二百九十四話 服と靴と飾りと武器と
朝の時間いっぱいを使って、大いに盛り上がったお菓子をお供にした歓迎会は、昼の時間に切り替わったことで、次の段階へと移行することとなった。
「そうびの、しんちょう……?」
「そうですわ!! つまり、新しい服や武器を買いに行く、ということでしてよ!」
「おかいもの!! したい!!」
「よろしくってよ!! さぁ、みんな行きますわよ!!」
お次はとそうそうに決定したのは、ステラさんの装備の新調を第一として、それぞれ必要な物を買いに行く、お買い物!
誰かと一緒に物を買う、と言う状況だけでもなかなかに心躍るのだから、この仲良しなみなさんとご一緒するお買い物は、どれほど楽しいことだろう!
ついつい、ステラさんと同じくわくわくの笑顔になってしまい、甘味処フリュイを出るまで表情を整えるのに苦労した。
石畳の書館通りに出ると、噴水広場をすぎて石門側の大通りへと足を踏み入れる。
この大通りに、服や靴、装飾品や武器を売っているお店が建ち並んでおり、今回は順にゆっくり見ていくらしい。
前を行くフローラお嬢様とステラさん、それにロゼさんとアルテさんの楽しげな笑顔を見つめていると、さっそくお店の入り口へと、吸い込まれるように入っていく。
さぁ、ここからは――お買い物タイムだ!!
まずはと踏み入ったのは、さまざまな色が目にも鮮やかな、服のお店。
「わぁ……! エルフのさとより、いっぱいふくがある!」
入店後すぐにそう言って淡い瞳を輝かせるステラさんの言葉に、エルフの里のフィオーララさんのお店を懐かしく思いながら、布の波の中を進む。
あれも似合う、これも似合うと、ステラさんを中心にして、全員で服を片手に笑顔で語り合う時間は、なんとも有意義なもので。
ついでに、とフローラお嬢様やアルテさん、ルン君やアルさんがご自身の分の服をみつくろいはじめたあたりで、では私もと、それにならう。
白いローブを着て、今の私の服装とおそろいだと喜ぶステラさんと笑顔を交わしながら、ステラさんがローブの内側に着ている緑の長袖のワンピースとおそろいの、緑のチュニックを手にする。
キラキラと淡い瞳を嬉しげに煌かせるステラさんを見る限り、どうやらおそろいで喜んでいただこう大作戦は、大成功のようだ。
他にも、黒のスマートなズボンを買い、他のみなさんのお買い物もすませてから、お次の靴の店へと向かう。
「麗しのロストシードは、白いブーツも似合うと思うな」
さまざまな色の靴を眺めている途中、白いブーツを示して紡ぐロゼさんの言葉に、私に似合う色を分かってくださっていると感じて、つい口角が上がる。
「おや、お目が高いですね、ロゼさん」
「まぁね。僕の観察眼は、美しいものに対しては特別、するどいから」
ふふん、と得意気なロゼさんに小さく笑みを零しながら、オススメの白いブーツを迷わず購入。
アルテさんも緑の布靴を新調したらしく、いつもは控えめな笑顔が、一段と輝いていた。
お次におとずれた装飾品のお店では、いっそうみなさんの瞳が煌く様子を、微笑ましく眺めるのにてっする。
これは現状、新しい装飾品が必要だとあまり思わないからでもあったが、せっかく装飾品を買うのであれば、やはり私の自慢の師匠であるリリー師匠のお店で買いたいと思ったから。
部屋の片隅にて、私と共にシルラスさんとアルさんも、他のみなさんの楽しげな声を聞きながら、まったりと過ごす。
耳飾りを煌かせたロゼさんがかっこよくて美しかったり、首飾りに金の瞳を輝かせるフローラお嬢様が可愛らしかったりと、ずいぶん微笑ましい光景につい笑みを零していると、ふいにシルラスさんが私へと視線を流した。
「どうかしましたか?」
「いや。ただ……」
「ただ?」
そっと言葉の間をあけたシルラスさんに、アルさんと二人で疑問符をうかべていると、常は凛々しく、あまり感情を表さないシルラスさんのお顔に、笑みが灯る。
「やはり私にとっては、兄君の装飾品が一番馴染むと思っただけだ」
――最高の褒め言葉ですねっ!?
思わず熱くなる頬を今回は気にせず、全力でシルラスさんにお礼を告げる間……アルさんの実に愉快気な笑顔が、隣から注がれていた。
もちろん、今回はそちらも、全力で気にしないことにしたけれど。
最後におとずれたのは、剣と弓、そして杖と手飾りがそろった、武器のお店。
ここでも、自然とエルフの里の武器屋を営むテルさんとマナさんのご夫婦のお顔が頭を過ぎり、見守る側にまわる。
ロゼさんとルン君が剣を、アルさんが杖を、そしてフローラお嬢様とステラさんが手飾りを新調するため、楽しげに並べられたそれぞれの武器へと視線を注ぐ中、
「――店主。試しに一度、そこの的へ矢を射てみても良いだろうか?」
そう、店主さんへたずねるシルラスさんの声が聴こえ、今度は私と一緒に見守る側になっていたアルテさんと一緒に、ついそちらへと瞳を向ける。
店主さんから了承を得たシルラスさんは、美しい風模様が彫り込まれた銀色の弓を手に、ピンと背筋を伸ばし、凛とした静かな眼差しで的を見つめて、一拍。
次の刹那、素早く矢をつがえて弓を引き、的へと放ったその矢は……見事、的の中央を射抜いていた!
「わぁ!」
「お見事です!」
「シル兄すげぇ!!」
思わず声を上げたのは、アルテさんと私とルン君。
ちょうど見ていたのだろうルン君まで瞳を輝かせて見つめる中、シルラスさんは少しだけ照れたような表情でうなずいたのち、しっかりと新しいその弓をお買い上げしていた。
私とアルテさんとルン君は、お互いに視線を交して、とても良いものを見ることができたと微笑み合う。
――そうして、昼の時間すべてを使った楽しいお買い物は、実に有意義なものとして、幕を降ろしたのだった。




