二百八十一話 ダンジョン【風淀みの洞窟】
朝の澄んだ空気に目を覚まし、ぐっと伸びを一つ。
日課の散歩をしっかりとおこない、朝食を楽しんだ後は、【シードリアテイル】にログインをするための準備をおこなう。
【シードリアテイル】がはじまってから、今日で十二日目。
本日の予定の約半日分ほどは、すでに決まっている。
昼食後は、先日シルラスさんとステラさんとお約束した、サロン【ユグドラシルのお茶会】のみなさんとのお顔合わせ。
これに加えて、この朝の時間はまだ挑戦していなかった場所――新しいダンジョンを冒険することにした!
パルの街の外のフィールドにあるダンジョンは、いったいどのような危険が待ち構えているのだろうか?
好奇心と高揚感を胸に満たして――いざ、ログイン!
『しーどりあおかえり~~!!!!!』
「ただいま戻りました! 夜明けの時間ですから、みなさんおそろいですね」
『うんっ!!!!!』
胸元で嬉しげにぽよぽよと跳ねる小さな五色の精霊さんたちは、窓から射し込む薄青の光に照らされて、今日もたいへん綺麗で可愛らしい!
蔓のハンモックからゆっくりと起き上がり、床へと降り立つと、夜明けの光に緑の瞳を細めながら、いつもの準備を開始する。
精霊魔法とオリジナル魔法を展開し、かくれんぼと隠蔽をおこなえば、あっという間に準備は完了。
本当はこの美しい夜明けの時間ならではの、小さな多色と水の精霊さんたちが流れるように移動し、自らの色と薄青の光を煌かせる光景を眺めていたいところだが……。
一つ頭を横に振って、その誘惑を断ち切る。
本日はすでにこれからの予定は立てているので、横道にそれずに進もう。
不思議そうに眼前でふよふよとういている五色の精霊さんたちへ、笑顔で方針を紡ぐ。
「この後は、いつも通り神殿でお祈りをした後――新しいダンジョンへ、冒険にまいりましょう!」
『わぁ~~いっ!!!!! ぼうけんだ~~!!!!!』
弾んだ声音を重ねた、精霊のみなさんの歓声に微笑み、さっそくと宿屋まどろみのとまり木を後にする。
美しい色で染まるパルの街を眺めながら、石畳の大通りをコツコツと靴音を鳴らして歩み、まずは神殿へ。
神官として認めていただいた分、届きやすくなっているのだろう《祈り》を、精霊神様、天神様、魔神様、それに獣神様と技神様へと捧げた後、さっそくダンジョンへ向かうために石門を目指す。
今回、あえての新鮮な危険を楽しむための試みとして、ノンパル森林の奥にあるらしいダンジョン【風淀みの洞窟】へは、その名前と場所以外の情報収集をしない状態で、このまま冒険へ向かうことにした。
本当は、エルフの里のクインさんに教えていただいた通り、冒険者ギルドで地図を買い事前の準備をする……という手順が、本来のダンジョンへ向かうための作法のようなものだとは分かっている。
しかし、ここまで順調に冒険をしてきた安定感とは別に、危険な状況ならではの楽しみかたというものもまた、ロマンの内に含まれていると思うのだ!!
――端的に語るならば、刺激が足りない、と言ったところか。
いや、とは言えなにも、生命力ゲージをすべて失う、いわゆる神殿送りになるような状況を求めているわけではなく。
かつてエルフの里で、キングアースベアーや特殊個体のツインゼリズと戦った時のような、緊迫感のある戦闘も久しぶりに楽しみたい、というだけのことなのだが。
つらつらと思考しながら石門を抜け、右側に広がるノンパル森林を目指して草原を進むと、森に溶け込むような緑のマントをゆらして、立ち並ぶ樹々の奥へ奥へと歩みを進めて行く。
薄霧にけぶり、薄青の光を反射して煌くノンパル森林は、エルフの里ではじめて見た夜明けの時間を思い出させ、自然と癒されるような心地になる。
それでも、これから向かう先は、たいして情報さえ仕入れていない、危険なダンジョンだ。
気を引きしめ直し……つい不敵な笑みまで口元にうかべてしまいながらも、やがて見えてきた高い崖の左右に視線を巡らせる。
唯一仕入れた情報ではたしか、この辺りにダンジョンの入り口があるはず。
よくよく見つめていると、右側に人が二人並んで歩けるほどの幅の洞窟の入り口が、ぽっかりと口をあけているのを見つけた。
「どうやら、あの場所がダンジョン【風淀みの洞窟】の、入り口のようですね」
『だんじょん、み~つけたっ!!!!!』
人気のない森の奥に、私と精霊さんたちの声が響く。
他のシードリアのかたがたの姿さえ、お見かけしないのは……果たして、それほどまでにこのダンジョンが危険だからなのか。
それとも、単純に知名度や潜るうまみがないのかもしれない。
いずれにせよ――私にとっては、未知。
そして未知とはすなわち、ロマンだ!!
フッと、不敵に口角が上がる。
そわっと高揚を表した小さな五色の精霊さんたちは、改めてぴたっと肩と頭にくっついてくださった。
冷たい空気がもれ出る洞窟の入り口から、奥につづいて見えるのは、淡く光る蔦も苔もない、暗闇の通路。
スキル《夜目》があるため、見えないというわけではないのだが……それでもどこか、今まで入ったことのある洞窟や薄暗い通路などとは、何かが決定的に違うように感じる。
「……好いですね」
半ば無意識で、ぽつりと零した言葉は――好奇心を内包して、実に不敵に響いた。
さぁ、ダンジョン【風淀みの洞窟】への冒険、開始!




