二百七十九話 明日の約束と斜め上の記述
シルラスさんと二人そろってステラさんの可愛らしさにほっこりしつつも、お待ちいただいていたフローラお嬢様とロゼさんに、お二方が顔合わせを希望している旨を伝えると、すぐに返事のメッセージが届いた。
[そうでしょうそうでしょう!!!]
[嬉しいね。なら、さっそく現実世界の時間で、明日の昼頃に、パルの街の大噴水広場で待ち合わせ、なんてどうだろう?]
[そう言えば、アルテとルンも、明日はお昼からログインすると話していましたわね]
[そうそう。僕たちも昼からなら遊べるから。ロストシードが大丈夫なら、そちらの二人にも尋ねてみてくれるかい?]
[心得ました! 私も大丈夫ですので、お二方にお尋ねしてみます]
石盤から顔を上げ、少しだけそわそわとした雰囲気のお二方に、ロゼさんの願い通り尋ねてみる。
「シルラスさん、ステラさん。現実世界で明日の昼頃は、【シードリアテイル】にログインできますか?」
「あぁ。私は元々一日中遊ぶ予定だったから、問題ない」
「あ、えっと……お昼からなら、だいじょうぶ、です」
「それは良かったです。私も、それにサロンの他のみなさんもお昼からならばログイン可能なようです」
「では、昼で決まりだな」
「えぇ。待ち合わせ場所は、パルの街の中心部にある、大きな噴水の広場でかまいませんか?」
「あの噴水広場か。承知した」
「大きなふんすい、わかります!」
「ふふっ、もし迷っても私が探しにまいりますから、ご安心くださいね」
「ありがとう、ございます、ロストシードおにいさん!」
丁寧なステラさんのお礼の言葉に、穏やかなうなずきを返して、お二方も明日の昼のお約束で大丈夫な旨を、再度フローラお嬢様とロゼさんに伝えると、そのまま現実世界の時間で明日の昼に、顔合わせのお約束が決まった。
「あした……たのしみ、ですっ!」
「えぇ!」
「そうだな」
ぱぁっと華やいだステラさんの笑顔に、またシルラスさんと共に笑顔になりながら、丁寧にみなさんへと感謝の言葉を伝え、サロンの語り板を閉じてからシルラスさんとステラさんと共に、帰路につく。
ふと見上げた夜空は、深夜を示す闇色に銀点の星々を散りばめた美しい星空色で、見惚れるほどの光景なのだけれども……。
「……そう言えば、現実世界でも今の時間は、ずいぶんと遅い時間です、よね……?」
ぽつりとつぶやきながら、ことの重大性をじわりじわりと感じて、思わずぎこちなくシルラスさんへと視線を移す。
「……そう、だったな……」
私の緑の瞳と視線の合ったシルラスさんも、どうやら私が今になって気づいたことを、察してくださったらしい。
私たちの視線が次に注がれる場所は、ただ一つ。
私とシルラスさんの間でてくてくと歩いている、ステラさんだ。
不思議そうな表情で、私たちを交互に見上げてくれているステラさんは……その所作や言動があまりに自然すぎる点から考えて、現実世界でのお姿も、幼げなかたであるような気がしてならない。
幼げなキャラクターを演じるロールプレイにしては、あまりにも不自然さや違和感が、見つけられないのだ。
当然ながら、ゲーム世界で不必要な現実世界関連の詮索をすることは、ネタバレをすること以上にご法度なため、直接たずねるような失礼なことはしないが……。
おそらくは、ステラさんが本当に幼いかただという認識は、そこまで間違ったものではないだろう。
そしてこの認識は、シルラスさんも同じくお気づきになっている。
だからこそ、二人して少々しまった、という表情になるのだ。
――幼いかたに、夜更かしをさせてしまった、と!!
「さ、さぁ! もうすぐでダンジェの森を抜けますよ! ステラさんとシルラスさんは、パルの街でログアウトしますよね?」
「あぁ。噴水広場でログアウトする予定だ」
「それは名案ですね! 明日、待ち合わせ場所にそのままログインができます!」
「あ……! わたしも、ふんすいのところで、ろぐあうと、します!」
「えぇ、分かりました! それでは私もお二方を、噴水広場までお送りいたしますね!」
こっそり全力で、シルラスさんと共にステラさんの睡眠時間の心配をしつつ、それとなく会話を合わせて、明日ステラさんが困らないようにログイン場所を待ち合わせ場所にすることに成功!
シルラスさんと二人で密やかにうなずきを交わしながら、お二方をパルの街の噴水広場まで送り届けて、また明日にとあいさつをして別れた。
少しだけ歩いてきた道を戻って宿屋へと帰る中で、素敵な出逢いに改めて胸がほかほかとあたたかくなる感覚を楽しむ。
小さな四色の精霊さんたちも肩と頭の上でぽよぽよと楽しげに跳ねて、一緒に喜びを分かち合ってくれるのだが……これが本当に可愛らしい!
やはり、この可愛らしさは間違いなく、世界一だ!!
うっかりにこにこになった笑顔を、なんとか上品に収めつつ、戻ってきた宿部屋の椅子に腰かけ、ふぅと吐息をつく。
私ももうそろそろ寝る時間ではあるのだが、またなかなかに有意義だった十一日目を、どうしても名残惜しく感じてしまう。
すぐにはログアウトをしたくないと感じ、つい語り板を開いて何か面白そうな情報などないかと目を通して――ついに、見つけてしまった!
「こ、これは、星魔法の記述ですね!?」
『ほしまほう~~!!!!』
しっかりとネタバレがあることを明記した上で、何やら少々奥まった場所にページが作られているという、かなりの配慮がなされているとは言え。
まさか……この段階で語り板の中に[星魔法]の文字があるとは思わなかった!
反射的に上がった口角をそのままに、いったいどのような内容が書かれているのかと、好奇心のままページを開き――。
[この古より受け継がれし、星の御力こそが、もっとも素晴らしく偉大なる魔法だ!!]
そう書かれた一文目を見て、そっと語り板のページを開いていた石盤ごと消した。
「……楽しんでいるようで、何よりですねぇ」
『しーどりあ、なでなでする????』
「えぇ、お願いします」
『わぁ~い!!!! なでなで~~!!!!』
反射的に生暖かくなった眼差しを、遠く彼方へと飛ばしながら、久しぶりに精霊さんたちによるなでなでの癒しを堪能したのち。
あらゆる意味で先ほどのページは見なかったことにして、各種魔法を解除し、小さな多色と水の精霊さんたちを見送り、蔓のハンモックへと横になる。
ふわりと胸元へと降り立ち、コロコロと左右に転がる小さな四色の精霊さんたちへ微笑み、またねを約束して――ログアウトを紡いだ。
遠ざかる感覚に次いで、現実世界の感覚が鮮明になると、十一日目の【シードリアテイル】での冒険は、終わりを告げる。
しかし、この後眠りにつき、そして明日の朝目覚めると……今度は、十二日目の冒険が、はじまるのだ!
弧を描く口元は、果たして眠った後には、ほどけているだろうか?
――また明日も、きっと素敵な時間が待っている。
そんな予感に、笑みを零しながら、眠るまでの時間を過ごしたのだった。
※明日は、主人公とは別のプレイヤー視点の、
・幕間のお話
を投稿します。




