル魔法……」
「オリジナル魔法……!」
一瞬でわくわくが満ちたその場で、このお話の流れが分からないアルさん、シルラスさん、ステラさんのお三方が疑問の声と楽しげな声を零すが……こればかりは、百聞は一見に如かず、だろう。
実際に見ていただければ、きっとお三方も私と同じく、どのような魔法なのか分かるはずだ。
さいわいにも、オリジナル魔法の存在は、もはや多くのシードリアのかたがたが知るところとなっているため、すでにネタバレとして扱われることはない。
意外にも、ステラさんはオリジナル魔法のことを分かっていらっしゃるらしく、淡い瞳がグラスホースへと駆けて行く、フローラお嬢様たちを追う。
それにならって、私やアルさん、シルラスさんも、まずはと前方を見ることに専念する。
丈の低い草を食む、グラスホースと距離をあけて足を止め――初手に動いたのは、アルテさん。
木目が美しい木の杖をさっと振った刹那、グラスホースの足元の地面から突如生えた蔓が、鞭のようにしなってグラスホースを攻撃した!
あれが、アルテさんのオリジナル魔法!!
土属性の派生である、緑の魔法だろう蔓の攻撃は、なんとも目新しく感じる。
次いで、まだ離れた位置にいるにも関わらず、ルン君が手にした剣を上段から勢いよく振り下ろすと――銀色に煌く風の刃が飛び出て、グラスホースを切り裂いた!?
剣技と魔法の連携技と言う名のロマンに、思わず緑の瞳が煌く!
あっという間に、緑のつむじ風を上げてかき消えたグラスホースを見送り、今度は近くの別のグラスホースへと、フローラお嬢様が手飾りをつけた左手を向けた。
とたんに左手の前方から、トルネード状の風の魔法が射出するように素早く放たれ、グラスホースへと突き刺さる!!
フローラお嬢様のオリジナル魔法はシンプルだが、そのシンプルさが実際の戦闘時にはとても役立つことを知っているからこそ、素晴らしいと思う。
暴れる魔物を視界におさめつつ、最後にロゼさんが細身の剣の切っ先をグラスホースに向ける様子を見つめる。
お次はどのような攻撃が飛び出すのだろうかと好奇心に笑みを深めていると、グラスホースの足元に渦巻く流水が出現し、その行動を阻害した!
その状態のグラスホースへと駆けより、美しく煌いたロゼさんの剣による一閃は、見事グラスホースを緑の旋風へと変える。
補助系のオリジナル魔法とは、またなかなか粋なことを……!
さすが、ロゼさんだ!
改めて、みなさんのオリジナル魔法をしっかりと見届け、思わず感じ入る。
あぁ――本当に、素晴らしい!!
これが、他のかたがたが創り上げた、オリジナル魔法!!
今回こそは、既存魔法とは比べ物にならない速度と威力、何より自由度をほこるオリジナル魔法の、真髄を見たと言えるだろう!
緑の瞳を煌かせ、拍手を高らかに打ち鳴らした私に、前方で戦いを終えたみなさんが、とても好い笑顔を見せてくださった。




