二百六十二話 可愛いイタズラのち冒険のおさそい
昼食と小休憩をはさみ、再び【シードリアテイル】へとログインすると、今回は四方から綺麗な白金の毛先を、つんっと小さく引っ張られる感覚があった。
次いで、ぱっとその感覚が消え、ぽよぽよと胸元で跳ねる感触に変わる。
小さな精霊さんたちの、思わぬイタズラとそれをごまかすような可愛らしさに、閉じていた緑の瞳を開く前にうっかり、笑みが零れた。
「ふふっ」
『しーどりあ、おかえり~!!!!』
「えぇ、ただいま戻りました、みなさん。――私の髪で、こっそり遊んでいましたね?」
開いた緑の瞳でみなさんを見つめ、普段通りのあいさつを交わしたのち、愛情を込めて問いかけてみる。
すると、とたんに精霊のみなさんがふわっと胸元から空中へとうき上がり、あわあわと慌てはじめた。
『しーどりあ、いたかった?』
『あのね、しーどりあのかみがきれいだったの~!』
『きらきら、さらさら、みてたの~!』
『ちょっとだけの、いたずら!』
口々に紡がれる言葉を微笑ましく聴いていると、最後にひゅいっと眼前に近づいてきた小さな四色の精霊さんたちは、首をかしげるようにその身を少しだけ回して、
『だめだった????』
と、つたない声音で私へと確認を問う。
その可愛らしい姿に、ついつい頬をゆるめる私の答えなど、きっと精霊さんたちも分かっているだろうに。
もちろん――精霊のみなさんからの可愛らしいイタズラなら、いつでも大歓迎だ!!
ゆるやかに首を横に振り、ダメではないことを言葉にする。
「いいえ、ダメではありませんよ。私はみなさんからのイタズラでしたら、楽しみだと思うくらいですから」
『わぁ~い!!!! やったぁ~~!!!!』
イタズラを承認どころか推奨する私の言葉に、小さな四色の精霊さんたちが嬉しげにくるくると舞う姿をひとしきり眺めたのち。
夕陽の橙色が射し込む蔓の床へと降り立ち、ひゅいっと移動して肩と頭の定位置へと乗ってくれたみなさんと共に、いつもの準備を開始する。
小さな多色と水の精霊さんたちに〈ラ・フィ・フリュー〉と〈アルフィ・アルス〉の二種類の精霊魔法をお願いして、〈オリジナル:風をまとう石杭の刺突〉と共に《隠蔽 四》にて姿を隠し。
最後に〈オリジナル:見えざる癒しと転ずる守護の水風〉を発動して、かすかな風に金から白金へと至る長髪をゆらせば――準備完了!
「それでは、まずは神殿へ向かいましょうか」
『はぁ~い!!!!』
やはり最初は、ログイン後のお祈りから。
宿屋まどろみのとまり木を出て、石畳を軽快に踏み鳴らして進み、白亜の神殿でしっかりと神々へとお祈りを捧げる。
次いで、ふと以前アトリエ【紡ぎ人】のみなさんとの交わした会話を思い出し、名案を閃いた。
そうだ――今回は、私から素材収集の冒険に、みなさんをおさそいしてみよう!
神殿から大通りへと踏み出しながら、小声で小さな精霊さんたちにもこの後の方針を伝える。
「お次は、アトリエのみなさんを、素材収集の冒険におさそいしにまいりましょう」
『わぁ~!!!! わくわく!!!!』
小さくぽよっぽよっと肩と頭の上で跳ねて、わくわくを示す精霊のみなさんに微笑みを深め、さっそくアトリエ【紡ぎ人】のクラン部屋である、小さな家へと向かう。
夕陽に照らされた家の扉を開くと、ちょうどノイナさんとナノさんが、茶色の二本のおさげと薄ピンク色の翅をゆらして、長机に並べている椅子に腰かけたところだった。
「ノイナさん、ナノさん。こんにちは」
『こんにちは~!!!!』
「あ! ロストシードさんこんにちは~!!」
「こんにちは、なのです!」
私と小さな四色の精霊さんたちのあいさつに、こちらへと視線を移したお二方が笑顔であいさつを返してくださる。
こちらも穏やかに微笑みを返し、少しだけ奥の扉のない石造りの部屋を見やると、その中にいたドバンスさんの栗色の瞳とも視線が合い、一礼をおこなう。
それから、もう一度軽く部屋の中を見回し、姿が見えないもうお一方のことをノイナさんへとたずねてみる。
「アルさんは、作業部屋にいらっしゃいますか?」
「うん! アルさんはあそこだよ」
「あの作業部屋は、アルさんのお気に入りなのです!」
「そうだったのですね! 教えてくださり、ありがとうございます」
「あ! ロストシードさんは、またアルさんと一緒にポーションづくり?」
さいわい、アルさんもこちらにいらっしゃるのだと分かり、内心ほっと吐息を零していると、ノイナさんが銀の丸メガネをキラリと光らせて問いかけてきた。
それに、ゆるりと首を横に振り、まずはお二方のご都合をたずねてみようかと口を開く。
「いえ。今回は、以前に少しお話にあがっていたことを思い出しまして、【紡ぎ人】のみなさんで素材収集の冒険に出かけるのはいかがでしょうかと、おさそいに」
「行く!!!」
「行くです!!」
――なかなかの勢いで、返事をいただいてしまった。
一応本来は、おさそいにまいりました、までは言葉にする予定だったのだが。
それよりも早く、ノイナさんとナノさんの同行が決定した。
思わず小さく笑みを零すと、お二方も照れたように……それでも嬉しげに笑顔をうかべる。
次いで、ぱっと立ち上がったお二方は、ナノさんは鍛冶部屋で炉に向かって座っているドバンスさんのほうへ、ノイナさんはアルさんがいるらしい作業部屋のほうへと移動して、声を上げた。
「ドバンスおじさん! ロストシードさんがみんなに素材収集のおさそいをしてくれているのです!」
「アルさ~~ん!! ロストシードさんが、素材収集にみんなで行こうって、さそってくれてるよ~~!!」
私が追いかける間もなく、ドバンスさんとアルさんの耳に入ったであろうナノさんとノイナさんの言葉へ、
「おう。行くか」
「参加!! 参加する!!」
と、すぐさまお二方の返事が響く。
ぱっと私を振り返ったノイナさんとナノさんの表情は、非常に満足気なもので……私も反射的に、にっこりと鮮やかな笑顔を返してしまった。




