二百八十四話 集団魔法対範囲魔法の最終戦!
※戦闘描写あり!
壁際を疾走し、広い空間の入り口のすぐそばまでたどり着くと、まずはそっと中の様子をうかがう。
チラリと視線を上に向けるだけで、目視できるヴェントスバットの数は、少々数えるのには苦労しそうなほど。
三十匹以上はいるだろう群れに、一瞬だけ視線を彼方へと飛ばしてから、現実へ意識を引き戻す。
正直なところ、さすがに無謀かもしれないと思わなくもないが……だがしかし、試してみなければ分からない!
そう考えている間は、まだ余裕があるということだと思うことにして、緑の瞳を再度広い空間の内側へ注ぐ。
高い天井ばかりに気を取られていたが、どうやら地面にも落とし穴の魔物、アースワームが複数体いるように見える。
つまり……複数の種類の魔物を、複数体同時に相手取らなければならない、と。
このダンジョンの入り口で、どうして他のシードリアのかたの姿が見当たらないのだろうかと、疑問に思った答え合わせが、さっそく出来てしまったかもしれない。
――要するに、危険かつもしかするとうまみも少ないダンジョン、ということなのでは??
反射的に零れた苦笑を引っ込めつつ、気を取り直して、集中。
充分に周囲の状況を確認した後は、覚悟を決めて突撃するのみ!
いざ――戦闘、開始!!
先手必勝と意気込み、素早く入り口から広い空間の内側へ踏み込む。
まずはとすぐそばの左の壁に駆けより、振り向きざま天井へ向かって〈オリジナル:隠されし刃と転ずる攻勢の三つ渦〉を発動!
それぞれ九つ展開した見えない風の刃、水の針、土の杭を瞬時に攻撃へと転じ、天井で群れるヴェントスバットを幾匹も刺し貫き、さらに第二段階へ移行させて三色の渦へと変える。
さらに数匹のヴェントスバットが巻き込まれ、銀色のつむじ風がいくつも天井で煌くが、しかし。
あまりにも数が多すぎて、決定だとは到底言えない。
加えて、さすがに敵対者を察知したらしく、天井のあらゆるところから風の刃が飛んできた!
「っと!」
〈瞬間加速 一〉を活用して、飛来する風の刃をかろうじて避けてはみるものの……数が多すぎて、すべて避けきるのは難しい。
数回風の刃がかすり、生命力ゲージが一気に三分の一ほど削れる。
さいわい、持続発動中の〈オリジナル:見えざる癒しと転ずる守護の水風〉によって、現状は回復出来ているが、この状態がつづくと危ういのは、明らかだ。
すぐさま、癒しのそよ風と水の雫を第二段階の流水をまとう旋風へと転じて、護りに切り替える。
これで、ひとまずはヴェントスバットからの攻撃がすべて当たることだけは、回避できるだろう。
それでも想像以上に強力らしい風の刃は、運よく二重になって一点へ触れると、流水の旋風でも弾ききれずに攻撃がかすかに通ってしまった。
ヒヤリとした感覚に、素早く縦横無尽に動いて風の刃を避けなければ、脅威から逃れることはできないと悟り、せめてもと逃げる合間に反撃をする。
〈オリジナル:吹雪き舞う毒凍結の花細氷〉を頭上目がけて広げ放ち、煌めく細氷と花弁と葉の美しさを堪能する余裕もなく、次いで〈オリジナル:暗中へいざなう白光紫電を宿す闇霧〉を放つ。
濃い闇色に包まれ、閃光と紫電の攻撃をうけたヴェントスバットたちは、次々とぽとりぽとりと地面へと落ちて行く。
とにもかくにも数を減らすためにと、遠慮なく範囲攻撃魔法を放ってみたが、どうやら名案だったようだ。
フッと、思わず不敵な笑みをうかべ――ザァッと足下が崩れる浮遊感に、しまったと顔をしかめる。
案の定、地面に幾体も待ち構えていたことを失念していた、アースワームの落とし穴にすぽっとはまり込み、しかしそれ自体はすぐに身にまとう守護の流水の旋風の刺激で、ぺっと空中へ出されるが、それでも。
――隙は、隙だ。
「っ」
ういた空中で息をつめ、時間が遅くなるような感覚と共に、一瞬で迫りくる数多の風の刃を目視して。
反射的に〈オリジナル:身を包みし旋風の守護〉を発動ッ!
流水の旋風に重なり、ぶわりと球体状に身体を囲った銀色の旋風が、地面に転がる身体をなんとか護ってくれた!
転がった勢いのままに地を蹴り駆け、お返しにとまた範囲攻撃魔法を連発し、リンゴーンと響く鐘の音を意識からいったん外して、確実にヴェントスバットの脅威を排除したのち。
こちらもお返しにと、風の刃の攻撃が消え去った安全な状態で、アースワームたちを〈オリジナル:迅速なる雷光の一閃〉の連発で倒し――これにて、なかなかに苛烈な魔法戦は、勝利で幕を閉じた!!
『だいしょ~~り~~!!!!』
瞬間、ぱっと肩と頭の上から眼前へと躍り出て、高らかに勝利を宣言する小さな四色の精霊さんたちへ、さすがに気分的に肩で息をしつつも笑顔を向ける。
「えぇ! なんとか、勝てましたね!!」
『しーどりあ、すご~~い!!!!』
「みなさんが、そばにいてくださったからこそ、ですよ!」
『わぁ~い!!!!』
くるくると舞う精霊のみなさんを順に指先で撫で、深呼吸を一つしてから、改めて広い空間へと緑の瞳を注ぐ。
この先には進めそうな道はなく、ひとまずはこの場がダンジョンの最奥、という認識で間違いはなさそうだ。
念のために精霊さんたちにも尋ねてみると、やはりすべての他の通路も、最後にはここに繋がっており、ここがいわゆるダンジョンにありがちな最終戦の場所、ボス部屋だったらしい。
まぁ……たしかに、アースワームに食まれた状態でヴェントスバットの群れが放つ風の刃をうけるような、地味なトラップとの連携技が下手をすると何度も繰り広げられる場所を、ボス部屋と呼ばずしてどこをそう呼べばいいのか、という話ではある。
少なくともまだまだ序盤のダンジョンで、これ以上の展開が起こるとも、あまり思えない。
それに、ここがボス部屋だろうと判断できる要素は、もう一つあった。
「さて……戦利品は、被膜と魔石と、宝石と銀貨、ですか」
歩みよった広い空間の中央に落ちていたのは、実際に倒したヴェントスバットの数と比べ、明らかに少ない数の被膜数枚と、銀色と茶色の魔石が数個。
それに、なぜか煌く原石のような宝石たちと、ジャラリと盛られた銀貨だった。
……宝石や銀貨がいったいどこから出てきたのかは、気にしないほうが良いのだろうか?
うっかりふっと視線を彼方へと飛ばして、束の間の現実逃避をした後、せっせと戦利品をカバンへ回収してから、灰色の石盤を開く。
レベルが三十九になっていることを確認して、いよいよレベル四十が近づいてきたことに好奇心を抱きながら、くるりと振り向き――帰路へと足を踏み出した。
〈オリジナル:見えざる癒しと転ずる守護の水風〉をかけ直して、削れていた生命力ゲージを全回復させつつ、〈オリジナル:風をまとう石杭の刺突〉を発動して待機させ、隠蔽。
常の状態に魔法を整えてしまえば、後は復活と言う名のリスポーンに気をつけながら、迷路を再度踏破するだけで、【風淀みの洞窟】からは脱出できる。
「脱出までがダンジョン冒険ですからね。さぁ、帰りましょう!」
『かえる~~!!!!』
精霊さんたちの楽しげな声に微笑み、複雑な帰路をまた少々迷いながらも、無事にダンジョン【風淀みの洞窟】の脱出に成功!
洞窟を出た頃には、ノンパル森林は眩い陽光が木漏れ日となって降り注ぐ、夕方も近い昼の時間となっていた。




