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二百九十三話 美味しいお菓子で歓迎を!

※甘味系飯テロ注意報、発令回です!


 



 朝の陽光が明るく射し込む店内で――シルラスさんとステラさんのサロン参加を祝した歓迎会が、はじまった!

 それぞれが目の前の机の上に、お菓子と飲み物をそろえた光景は、まさしく素敵なお茶会そのもの!

 思わず口元の微笑みを深めていると、フローラお嬢様とロゼさんを筆頭にして、それぞれが飲み物の器を手にしていく。

 私もコップを持ち上げ、それにならってアルさんも持ち上げたところで、フローラお嬢様の綺麗な咳払いが響いた。

 この後の所作は――もう分かっている!


「新しいお友達の、参加と出会いを祝して!!」

「かんぱ~~いっ!!!!!」

『かんぱ~いっ!!!!』

「乾杯」

「かんぱい?」

「おぉ、乾杯!」


 フローラお嬢様の言葉に合わせ、ロゼさんとアルテさん、ルン君と私、それに小さな精霊さんたちもご一緒に、乾杯の声を響かせた。

 次いで、冷静にグラスをかかげたシルラスさん、小首をかしげたステラさん、やや遅れてノッてくれたアルさんの声がつづき、それぞれがお菓子を食べはじめる。

 リブアップルケーキ、マナプラムケーキ、アクアプラムゼリーに、リヴアップルパイを、対面の可憐なるみなさんが笑顔で口に運ぶ様子に微笑みつつ。

 右隣ではルン君がマナプラムケーキをほおばり、シルラスさんが静かにマナプラムタルトのお味を楽しみ、左隣でアルさんが甘くないクルンクッキーをおそるおそる口に入れている様子を見届ける。


「おっ、意外といけるな!」

「美味しいですか?」

「あぁ! うまい!」


 無事に、甘い物が苦手なアルさんのお口にもあったようで、何よりだ。

 微笑みを深め、私も目の前の白いお皿の上に乗る、ハニークッキーを一枚つまんで口に運ぶ。

 ふわりと甘いハチミツの香りが立ち、口の中でほろりと甘いクッキーがくずれて広がる。

 ほどよい甘さと、クッキーの香ばしさが絶妙だ!

 サクサク食感がとても好みで、いつも売り物用のポーションに使うハチミツが、ここまで美味しくなるお菓子の神秘に、思わず緑の瞳が煌く心地で食べ進める。

 ちらりと見やった眼前では、ケーキを美味しそうに食べるフローラお嬢様とロゼさんが、どことなく幼げに見えて微笑ましい。

 その隣で水色のゼリーを一口一口、キラキラと淡い瞳を輝かせて食べるステラさんと、ステラさんの可愛らしい姿を、にこにこと笑顔で見守りつつパイを食べ進めるアルテさんのお二方が、なんとも癒しの空間をつくりあげていらっしゃる。

 うっかり私までにこにこの笑顔になってしまいながら、それぞれが美味しいお菓子を食べる時間は、やがて和やかに会話を交わす時間へと移っていった。


「そう言えば……兄君は、装飾品だけではなく、ポーションの作り手でもあったのだな」

「えぇ。私はその二つの生産職として、楽しんでおります」


 シルラスさんの素朴な問いかけに、穏やかにうなずいて答えると、アルさんがずいっと私の横から顔を出す。


「お? シルラスさんは、ロストシードさんが装飾品をつくってるってことは、知ってたんだな?」

「あぁ。いつも世話になっている」

「実はお得意様でして」

「マジか!? 凄いな!?」


 驚きに深緑の瞳を見開くアルさんを、今度は私が片手で示し、サロンのみなさんに語る。


「ちなみに、錬金術師としては、アルさんのほうが素晴らしい腕前をお持ちなのですよ」

「まぁ!!」

「そうなんだ?」


 金の瞳を丸くするフローラお嬢様と、興味深げに紫紺の瞳を細めるロゼさんに対して、ゆるりと口元に笑みをうかべたアルさんが、平然と紡ぐ。


「――ま、これでも一応、エルフ族での錬金術の先駆者なんで」

「えっ!? 先駆者ぁ!?」


 ルン君の驚愕の声が、私とステラさんをのぞいたみなさんの驚きを代弁したらしく、見開かれた瞳が次々にアルさんに注がれた。

 きょとんと淡い瞳をまたたかせるステラさんに、私が簡単に先駆者の説明をしている間に、アルさんは他のみなさんの好奇心に満ちた視線を上手に流して、なぜか私とサロンのみなさんとの出逢いについて尋ねていく。


「フローラさんが、ロストシードさんを一目見て気に入って、サロンに誘ったって感じなんですね」

「そのとおりですわ!!!」


 ふふん、と得意げな表情になるフローラお嬢様に生暖かい視線を注ぎつつ、アルさんは次いでシルラスさんから私とステラさんとの出逢いについて聴き、楽しげに笑む。


「へぇ? なら、ステラちゃんが困ってた時に、シルラスさんとロストシードさんが来てくれて、三人共がそこで会ったってことなんですね」

「うんっ! シルラスおにいさまと、ロストシードおにいさま、とってもやさしくて、たくさんたすけてもらったの!」

「そうかそうか! 俺も、ロストシードさんには、戦闘面では結構助けられてるなぁ」

「それほどでは」

「いやいや! ホント、いつも護衛役ありがとう!」

「ふふっ、どういたしまして」


 ステラさんの言葉に表情をなごませ、私へは全力で感謝を伝えてくださるアルさんに応えつつ、すっかり彼がサロン【ユグドラシルのお茶会】に馴染んでいることに、喜びが湧く。

 やはり、友人と友人がこれまた友人のように楽しく語り合うことは、嬉しいものだ。

 穏やかな気持ちで、つい周囲で交わされる言葉に黙して耳をかたむけていると、ふいにアルテさんの視線が私へと注がれていることに気づき、どうしたのだろうかと視線を合わせる。

 とたんに、珍しく真剣な表情で、アルテさんが口を開いた。


「あの……ロストシードさん」

「はい、どうしました? アルテさん」

「その、先日はこの子を助けてくれて、ありがとうございました! お礼、まだ伝えていなかったので……」

「あぁ、そうそう。アルテはずっとあの時のお礼が言いたかったんだよ」


 アルテさんの右肩に乗る、小さな緑の精霊さんを示して紡がれた感謝の言葉と、思い出したように紡がれたロゼさんの言葉に、一瞬で先日の魚釣りの帰りに起こった戦闘での出来事を思い出す。

 すっかり忘れて気を取り直していただけに、またもや頬が赤くなりそうな気配を感じ、慌てて首を横に振る。


「いえいえ! 小さな緑の精霊さんがご無事で、良かったですよ! えぇ!」


 ――興味深そうに注いでくるアルさんの視線による問いかけは、全力で話題をそらすことで、回避!

 アルテさんのところの小さな緑の精霊さんを、助けることができたことは、本当に良かったと思う。

 ただ……感情のままに動いた結果、少々気恥ずかしい言動をしてしまったということも、また事実。

 私としては避けたいこの話題は、さいわいにも、それ以上出ることはなかった。

 本当に、純粋にアルテさんがお礼を言う機会をつくっただけだったらしい。

 何はともあれ、その後も会話は盛り上がり、お菓子も飲み物も再度注文して、結果的にはまた、とても楽しい歓迎会になった!!

 シルラスさんとステラさんの楽しげな眼差しと笑顔が、とても煌いて見えたのは……きっと、私の気のせいではないだろう。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 楽しい歓迎会ですね〜アルさんも自然と馴染んでいる様で良かったです✨ アルテさんのお礼!これは気恥ずかしい出来事を蒸し返されてしまうかとドキドキしてしまいますね( *´艸`)皆さん配慮して下…
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