二百八十二話 トラップは魔物製!?
※戦闘描写あり!
「それでは――冒険をはじめましょう!」
『しゅっぱつ!!!!!』
凛、と告げた言葉に、小さな五色の精霊さんたちも凛と出発を紡いでくれる。
その勢いで足を踏み出すと、さっそく洞窟の中へと入り込んだ。
美しい夜明けの光はすぐに途切れ、土の地面と岩の壁がつづく、暗闇の中へ。
土と石の香りが満ちる洞窟の中は、ほんのりと肌寒く感じる。
周囲を照らす魔法を使ったほうが良いか一瞬だけ迷い、しかし暗闇の中でも十分周囲の状況が見えているのだから、必要ないだろうと思い直す。
そもそもいつも、意図的に並行発動できる魔法の二つ分の枠をあけているのは、今回のようないつ危険が迫りくるか分からない状況で、不足なく対応できるようにするためなのだ
念のため、今回もまだ必要のない魔法の発動は控え、余裕を残した状態で行動することにしよう。
不思議なことに、あまり踏み固められていないような、やわらかい土の地面を踏みしめて進んで行き……ふと、立ち止まる。
当然ながら、魔物の位置は今のところ必ず《存在感知》で分かるのだが……これは。
「地面に、魔物がいますね」
『うん! つちのしたにいるよ!』
私の小声でのつぶやきに、小さな土の精霊さんが左肩の上から肯定を返してくれる。
眼前では、道の中央に少しだけ他の土よりもふかふかと耕されたような土が、ひと一人分ならば立てるだろう円状の大きさで、唐突に存在していた。
そしてまさにその耕されたような土の真下に、魔物の反応がある。
――これはひとまず、試してみようか。
そろりそろりと足を前へと進め……一歩、ふかふかの土へと右足を踏み出した、瞬間。
「おっとっ!」
案の定、ザァッと崩れた足元に、いわゆる落とし穴のようなトラップだったのだと察して、空を切った右足はそのままに、安全な地面につけていたほうの左足でぐっと地を蹴り、前方の地面へと着地する。
危なげなく土の地面に両足をつけてから、後ろを振り返ると、くりぬかれたように見事な丸い落とし穴……に見える、魔物の口であろう部分が、ぽっかりと開かれていた。
「まさか、トラップが魔物製とは」
『びっくり!!!!!』
「えぇ……驚きました」
精霊のみなさんと一緒に驚きと新鮮さを分かち合いながら、改めて落とし穴をのぞき込んでみる。
こうして見る限りは、たとえ落ちてしまっても、私の身長であればせいぜいが腰元で止まるていどの深さしかないようだが……。
あぁ、好奇心が生まれてしまったのならば――試さないわけには、いかないというもの!
「えいっ」
『しーどりあっ!?』
小さな五色の精霊さんたちの、驚きの声を引き連れて――軽やかに地を蹴り、落とし穴へと飛び込む。
すぽっと言う効果音がつきそうなほど、綺麗に穴へと着地すると、すぐに軽くむぎゅっと魔物の口に腰から下が食まれた。
サッと確認した生命力ゲージの減りは……ほんの、ごくわずか。
はむはむと、まるで少し成長した赤子が口の感覚でおもちゃを確認するように、むしろもはやマッサージかなにかのように、やわらかく食まれている。
その間、一応生命力も減っているのだが……私の場合は、ログイン直後の準備の際から展開している〈オリジナル:見えざる癒しと転ずる守護の水風〉の回復効果により、ほとんど無効状態だ。
なにせ、見えざるそよ風と水の雫の怪我の回復効果は、継続的に常時発動している。
生命力が減った次の瞬間には、全回復しているのだから、これはもう無効と言っても過言ではないと思う。
自然と生暖かい眼差しを地中の魔物……魔物図鑑にはたしか、アースワームと書かれていた敵に注ぎながらも、とりあえず一応、抜けだすためにもがいてみることにして、普通に動かせる足で側面を蹴ってみた。
果たして物理的な、あまりにも素朴すぎるこの攻撃に効果があるのだろうかと疑問に思っていると、何やらもぞもぞと口がうねったのち。
「うわっ!?」
――ぺって出された!!
急に空中に放り出され、さすがに体勢を整え切れずに地面へ転がる。
それでも、気合いと根性で華麗に転がったので、受け身については良しとして。
……さすがに、少々酷い出されかただと思う。
所々服についた土を払いながら立ち上がり、思わずうかんだ不敵な笑みをそのままに、手飾りがゆれる右手を落とし穴へと向ける。
周囲に水気がないことをサッと確認してから、容赦なく〈オリジナル:迅速なる雷光の一閃〉を、再び口をあけた落とし穴、もとい地中のアースワームに放った。
バリィ! と紫電が輝き、すぐさま茶色のつむじ風が上がったのは、〈恩恵:夜の守り人〉が同時に発動したからだろう。
夜の時間帯で使用するすべての魔法の効能が少し向上するという、破格の恩恵を授けてくださったとある神様に、まずは感謝を捧げる。
次いで、またたく間に少しだけ他の場所より薄い色の土が埋めた、落とし穴だった場所の上に転がる、茶色の魔石を拾い上げてカバンへとしまい込んだ。
おそらくはこの土と魔石がアースワームの遺すものなのだろうと判断しつつ、お目当ての緊迫感こそあまりなかったものの、見慣れない魔物との戦闘……いや、出会いは、それなりに楽しい時間だったと微笑む。
くるりと進行方向へと向き直り、これまでの直線の一本道とは異なる、三本の分かれ道を見つめ、今度は不敵に口角を上げた。
魔物の反応は、ここからでもいくつか確認できるが……さて。
今回はやはりあえて、魔物の反応が多いほうへと進んでみよう!
「左端の道へ、行ってみましょう」
『まもの、いっぱい!!!!!』
「はい。魔物をいっぱい――倒しましょう!」
『しーどりあ、かっこいい!!!!!』
「ふふっ、ありがとうございます」
次に向かう先を告げ、重ねて私が紡いだ言葉に、精霊のみなさんがきゃっきゃと喜んでくださる。
どうにも精霊のみなさんには、私の不敵な笑みは好評なご様子。
小さく笑みを零しながら、それでも静かに冴えた意識で、ぐねぐねと曲がった左の通路を進んで行く。
少し歩くと、すぐに《存在感知》に反応していた魔物の正体に察しがついた。
「なるほど。岩に擬態する、あの魔物さんですか」
『いわのまもの、かくれてもだめ!!!!!』
「えぇ。隠れていても――私たちが、見つけますからね!」
通路の岩壁にまぎれるように、左右の壁際に一体ずつ沈黙している岩の魔物アースロックへと、隠蔽して展開していた〈オリジナル:風をまとう石杭の刺突〉を、迷わず第二段階へ移行。
とたんに七つの石の杭が三つと四つに分かれて飛来し、ガキィン! と石同士が強くぶつかる音が洞窟に反響する。
しかし、以前ノンパル森林の奥地にあった岩場で見かけたアースロックとは異なり、ダンジョン仕様の強さを有しているのか、今回のアースロックはこれだけでは倒せなかった。
石の杭が突き刺さってなお、カタッと動いた敵に対し、間髪入れず相手が飛び上がる前に〈オリジナル:迅速なる雷光の一閃〉を刹那の差で二度放ち、紫電の一閃にて二体の岩の魔物をつむじ風に変える。
転がった魔石を拾いながら思うことは、ダンジョンの意外性。
ダンジョンにももちろん種類があるとは思うのだけれども、それにしても……。
「トラップが魔物製という点は、やはり意外で面白いですね」
ふっと好奇心を秘めた笑みを口元に乗せ、再度進行方向を見やる。
またもや枝分かれしている通路に、まるで迷路の中に迷い込んだような印象をいだき――そっと、笑みを深めた。




