二百四十九話 ネタバレ回避のち製作お披露目
あたたかな昼の陽光が窓から注ぐ中、【紡ぎ人】のみなさんそれぞれの自慢の作品を拝見していると、ふいにノイナさんと視線が合った。
メガネの奥、薄い青緑色の瞳がまたたき、少しだけ私の顔から横にずれた視線が、何やらじぃ~~っと注がれる。
いったい、どうしたのだろう?
思わず小さく首をかしげると、ゆらりと星のカケラの耳飾りがゆれる感覚がかすかに届いた。
そう言えば、ノイナさんの視線はちょうど、この耳飾りを見ているような……?
じわり、と厄介ごとの気配がにじむ予感に、少しだけ口元を引きしめた――その時。
「ロストシードさんのその両耳につけてる耳飾りって、見慣れないものだよね。自作のもの? それとも、どこかで買えるもの?」
……まさしく少々厄介な問いかけが、ノイナさんから紡がれてしまった。
つい、緑の瞳を軽く伏せて、ノイナさんから視線を外してしまう。
あぁ――ついに、この耳飾りについての話題が出てしまった!
これはどう考えても、ネタバレなしには語れないたぐいの話題だというのに!
ひとまず、思わず押し黙ってしまったことで生まれた沈黙だけは、何とかしておきたいところだ。
そろりと視線を持ち上げ、眉を下げて淡く微笑みながら、言葉を紡ぐ。
「えぇっと……その、これは少々、特別なものでして」
「特別なもの?」
「特別か」
「ほ~う?」
「わくわく、なのです!」
――なぜ、他のみなさんまで興味津々なのでしょう??
うっかり脳内ツッコミが口から出るところだった……!
反射的に固めた微笑みをそのままに、刹那の時間で状況を整理する。
そうだ。何はともあれ、まずは、確認が先だ!
落ち着くためにと軽く息を吸って吐き、改めてノイナさんへと緑の瞳を向けて、問いかけの言葉を紡ぐ。
「えぇっと。ノイナさん、ネタバレは」
その確認の言葉を伝え終わる前に、大きくノイナさんの両腕がバツを形作った。
――くしくも、ネタバレ回避、大成功!!
脳内だけでぐっと拳を握り勝利を喜びながら、普段の穏やかなものへと戻した微笑みをうかべて、一つノイナさんにうなずきを返す。
そこはかとなく、他のお三方からは残念そうな雰囲気がただよっているような気がしないでもないが……ここはさすがに、華麗に気づかないフリをしておこう。
その間に、今度はノイナさんががっくりと肩を落とした。
「残念~! ネタバレはダメなんだよね」
「純粋にはじめてを体験する楽しさは、やはり貴重で特別なものですからねぇ」
「そう! そうなのよ!!」
心底から残念そうなつぶやきに、穏やかに同意の言葉をかけると、気を取り直したノイナさんがうんうんと深くうなずきを繰り返す。
お三方と共にその様子を微笑ましく見守っていると、「なので!」と凛と声を上げたノイナさんが、キラリと丸メガネの奥の瞳を煌かせた。
「そのかわり! ――ロストシードさんが装飾品つくってるとこ、見たい!!」
……おっと?
今度はまた別の方向のお話に移りましたね??
ぱちぱちと緑の瞳をまたたいている間に、次々とみなさんから声が上がる。
「わぁ~! ナノも見たいのです!」
「わしも」
「なら俺も」
ガーネットの瞳を純粋に煌かせている、ナノさんはともかく。
どうにも、男性陣は場の流れに好奇心で乗っているような気がするのだけれど……まぁ、作品をつくる過程をみせることは、私にとって何か問題があるわけでもない。
戸惑いを何とか引っ込めて、ゆるやかに一つうなずく。
「分かりました。それでは僭越ながら、作業をはじめさせていただきますね」
『さぎょう、かいし~!!!!』
『わぁい!!!』
私の言葉につづき、小さな四色の精霊さんたちとアルさんのところの三色の精霊さんたちが楽しげに歓声を上げた。
その愛らしさに、ようやくいつもの微笑みを取り戻して、まずは商品用の装飾品をつくるべく、材料をカバンから取り出していく。
あたかも既製品かのように、さらっと取り出した自作水晶に、魔導晶石や銀、それに宝石類を机の上に並べ終えると、さっそく作業開始だ!
普段通りに《同調魔力操作》で魔導晶石と銀を混ぜるところからはじめようと、ふわりとうき上がらせた、瞬間。
「えっ!? う、ういてる!?!?」
そう、ノイナさんから驚愕の声が発せられた。
つい、きょとんとノイナさんを見返すと、ずり落ちかけた銀の丸メガネをかけ直して、ノイナさんが慌てたように口を開く。
「えぇっ? ロストシードさん! それ、どうなってるの!?」
「それ……と申しますと、素材がういている状況のことでしょうか?」
さきほどのノイナさんの言葉を思い出して問いを返すと、ぶんぶんと勢いよく首が縦に振られる。
とたんに、右隣のアルさんが笑い声を零した。
「ははっ! これは一人前の錬金術師が使う、《同調魔力操作》って言うスキルだ。リーダーも、俺がポーションつくってる時に見たことあるだろ?」
「――あっ! あ~~っ!? あれ!?」
「あぁ。アレ、だ」
「ええぇ!?!? 細工でも使えるんだ!?」
「みたいだなぁ」
説明を引き取ってくださったアルさんに感謝しつつ、ノイナさんとアルさんのやり取りを聴きながら、うなずきを返す。
そうしてはじめた商品用の装飾品製作は、とどこおりなく進み……あまりにスムーズすぎて、またもやノイナさんが薄い青緑色の瞳を丸くしていたことをのぞけば、おおむね順調に終わった。
次いで、そのままの流れで商品用のポーション製作まで、みなさんの目の前で披露することになり、エルフの錬金術の先駆者であるアルさんの手前、若干緊張をしながら作業をおこなう。
こちらはなぜかドバンスさんとナノさんが、真剣な表情で見ていたり、つぶらな瞳を見開いたりしており、どうしてだろうかと小首をかしげると、アルさんがニヤリと笑って答えらしき言葉をお二方へと紡いでくださる。
「ほら見ろ。俺と同じくらい凄いだろ?」
――いったいどういう意味なのかは、あえて尋ねないことにした。




