二百六十七話 在りし日の里眠る遺跡
アルさんと共にノクスティッラを使った星空色のポーションを完成させたのち。
今度は他のみなさんの作業を眺めながら迎えた夜明けを区切りとして、さっと居住まいを正し、みなさんへと言葉を紡ぐ。
「みなさん。改めまして、此度の素材収集の冒険へのお付き合い、ありがとうございました。とても楽しく有意義な時間をすごすことが出来ました。またお時間が合う時は、ご一緒していただけますと嬉しいです!」
『たのしかった~~!!!!』
『いっしょ、たのしい!』
私が紡いだ感謝の言葉に、小さな四色の精霊さんたちの歓声と、ぱっと姿を現した小さな光の精霊さんの言葉がつづき、【紡ぎ人】のみなさんが何事かと私へ注いでいた眼差しを、ふとやわらげた。
「お礼を言いたいのは、こっちなんだがなぁ――ってことで、今回も助かった! ありがとな、ロストシードさん」
「うんうん! 今回もありがとうだよっ!!」
「みんなで冒険するの、ナノもとっても楽しかったのです!」
「色々助かった。遠慮せず、これからも誘ってくれ」
ゆるりと呟いてから、感謝の言葉を響かせてくださったアルさんをきっかけにして、ノイナさんとナノさん、それにドバンスさんもそれぞれあたたかな言葉をくださり、思わず口元がゆるみかける。
なんとかそっと口角を上げるだけに留め、もう一度私からも感謝と今回はここでおいとますることを伝えて、クラン部屋を後にした。
夜明けの時間特有の、美しい薄青の光が降り注ぐ大通りへと出たのち、次は何をしようかと思考を巡らせる。
つらつらと考える中で何気なく、そう言えばノンパル森林の奥やダンジェの森の奥にはまだ、探索をしに行ったことがなかったと思い至った。
そして思い至ったのであれば――行動あるのみ!
さっそく石門へと向かいつつ、カバンから今しがたつくったばかりの星空色のポーションを取り出して蓋を外す。
このポーションの効果は、宵の口からこの夜明けの時間まで、闇属性の魔法の効能を上げるというもの。
今回はダンジェの森の奥へと向かってみようと決めたので、せっかくならば戦闘も行いながら移動したい。
となると、やはりこのポーションの効果を、試してみたくなるのは必然だろう!
ほんのりと甘い水の味のする星空色のポーションを飲み、からになった小瓶をカバンへとしまったのち、石門を抜けてダンジェの森へと踏み入る。
とたんに襲い来るフォレストハイエナたちを、さらっとこっそりを意識して使った星魔法と、闇属性を含むオリジナル魔法〈オリジナル:暗中へいざなう白光紫電を宿す闇霧〉で手早く倒していく。
ノクスティッラのポーションの効果は、星魔法はともかくとして、オリジナル魔法ではしっかりと威力が増していることを確認でき、満足さが増した。
時折、小さな闇の精霊さんたちによる眠りの精霊魔法〈ラ・テネフィ・ヌース〉にて、フォレストハイエナたちを眠らせて戦闘を回避しつつ、先を目指すことしばし。
やがて、アクアキノコが生えている小川を飛び越え、はじめて足を延ばすダンジェの森の文字通り奥地へと、好奇心のままに探索していくと――樹々の葉が暗がりをつくる森の、切れ目が見えてきた。
たどり着いた樹々の陰の終わりで、ぱっと拓けたその場所には、夜明けの薄青の光が明るく降り注いでいる。
「ここは……」
思わず呟きを零したのは、緑の瞳に映った光景が、ずいぶんと新鮮なものに見えたから。
美しい夜明けの光に照らされた眼前には、私の背丈ほどの高さの小さな丸い岩造りの家々……であったものが、朽ちてもなお眩い白色を輝かせ、ぽつぽつと建っている。
そのほとんどが崩れ落ち、半ばがれきとなったもので、ここがすでに人の住んでいない、古い住居の跡地のような場所なのだと察することが出来た。
『ころぽっくるのこたちの、いせきだって~!』
近くの地面からふわりと現れた数体の小さな土の精霊さんたちのそばへ、私の左肩から離れて移動した小さな土の精霊さんが、そう教えてくださる。
ふむ、と片手をそっと口元へとそえて、記憶を引き出す。
コロポックル族と言えば、私たちエルフ族と同じく、精霊神様によって生み出された妖精族の一種族だ。
その最たる外見特徴は、たしか……子供ほどの背丈の、小さな姿をした存在、ということだったはず。
「なるほど。たしかにコロポックルのかたならば、この小さな家に住むことができるでしょうね」
納得にうなずきながら言葉を零すと、次は銀色の小さな光がまたたいた。
『ふる~いふる~いじだいの、いせきだって~!』
同じようにどこからともなく現れた小さな風の精霊さんたちがうかぶ、前方へと移動していた小さな風の精霊さんも、同じ風の精霊さんたちから聞いたのだろう情報を伝えてくださるのに、なるほどとうなずきを返す。
『あのかわも、ずうっとむかしから、あったみたい~!』
ぽよっと右肩で跳ねた小さな水の精霊さんの言葉に、川のせせらぎが聴こえてくる右側を見ると、遠くの遺跡の端で、曲がりながらダンジェの森の中へと流れて行く小川が視認できた。
古来から、人々の村や里などは水場からはじまることが多いのだと、いつの日かどこかで聞いた知識が頭をよぎり、さもありなんとうなずく。
改めてぐるりと見やった遺跡のその奥には、異様なほど密集した樹々たちが整列したように立ち並んで生えており、どうにもその先へと行くことは難しいように感じる。
現時点では、まだあの先のマップが解放されていないということだろうと思うが、もしかすると……何らかの方法で、あの先へ行くことが出来るのかもしれない。
ふいに湧き出た好奇心と高揚感に、自然と口角が上がった。
そこに謎があるのならば――調べてみることそのものを、人はロマンと呼ぶ!
目の前にあるロマンを手に取らないなど、私にはそのようなもったいないことはできない。
と言うことで。
いざ、コロポックル族の小さな家々の遺跡の調査、開始!!




