二百九十二話 袖振り合うも多生の縁
※ふわっと甘味系飯テロ風味です!
思わずと言った表情で、今度は私へとみなさんの視線が集まり、それに今度こそ微笑みながら、紹介を紡いだ。
「アルさんのお話の通り、私とアルさんは同じアトリエに所属している、錬金術師の同士です。
アルさん、こちらのみなさんは、私が所属しているエルフ族限定サロンのお仲間ですよ。こちらのフローラお嬢様が、リーダーです」
「ロストシード、あなたアトリエにも入っていましたのね?」
「えぇ」
「ほ~う! まさかロストシードさんが、サロンにも入っていたとはなぁ」
「ふふっ! それがなんと、アトリエに参加した次の日に」
「次の日だったか~!」
流れるような私とフローラお嬢様とアルさんのやり取りに、サロンのみなさんも好奇心を宿した表情でそばへと来てくださる。
パァッと周囲の色合いが変化して、眩い朝の時間に移り変わった空を全員で見上げつつ、私だけこっそりと小さな闇の精霊さんを見送ったのち。
ちょうど良い頃合いだと判断して、アルさんにこの後の予定を伝える。
「実は、こちらのお二方が今しがたサロンに参加されましたので、これから歓迎会に行くところでして」
シルラスさんとステラさんを示しながら、チラリとフローラお嬢様とロゼさんをうかがって伝えた言葉に、ロゼさんがすぐさま小さく肯定のうなずきを返してくださった。
一方、アルさんは少しだけ驚いた表情をしてから、慌てたように口を開く。
「あぁ、そうだったのか! それは邪魔して悪かったなぁ」
「あら、何を言っておりますの? 袖振り合うも多生の縁、と申しますでしょう?」
「ん?」
片手を頭にそえて、申し訳なさそうに眉を下げるアルさんの言葉に、サラッとフローラお嬢様が平然とした声音で言葉を返す。
疑問符をお顔にうかべたアルさんを見つめながら、この後の展開が読めた私とロゼさん、それにアルテさんとルン君が、そっと生暖かい眼差しをフローラお嬢様に送る中。
ぱっとひるがえした扇子を口元にそえ、金の瞳が煌いた。
「あなたもご一緒に、いかがかしら?」
「……へっ?」
――綺麗に響いたアルさんのまぬけな声を、華麗に聴かなかったことにして。
「私も、アルさんとご一緒できるのでしたら、とても嬉しいです。もしこの後のご予定があいているのでしたら、ぜひ」
「お、おぉ? いやまぁ、作業後の気分転換に散歩してただけだから、予定があいているどころか、普通にヒマなくらいではあったんだが……本当に、俺が参加しても良いんですか?」
私の歓迎の意に、戸惑いながらも参加自体は問題ないと返してくださったアルさんは、それでも本当に大丈夫なのかと不安なのだろう、フローラお嬢様へと問いかける。
それに、胸を張ったフローラお嬢様の笑顔には、一点の曇りもなかった。
「それはもう!! ロストシードのご友人なのですもの!! 大歓迎に決まっていますわ!!! ねぇ?」
他のみなさんへと、確認を込めて流された金の瞳に、ロゼさんとアルテさんとルン君はすぐにうなずきを返し、シルラスさんとステラさんも一度顔を見合わせたのち、うなずいてくださる。
本来はシルラスさんとステラさんの歓迎会なので、お二方の意見が一番大切なのだけれど……。
ほのかに口元をゆるめたシルラスさんと、すっかり不安そうな雰囲気を消し、淡い瞳を煌かせているステラさんを見れば、お二方の思いは自然と分かるというもの。
アルさんもみなさんの笑顔を見て、問題なしと解釈したらしく、ふっと普段の穏やかなものに表情を戻すと、フローラお嬢様へうなずきを返した。
「まぁ、それなら……ご相伴にあずかります」
「よろしくってよ!! ――でしたら今回は、わたくしとステラが大好きな、お菓子を食べに行くのはいかが?」
「おかし!」
「甘くない物もあるけど、店内の甘い香りだけでも苦手っていう子はいるかい?」
「アルさんは、たしか甘い物は苦手でしたよね?」
「あぁ、食べるのはな。香りくらいは問題ないさ」
「そうでしたか。シルラスさんは……」
「私は、甘味は好きなほうだ」
「おや、お仲間でしたね」
「シルラスおにいさま、おなかま!」
「あぁ、仲間だな」
「お菓子なら……フリュイ、ですか?」
「ですわ!!」
「さすがアルテ。冴えてるね」
「あそこ、うまいよなぁ~!」
アルさんの参加決定を合図に、トントン拍子で会話が進み、あれよあれよという間に書館の通りへと全員そろって足を進める。
今回歓迎の食事会として場所をお借りするのは、なんと私がはじめてのおつかいクエストで行ったお店、あの甘味処フリュイらしい!
優しい香りをただよわせる、綺麗な木製のお店にたどり着くと、さっそくフローラお嬢様とロゼさんがカフェのような室内の、奥のほうの広いボックス席を確保してくださる。
対面の右端からフローラお嬢様、ロゼさん、ステラさんを挟んでアルテさんの順でソファに腰かけ、私たちもルン君、シルラスさん、私、そしてアルさんの順に腰を下ろす。
甘い香りが広がる店内に、興味津々と言った様子のステラさんが可愛らしく、ついつい口元をゆるめてしまうが、時折ぽよっと肩と頭の上で跳ねる、小さな四色の精霊さんたちのことを思い、ゆるむ微笑みを上品に整える。
わすれないで、ぼくたちのほうがかわいい、と言う言葉が聴こえてきそうな愛らしい行動に、むしろこちらの可愛らしさで口元がゆるみそうになるのは……ご愛嬌!
楽しい歓迎会がはじまる予感に――改めて、微笑みが深まった。




