二百七十七話 客観的な星魔法の評価
※戦闘描写あり!
夜の静けさの中に戦闘の音が混ざるノンパル森林と草原を抜け、ダンジェの森の前へと、ステラさんとシルラスさんの三人でたどり着く。
シルラスさんはどうやら星魔法に興味を惹かれたらしく、実際に見てみたいとのことで、引きつづき三人でパーティーを組んだまま、ダンジェの森の中にある星の石のもとまで行くことになった。
「ステラ。左の森……ダンジェの森の魔物は、数が多い。慌てず、気をつけて進もう」
「はい……!」
まるで年の離れた妹を気にかける兄のようなシルラスさんの気づかいに、真剣な表情で返事をするステラさん。
お二方のやり取りに、不思議と心がほっこりとあたたかくなるような感覚を得ながらも、深呼吸を一つして意識を切り替える。
弓使いとしての素晴らしい手腕を拝見した結果、ダンジェの森の魔物とは十二分に渡り合う実力があることを察した、シルラスさんはともかく。
土の地面にさえ転んでしまっていた頃を知っているためか、ステラさんのことは同じ星魔法の使い手だと分かっていても、どうしても心配してしまう。
実際は、フォレストベアーを怖がってはいても、そもそも星魔法が使える時点でおおよそ確実に勝つことはできるはずで、ダンジェの森のフォレストハイエナ相手でも、問題はないはず……なのだけれど。
とは言え、やはり心配なものは心配だ。
ゆえに――せめてステラさんの戦闘面での強さをこの目で確かめるまでは、しっかりと護衛役をつとめよう!
「いざという時は私がお護りいたしますので、ステラさんも安心して星魔法を撃ってくださいね」
「はい! ありがとうございます」
「いえいえ。それでは――まいりましょう!」
私からもステラさんへ声かけをしたのち、さっそくとダンジェの森へと踏み入り、移動を開始する。
樹の枝の上を高速移動するわけでもなく、普通に森の中を歩いていると、フォレストハイエナが私たちに狙いを定めるのは、一瞬だ。
「――フォレストハイエナ。五匹が先行し、残り五匹は回り込んで来ている」
「承知いたしました」
「緑の、はいえなさん……!」
先んじて敵襲を知らせてくださったシルラスさんにうなずき、それとなく周囲に他のシードリアのかたがいないことを確認して、きゅっと胸の前で両手を握り込んだステラさんの斜め前方に立つ。
そっと後方を振り返り、安心していただけるようにやわらかく微笑んで、簡単な戦法を伝える。
「私が〈スターレイン〉を唱えますので、ステラさんも私につづいて、〈スターレイン〉を撃っていただけますか?」
緊張した様子ながらも、コクコクとうなずくステラさんに穏やかな笑顔を返し、静かに弓をかまえるシルラスさんには、一瞬だけお茶目さを含んだ笑みを見せてから、素早く正面に向き直り――戦闘、開始!
サッと手飾りをゆらして天へとかかげた右手を、前方へと振り下ろすのに合わせて、偉大なる星魔法のその名を紡ぐ。
「〈スターレイン〉!」
「〈スターレイン〉っ」
凛、と響かせた私の宣言のすぐ後に、ステラさんの宣言がつづき、合計十にもおよぶ流星が頭上から鮮やかに放たれる。
銀と蒼の光の尾を引き、ステラさんの星々はちょうど前方のしげみから姿を現した五匹に、私の星々は周囲の残り五匹のフォレストハイエナへと降り注ぎ、一瞬でその身を緑のつむじ風へと変えて消え去った。
闇色が深まり、夜から深夜の時間へと移ろったことを察しながら、シルラスさんとステラさんを振り返ると、お二方共にそれぞれの色の瞳を見開いている。
シルラスさんははじめて星魔法をご覧になったのだから、驚くのも無理はないだろう。
ステラさんのほうは……戦闘が一瞬で終わったことに、驚いているのだろうか?
軽く首をかしげると、先にステラさんのほうがキラキラと淡い瞳を煌かせて口を開いた。
「ロストシードおにいさん、すごいです! たたかったのに、たたかってないみたいに、すっごくはやかった、です!」
「えぇ、えぇ。ステラさんのおっしゃる通り、星魔法はとても強い魔法ですから、戦いも今回のようにすぐ終わらせることができます。もしステラさんが戦いの時にお困りでしたら、他の人がいないことを確認してから、星魔法を使うと良いと思いますよ」
「はい!」
素直にコクリとうなずくステラさんが可愛らしくて、つい小さく笑みを零してしまう。
にこにことお互いに笑みを交し合っていると、おもむろに半歩近寄ってきてくださったシルラスさんが、やけに真剣な表情で紡いだ。
「私は……決して魔法に詳しいわけではないが。だとしても、星魔法と言う魔法が、他の魔法の強さを軽く凌駕していることくらいは、分かる」
「……ですよねぇ」
「星魔法、つよい、です!」
うっかり視線を彼方へと飛ばす私と、嬉しげに返すステラさんの行動の違いは、単純に比較対象である他の魔法の強さを知っているか否かなのか……それとも、ステラさんが大物なのか。
くしくも、シルラスさんによってようやく客観的に評価していただけた星魔法のとんでもなさは――案の定、とんでもない、という結論に至ったのだった。




