二百七十六話 お得意様と小さな同朋
無事に一頭目のフォレストベアーを倒し、ついでとばかりに近くにいた二頭目も倒して、シルラスさんの依頼分の討伐がまたたく間に完了する。
私は単純に戦ってみたかっただけであり、ステラさんも緑のクマさんを見てみたかっただけだったため、ちょうど宵の口から夜へと時間が移ろったところで、安全地帯であったカラノミの樹の下まで戻ってきた。
「助かった、ロストシード。素晴らしい魔法だった」
「こちらこそ、ありがとうございます。シルラスさんの風の魔法をまとう弓矢も、とてもかっこよかったです」
「ロストシードおにいさんの魔法も、シルラスおにいさんの弓矢も、どっちもかっこよかった、です!」
「ありがとう、ステラ」
「ありがとうございます、ステラさん」
お互いの健闘をたたえ合う時間は、なんとも貴重な機会だと思う。
そろって顔をほころばせながら、周囲に穏やかな雰囲気を広げる中で、ふと胸元に片手をそえたシルラスさんがつぶやく。
「私の魔法の矢の効果は、ロストシードのペンダントのおかげでもある」
「……私のペンダント、ですか?」
「あぁ。これだ」
シルラスさんが胸元にそえていた片手をひるがえし、見せてくださった掌の上には、なんとも身に覚えのある、編み上げた銀の金属で銀の魔石を囲んだ形状の、手作りのペンダント。
――間違いなく、私が商品用につくっている首飾りだ!
思わず緑の瞳を見開いて、シルラスさんを見つめてしまう。
視界の端で、ステラさんがこてっと小首をかしげた様子が見えたが、今は少々それよりも驚きがまさる。
「最初は、エルフの里で見かけたのだ。それ以降、新しく店頭に並ぶたびに買い替えさせてもらっている」
「お――お買い上げ、毎度ありがとうございます!!」
まさか……シルラスさんが、ロストシード印の装飾品のお得意様だったとは!!
ひっくり返りそうなほどの驚愕を、なんとか内側に留めて感謝の言葉を紡ぐと、一度うなずいたシルラスさんは、やけに真剣な表情で口を開いた。
「ロストシードの装飾品は、本当に素晴らしい性能だ。このペンダントがあると無いとでは、矢の飛びかたに明確な違いがあったほどに。
むろん、一見シンプルに見え、しかしその実、繊細に編まれているこの見た目も気に入っている。
ロストシードの技術は素晴らしいのだと、会うことが出来た際には、必ずこの言葉を伝えようと思っていた」
「そ、そこまでお褒めいただけるとは、光栄な限りです……!!」
まだ驚愕が落ち着かない内に、怒涛のごとく伝えていただけた絶賛に、嬉しさと照れで頬が赤くなっていないか心配しながらも、かろうじてありがたさに満ちたこの気持ちを伝える。
ゆったりとうなずいたシルラスさんが、どことなく満足気に見えるのは、ご本人の言葉通りいつかさきほどの言葉を伝えようと、本当に思ってくださっていたからこその表情だろう。
ありがたさと喜びをかみしめながら、しかしいつまでもステラさんに分からないお話をしていてはいけないと考え、気を取り直して問いかける。
「そう言えば、私はこの後もまだ時間があるのですが、お二方は他に何か、お困りごとはありませんか?」
穏やかに、そして私自身が協力できるものであればお助けできます、と言う意味を込めて紡いだ問いに、今度はステラさんがおずおずと小さな片手を上げた。
「あの、パルの街のちかくにも、あるってきいて、さがしているものがあって……」
「おや、探し物ですか?」
「何を探しているのだ?」
私とシルラスさんの二人から問われたステラさんは、両手を胸の前で祈るように組み、つぶらな淡い瞳で私を見つめて、言葉を紡ぐ。
「星の石……星の石のところに、つれていってくれませんか……?」
――今、なんと?
思考を止めるほどの衝撃的な言葉に、ぽよっと頭の上で跳ねる感触を、より鮮明に感じた。
『ほしのいし、あっち~!』
「わ~~っ!? あの少々お待ちくださいっ!!」
反射的に大きな声を出してしまいながら、頭の上から眼前へと降りて星の石の方角を伝えてくださった、小さな闇の精霊さんを両手で包み隠す。
……なぜこうも、驚きの展開というものは、連続するのだろうか??
ハッと見やったステラさんの、胸の前で組まれた左手首には、たしかに細い腕輪――星のカケラでつくられた、星空色の装飾品が煌いていた。
つまり彼女は、私と同じく星魔法の使い手だということ!!
小さな同朋の突然の出現に、驚きと喜びが胸の内で入り混じる。
が、その感情にひたっている場合ではないことは、分かり切っていた。
思わず掌に包み込んでしまった、小さな闇の精霊さんに謝罪を告げて、掌から解放したのち。
サッと移した視線の先では、シルラスさんが私とステラさんを不思議そうな表情で交互に見つめていた。
あぁ……これは間違いなく、盛大なネタバレをしてしまったに、違いない!!
うっかり額に片手を当てかけて、なんとか思い留まる。
どう考えても、ネタバレを口にしたステラさんと小さな闇の精霊さんに、悪気はないのだ。
であれば、きっとシルラスさんも、寛大な心で受け止めてくださると……信じるほかはない。
慌てて、改めてシルラスさんに向き直り、言葉を紡ぐ。
「あの、シルラスさん」
「あぁ。いったい、何事だろう?」
「その……さきほどのやり取りは、現段階ではおそらく多くのプレイヤーのみなさんにとっては、とても重大なネタバレになるたぐいの……内容でして」
「あぁ、なるほど」
「……あっ」
しぼり出すような私の言葉に、あっさりと納得を示すシルラスさんの言葉と、事の流れに気づいたのだろう、焦ったステラさんの声とが重なる。
けれども、ステラさんの淡い瞳がうるむより先に、シルラスさんが紡いだ。
「いや、別に構わない。私は弓関連以外であれば、特にネタバレは気にしない」
「そ、そうでしたか……」
思わずほっと零した安堵の吐息に、シルラスさんが淡く笑む。
不安げな表情で見上げてくるステラさんにも、大丈夫だから安心していいと言葉を伝えてくださるシルラスさんの気づかいに、感謝だ。
私もステラさんの前に片膝をついて腰を落とし、目線を合わせて今回は大丈夫であることを紡ぎつつ、しかし二度があってはステラさんご自身も困ってしまうだろうからと、言葉を付け加える。
なるべく分かりやすく丁寧に、星の石や星魔法に関してはまだ出回っていない珍しいものであるため、他のかたの前でお話しする時にはネタバレをしても大丈夫なのか、先に確認をしたほうがいいことを伝えると、ステラさんは素直にうなずいてくださった。
さすがにヒヤヒヤとしたものの……今回は寛大なシルラスさんと、素直なステラさんのおかげで、問題事にならずにすんだといえるだろう。
再度安心感が広がった胸の中、星のように煌いた歓喜は、やはり星魔法の使い手たる同朋がいた、という事実から湧き出たもの。
この喜びを、次は行動に変えるとしよう!
大老アストリオン様は、エルフの里の星の石は自ら探し出す必要があるとおっしゃっていたけれど、他の地の星の石まで自身のみの力で探さなければならないとは、おっしゃっていなかった。
であれば、今回は私がステラさんをこの地の星の石へと導いても、かまわないだろう。
いざ、ステラさんご希望の、星の石が眠る地――ダンジェの森へ!!




