二百六十六話 星空色の名無しポーション
楽しげに笑い声を響かせたのち、ちょうど深夜へと移った星々の煌く夜空を見上げながら、「そう言えば」とアルさんが呟く。
「ノクスティッラも錬金素材なんだが、ロストシードさんはどんな効果を持つポーションがつくれるか、知ってるか?」
うかがうような深緑の視線に、おそらくはアルさんもあのノクスティッラの納品依頼をうけ、錬金術師のお爺様とお逢いしたのだろうと推測しつつ、穏やかに答える。
「えぇ、ノクスティッラの納品依頼の際に」
「ははあ。さすがだな、同士よ~!」
おどけてアルさんが言うのに、また少しだけ皆さんと笑い合う。
もしかすると、お爺様が他のシードリアのこともつぶやいていたのは、アルさんが先におとずれていたからだったのかもしれない。
さもありなん、と思いアルさんを見やると一瞬だけニッと笑みが深まった。
どうやら、そう言うことらしい。
こちらもにこりと微笑みを返し、これにて正式に――今回の素材収集の冒険は終了だ!
この後は、満場一致でそのままアトリエのクラン部屋へと戻り、作業をするということで話がまとまる。
ゆったりと帰路につき、アトリエの所有するクラン部屋である家へと帰りつくと、ひとまずみなさんとそろって長机の椅子に腰かけ、パーティー解除の文言を紡ぐ。
次いで、それぞれが今回の冒険で採取した素材を机の上へと並べて、確認をはじめる。
私もそれにならってテラプラムとヴェントスフルール、それに小瓶に入ったノクスティッラを机の上に並べ、ついでにこのまま作業でもはじめようかと、からの小瓶と魔力水入りの大きな瓶もカバンから取り出す。
『わくわく!!!!』
「お! ロストシードさんはさっそく作業をはじめるのか?」
「えぇ。まずは土ポーションと風ポーションをつくってみようかと」
小さな四色の精霊さんたちのわくわくの言葉に、右隣に座っているアルさんがたずねてくる。
それに考えを答えると、一度うなずいたアルさんが言葉をつづけた。
「おぉ、ならノクスティッラをつかったポーションは、一緒につくらないか? 実は俺もまだつくってなくてなぁ」
「おや、そうだったのですね。もちろん、ご一緒いたします」
「よっし、作業仲間確保っと!」
アルさんからの素敵な作業のおさそいを、お断りするはずがない!
互いに笑顔を交し合い、まずはと土ポーションと風ポーションをつくってみる。
テラプラムを使った土ポーションは、マナプラムを使ってつくる魔力回復ポーションと同じように、そのまま粒を入れて錬金作業をおこなうだけで、あっという間に出来上がった。
少々調整に苦労したのは、ヴェントスフルールを使った風ポーションのほう。
花弁を融解する作業が、思った以上に繊細さが必要だったため、そこだけは高速錬金を断念してじっくりと作業することで、ようやく成功した。
完成した二つのポーションを机の上にトンッと置き、ふぅと吐息を零すと、アルさんへと視線を向ける。
ちょうどこちらを見やった深緑の瞳と視線が合い、アルさんの穏やかな表情が緑の瞳に映った。
「ヴェントスフルールの融解って、結構たいへんだよな」
「えぇ。予想外の難しさでした」
「ははっ、分かる分かる」
アルさんの言葉に思わず真顔で同意を示すと、軽やかな笑い声と共にうんうんとうなずきが返る。
それに微笑みをうかべつつ、そう言えばと他のみなさんを見やると、ノイナさんとナノさんはツムギワタの綿を何やら器用に糸へと変換しているところで、ドバンスさんはお二人と私とアルさんとを交互に眺めているようだった。
ふいに丸メガネを押し上げたノイナさんの薄い青緑色の瞳と視線が合い、彼女が口を開く。
「あっ! もうアルさんとロストシードさん、新しいポーションづくりをはじめる?」
「えぇ。私はそのつもりですが」
「あぁ、俺も準備できたから、もうつくれるぞ」
ノイナさんの問いかけに、アルさんと二人顔を見合わせながら答えると、なぜかノイナさんだけでなく、手元の糸から顔を上げたナノさんとこちらを見つめるドバンスさんの瞳も、キラリと煌いた……ように、見えた。
「はいはい~い!! 見学希望者一号!!」
「二号なのです!」
「なら、三号だ」
「素直に見学したいですって、言って良いんだぞ?」
「見学したいです!!」
「したいのです!!」
「したいぞ」
「よく言えました! 良いよな? ロストシードさん」
「えっ? あ、えぇ、もちろん構いませんよ」
あまりにも流れるようになされた鮮やかなやり取りに、うっかりアルさんの確認の声かけに疑問符をうかべてしまい、慌てて肯定を返す。
サロン【ユグドラシルのお茶会】のみなさんもそうだったけれど、アトリエ【紡ぎ人】のみなさんも、独特の会話をなさる時があるのだなぁ、などと頭の中で考えたのち。
意識を切り替えて、アルさんと一緒におこなう、新しいポーションづくりに集中する。
錬金術師のお爺様が見せてくださったように、ノクスティッラと魔力水を小瓶に入れ、高速錬金は封印してゆっくりゆっくり、丁寧に溶かし細やかに混ぜ合わせ、魔力で磨いて行くと、徐々にその色が変化して――無事に、星空色のポーションが完成した!!
「わぁぁ! とっても綺麗なのです!!」
「うんうん!! 本当に星空みたいな色だ~!」
珍しく、小さな身を机に乗り上げる勢いでナノさんが最初にガーネットの瞳を煌かせて声を上げ、それにつられるようにノイナさんも感動がにじむ声音を響かせる。
ドバンスさんでさえ、感心したようにうなずいて星空色のポーションを見つめているのだから、評判は上々と言ったところだろうか?
アルさんと二人、ちらりと視線を交し合い、にこりと微笑み合う。
胸中に広がる満足感に、ふっと口角を上げながら、そう言えばと気になったことをつぶやく。
「そう言えば……このポーション、効果はお爺様の本に書かれていましたが、名前は書かれていませんでしたね……」
「ん? あ~っと? そう言えば……無かったな!?」
「そうですよね」
ついつい、またアルさんと顔を見合わせて、ぱちぱちと瞳をまたたき合う。
これほど美しく素晴らしい効果を持つポーションだというのに、まさか名無しポーションのままつくりつづけるだなんて……そのような趣のないことをするつもりは、さすがに無い!
思わず真剣な眼差しでアルさんを見つめると、アルさんも一度真剣な表情でうなずいたのち――にっと人好きのする笑みをうかべて、口を開いた。
「今度、あの爺さんに訊いてみるか!」
「えぇ、そうしましょう!」
やはり、持つべきものは友ということかもしれない。
同じ気持ちで出した結論に、またお互いの顔に笑みが咲いた。




