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二百五十九話 それだけは許さない

※戦闘描写あり!


 



 朝の光を木漏れ日となって浴びながら、ロゼさんにお借りしていた釣竿をお返しして、さっそく銀の釣竿で魚釣りを再開する。

 その色合いから予想はしていたものの、風属性の何かしらの補助がかかっているのか、今までよりも軽い動作で糸を遠くまで飛ばすことができて、思わず感動に緑の瞳が輝く。

 とは言え、残念ながらそれ以外の変化は特になく、魚が釣れる頻度が上がることなどはなかったが、その代わり。

 しゃらんという綺麗な効果音と共に――スキル《釣り人》を習得できた!


 [釣りをおこなう際、より釣り上げる対象の反応を、察知しやすくなる。常時発動型スキル]


 そう書かれた新しいスキルによって、本当に水の下の魚たちがおもりをつつく感触などが分かりやすくなり、新鮮さにまた好奇心が湧く。

 どうして初回の魚釣りの時には《釣り人》のスキルを習得できなかったのか、という疑問には、ロゼさんが答えてくださった。

 いわく――現在では、釣りを実際におこなった回数や、もしかすると釣竿の条件など、複数の習得条件があるのではないか、と釣り人たちの間では語られているとのこと。

 スキルや魔法を習得するために、何かしらの条件が必要となるという点は、すでにいくらかおぼえがあるため、素直に納得できた。


 そうして、私がお試し的な数回の釣りを終えると、今回はそろそろ戻ろうかと言うお話になり、今度はフローラお嬢様を筆頭にしてゆっくりと川から帰路へと足を進める。

 ……そこまでは、前回と変わらなかったのだけれども。

 ちょうど切り上げる時間が重なったのか、はたまたそれ以外の意図があるのか――少し距離を離しているものの、なぜかぞろぞろと他のシードリアの釣り人さんたちまで、一緒に帰路につくという状態になった。

 事実上、連れ立って帰っているようなものであるため、自然と後ろへと下がったロゼさんと釣り人のみなさんが、またもや楽しげな会話に花を咲かせはじめる。

 呆れ顔をしたフローラお嬢様と、苦笑をうかべるルン君とアルテさんの後ろで、純粋に楽しげな声音で語り合うロゼさんを、私も微笑ましく思いながら帰路を歩き……しかしさほど進まない内に、異変に気づいた。

 ここはまだ森のただ中であるため、前回のように水のツインゼリズなどの魔物の襲撃は、あらかじめ予想している。

 しかし、今私のスキル《存在感知》に反応しているのは、おそらく、二種類の魔物だ。

 それも……どちらも複数体が、移動して来ている。

 ――まさしく、私たちへと向かって。


「みなさん、戦闘準備を」


 足を止め、右側へと身体の向きを変えながら、あえて静かに冷静さを含ませて告げた私の言葉に、ハッと周囲が緊張に満ちる。

 楽しげなうわついた空気は霧散し、おのおのが武器を手に構えるものの……どうにも、釣り人のみなさんは、あまり戦闘が得意なようには見えない。

 サッと素早く私の前方へと駆けより、前衛と後衛に分かれて戦闘態勢を整えたサロンのみなさんのほうが、数段戦闘慣れしているように感じるほどだ。

 このような場合は、おおむね助け合いが大切なもの。

 私も今回はしっかりと、戦闘に貢献しよう。


 遠くの樹々を見据えること、十数秒後。

 やがて、頭に角を生やした灰色の兎姿の魔物、ホーンラビットと――それを追いかけてこの場所まで移動してきたのだろう、緑の毛並みをもつ狼姿の魔物、フォレストウルフを目視できた。

 実際に目にすると、予想以上に迫力のある光景に、前方に立つみなさんがじりっと後ずさりをするのを見やり、軽く地を蹴ってルン君とロゼさんを追い越して先頭に立つ。


「ロストシード」

「初手、牽制します」

「うん、分かった」


 ロゼさんの確認を宿した声かけに、短く言葉を返すと、すぐさま私の意図を理解してルン君と一緒に一歩下がってくださる。

 さて、それでは――戦闘開始だ!


 私とのレベル差に怯え、左右に散り散りに逃げていくホーンラビットは、今回は放っておくとして。

 狙っていた獲物を取り逃したところに、ちょうど新しい獲物としてひとところに固まっている私たちのほうへと、六匹一組の集団戦を得意とするフォレストウルフたちが、遠慮なく迫って来る。

 初撃はひとまず、〈オリジナル:昇華一:風まとう水渦の裂断〉を発動!

 周囲の空中にまたたく間に出現した、七つの薄い円盤状の回転する水の渦に、一瞬後方からどよめきが湧くが、それに構っているほどの距離はもうウルフたちとの間には残されていない。

 素早く第二段階に移行させ、それぞれに避けたつもりのフォレストウルフたちへと、なめらかな軌道を描いて水の渦が飛来し、その身へと水色の線を刻む。

 もっとも、残念ながらこれだけでは、運悪く二つの水の渦の攻撃をうけた一匹以外は、倒すには至らなかった。

 怪我を負いながらも、示し合わせたようにサッと二匹と三匹がそれぞれ左右に散り、私たちを挟み撃ちすることにしたらしいウルフたちの賢さに、思わず不敵な笑みがうかぶ。

 賢い戦法に感心し、つい心を躍らせて左側から回ってきたウルフたちと対峙したルン君に、加勢しようとした――その時だった。


『いたい!』


 幼く響いたその声に、反射的にバッと後ろを振り向く。

 痛みをうったえたのは、アルテさんのところの小さな緑の精霊さんだったらしく、逃げるようにアルテさんから少し離れた空中の、普段よりも高い位置にうかんでいる。

 あの子を傷つけたのは――すぐそばでまだ狙いを定めている、あのウルフだろう。

 サァッと、急に思考が明瞭になり、より多くの情報を感じとりはじめる。

 まずは、すぐそばで吠えた声の持ち主に視線を流し、


「ステイ」


 〈オリジナル:大地より突き刺す土の杭〉を発動させて、大地から突き出した硬い土の杭でその身をぬい留め。

 振り向きざまに、まだ執拗にアルテさんの緑の精霊さんを狙おうとしていたウルフに、腕を払う。

 刹那、〈オリジナル:昇華一:無音なる風の一閃〉の発動により放たれた銀の一閃が煌めき、ウルフに深い銀線が刻み込まれ……やがて、その身が風に巻かれるようにかき消えた。


「アルテさん! そちらの精霊さんはご無事ですか!?」


 反射的に確認を問うためにとかけた言葉は、思ったよりも切迫した声音で森に響く。

 私の問いかけに、アルテさんが慌てて答えるよりもはやく、アルテさんの小さな緑の精霊さんが、


『だいじょ~ぶ~!』


 と元気な声を返してくれた。

 ほっと息がこぼれ、無意識に力んでいた身体から力が抜ける。

 ――同時に、くすぶる静かな怒りを自覚した。

 私たちエルフ、ひいてはすべての妖精族にとって、大切な友人である精霊さんに、なんてことをするのだ……!!

 たやすく許してやるものかと思うほど、はっきりとした怒りの感情を、ロゼさんとフローラお嬢様のコンビと、ルン君の一撃によって倒された二匹をのぞいた、残り二匹のフォレストウルフへ向ける。

 明らかに苦戦している釣り人のみなさんのところで暴れている二匹目がけて、隠蔽を解いた〈オリジナル:風をまとう石杭の刺突〉の七つの回旋する石の杭を出現させ、第二段階へ移行。

 無慈悲に、容赦なく飛んで行った石の杭は、しっかりと二匹のウルフたちへと突き立ち、その身をつむじ風へと変えた。

 誰にとっても想像以上であっただろう混戦が終わり、安堵の吐息をつくみなさんと一緒に、ゆっくりと呼吸をおこなうことで、くすぶっていた怒りを鎮めていく。

 何度目かの深呼吸をした辺りで、ぽんっと軽く肩を叩いた手の感触に、下げていた顔を上げると、ルン君がそれはそれは輝く笑顔で、


「あのステイ、めっちゃかっこよかったぜロスト兄!!」


 と、本当にそう思っていらっしゃるのだろう声音で伝えてくださる。

 その言葉に、一瞬ステイとは何だっただろうかと思考を巡らせ――思い出した途端に、もう一度うつむくこととなった。

 思わず片手で顔をおおい、なんとか懇願の言葉をひねり出す。


「……いえ、あの、できれば忘れてください……」


 顔が赤くなっているのが、鏡を見なくても分かった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] タイトルを読んで、ロストシードさんは一体何にお怒りになるのか?と思い読み進めておりましたが…成る程納得ですこれは絶対許さんっ(^q^)笑 そしてお怒りロストシードさんの「ステイ」…冷静にな…
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