二百八十八話 役作りおめかしと待ち合わせ
昼食後、さっそくと再び【シードリアテイル】に、ログイン!
『しーどりあ、おかえり~~!!!!』
「ふふっ。はい、みなさん! ただいま戻りました」
『わぁ~~い!!!!』
緑の瞳を開く前から、ぽよぽよと胸元で軽やかに跳ねる感触に、小さく笑みを零す。
嬉しげに響いた小さな四色の精霊さんたちの声にあいさつを返し、身を起こして蔓のハンモックから床へと降り立った。
窓から見える景色は、少し早くに戻ってきたかいもあり、まだ空の所々に青を残す夜の時間の色に染まっている。
さぁ、約束の時間に遅れないよう、いつもの準備に取りかかろう!
素早く精霊魔法を唱えて、小さな多色と水の精霊さんたちに魔法の維持とかくれんぼをお願いする。
次いで〈オリジナル:見えざる癒しと転ずる守護の水風〉と〈オリジナル:風をまとう石杭の刺突〉を展開し、石の杭を多色と水の精霊さんたちと同じく《隠蔽 四》で隠して――魔法の準備は完了!
この後は、シルラスさんとステラさんにとっても、サロン【ユグドラシルのお茶会】のみなさんにとっても、大切な顔合わせ。
そして今回、私はその橋渡し役として動くことになる。
で、あれば。やはり見目にも、気合いを入れておくとしよう!
サッと姿見の大きな鏡に全身を映し、この美しいロストシードという名のエルフの青年が、最も美しく見える装いに着替えていく。
青いチュニックと白のズボンはそのままに、緑のフード付きマントをぬいで、陽光の刺繍がほどこされた白のローブをまとう。
茶色のブーツも、黒の編み上げブーツへとはき替え、各種装飾品を再び飾れば、おめかしも完了だ!
「それでは! フレンドのみなさんとの集合場所――中央の噴水広場へ、出発です!」
『わぁ~い!!!! しゅっぱ~~つっ!!!!』
水と風と土と闇の、小さな四色の精霊さんたちの歓声を合図に、さっそくと宿屋から出て噴水広場へと向かって石畳を鳴らし歩く。
現実世界では、ちょうどゲームを遊ぶ人が増えはじめる昼過ぎの時間帯ということもあり、ずいぶんと多くのシードリアのかたがたとすれ違いながら、夜の大通りを進むと、あっという間に大噴水の飛沫が煌く中央の広場へとたどり着いた。
ぐるりと広場を見回し、まだどなたもこの場へ来ていないことを確認して、どうやら一番乗りのようだと微笑みを深める。
とは言え、もうじき夜から約束の時間である深夜の時間へと切り替わる頃だ。
しっかりと気を引きしめて、顔合わせの橋渡し役にはげむとしよう。
決意を新たに、大噴水の飛沫を眺めながらすごすこと、しばし。
すぐそばで金光が輝き、ぱっと姿を現したのは――弓を背負う精悍なエルフの青年、シルラスさんだった。
癖のない薄い金色の長髪がゆれ、整った顔がこちらへと振り向いた瞬間、切れ長の薄緑の瞳と視線が合う。
少しだけ驚いたようにまたたいた薄緑の瞳を見つめ、ふわりと穏やかに微笑んで口を開いた。
「こんにちは、シルラスさん」
「あぁ、こんにちは、ロストシード。今日はよろしく頼む」
「はい! 本日はぜひ、ステラさんとご一緒にお楽しみくださいね」
「あぁ。そうさせてもらおう」
穏やかにあいさつを交し合うと、またもやすぐそばで金光が輝く。
光がぱっと弾けたのちに姿を見せたのは、小さなエルフの少女、ステラさん。
ふわりと流れる長い白髪をゆらして、幼さの残る可愛らしいお顔がこちらを向くと、とたんに白に近いほど淡いつぶらな水色の瞳が、キラリと煌く。
「ロストシードおにいさん! シルラスおにいさん! こんにちは!」
「はい、こんにちは、ステラさん」
「あぁ、ステラ。こんにちは。早かったな」
「はいっ! おくれないように……それと、たのしみだったから!」
「おや、それはぜひとも、シルラスさんとご一緒に楽しんでいただかなくては」
「えへへっ」
可愛らしく笑うステラさんを、シルラスさんと一緒にあたたかな眼差しで見つめる。
ほのぼのとした雰囲気が満ちる中、いっそう闇色が深まり、深夜の時間がおとずれた。
そろそろサロンのみなさんもいらっしゃるだろうかと、再度ぐるりと周囲を見やる。
すると、書館の通りから駆けてくる、見慣れた四人の姿を見つけた。
ひらりと片手を振ってみると、すぐに切れ長の紫紺色の瞳と視線が合い、同じように片手が振り返される。
そっと後ろのシルラスさんとステラさんに微笑んで視線を投げかけると、お二方はそれとなく居住まいをただして、私の隣に並んでくださった。
やがて軽快な足音と共に眼前へとたどり着いた、サロン【ユグドラシルのお茶会】のみなさんは、息も整えないままに慌ただしく口を開く。
「遅くなりまして、ごめんあそばせ!!」
「ごめんね! みんなそろって顔合わせが楽しみすぎて、話してたらこんな時間に……」
「悪い! ロスト兄!」
「お待たせしましたっ!」
「大丈夫ですよみなさん。そもそもおおよそこの辺りの時間で、というお約束だったのですから。さぁ、まずは落ち着いてください」
穏やかな声音でそうお伝えすると、みなさんはようやくふぅと息を整え、それぞれが笑顔を咲かせた。
ぱっと薄ピンク色の扇子を開き、真っ先にいつもの調子を取り戻したのは、フローラお嬢様。
ゆるやかなウェーブを描くピンクゴールドの長髪を片手でサッと払い、美貌にそろう金色の瞳を輝かせて口を開く。
「そちらのお二人が、参加希望者ですのね!!」
「まずは顔合わせだって話したでしょ、フローラ。ごめんね、僕たちのリーダーの気が早くて」
「いや、問題ない。楽しみにしていたのはこちらも同じだ」
ずいぶんと勢いのあるフローラお嬢様の発言に、待ったをかけて謝罪を紡ぐロゼさんに対し、首を振って答えるシルラスさんと、コクコクとせいいっぱいの楽しみをうなずきで表現するステラさん。
さっそく何やら仲良しな雰囲気が出来上がっているあたりは、さすがは我らがサロン【ユグドラシルのお茶会】のリーダーとサブリーダーと言ったところだろうか?
――これは、私も負けてはいられない!
小さく呼吸をして、微笑みを口元にうかべる。
さぁ、橋渡し役としての役割を果たすとしよう!!




