二百四十八話 限定的な魔法と【紡ぎ人】の作品
『ぼくのいろの、ある~~!』
『ぼくのいろのも、あるよ~!』
『きれいだね~~!』
『しーどりあの、すいしょう!』
「ふふっ! 土の精霊のみなさんのおかげで、とても素敵な水晶をつくることができましたね!」
『うんっ!!!!』
ご自身の色をまとった水晶があることに喜ぶ、小さな水と風の精霊さんたちに微笑み、小さな土と光の精霊さんたちの言葉にうなずいて、喜びを共有する。
改めて自作水晶を眺めながら、それにしても、とふいに疑問がうかんだ。
「そう言えば……水晶を創出する精霊魔法が存在すること自体には感動しておりますが、実状としましてはずいぶんと限定的な魔法ですね?」
あまりに限定的すぎて、もはや水晶卿や私のような者以外の使い道が見いだせないほどである点を、謎に思う。
それとも、案外細工技術を習得しているかたや、もしかすると鍛冶技術を有しているかたなどにとっては、有用な魔法なのだろうか?
軽く小首をかしげ、しかしよくよく振り返ってみると、用途不明の魔法ならばすでに習得していたことを思い出す。
「あぁ……それでも、あの装飾系の光魔法ほどの謎ではありませんね。こちらはしっかりと使い道がありますから」
ただキラキラが舞うだけの装飾系光魔法〈グロリア〉の果てしない謎を思いうかべ、このような魔法もあるのだから、今回の水晶を創り出すという明確な目的のある精霊魔法は、まだ分かりやすいほうだとうなずく。
『しーどりあ、なでなでする~~????』
「あぁ、いえいえ。大丈夫ですよ。少しだけ、以前の思い出にひたっていただけですので」
『よかった~~!!!!』
うっかり彼方へと視線を飛ばしてしまい、精霊さんたちに心配をかけてしまった。
首を横に振りながら紡いだ言葉に、安心していただけたようで何より。
気を取り直して考えてみると、限定的とは言えこれほどまでに美しい水晶を創出できる魔法が、ロマンでないはずがない!
何よりも、いっそう水晶卿の後継者らしくなってきたと、心が弾んだ。
自然と上がった口角をそのままに、さっそくひとまずはと透明な自作水晶を五つ手で折って採取する。
水晶卿の大きな水晶の採取は、またの機会を楽しみにすることにして、ほくほくと満足感が広がる胸中のまま、星魔法らしき魔法陣を使い戻ってきた裏路地には――すでに昼のあたたかな陽光が注いでいた。
「お次は、アトリエ【紡ぎ人】のクラン部屋へとまいりましょう!」
『はぁ~い!!!!』
小さな四色の精霊さんたちの元気な返事に微笑み、きびすを返す。
次はアトリエ【紡ぎ人】のクラン部屋にて、商品用の作品をつくろう。
もちろん、装飾品には――この自作水晶を使って!
意気揚々と、裏路地から出て大きな噴水を横切り、大通りへと戻る。
変わらないにぎやかさを楽しみながら足を進めると、すぐにアトリエ【紡ぎ人】が所有しているクラン部屋である、小さな家が見えてきた。
室内からもれ出る明かりに微笑み、木製の扉を開くと、すぐに机にそろって座っていたみなさんの、四色の瞳と視線が合う。
互いに瞳をかすかな驚きに見開いたのは、一瞬。
すぐに五人そろって、嬉しげな表情になった。
「ロストシードさん、いらっしゃ~~い!!」
「こんにちは、みなさん。おそろいでしたか」
一足早く、両手を上げて焦げ茶色のお下げ髪を跳ねさせ、ノイナさんが歓迎の言葉を響かせてくださるのに対し、穏やかにあいさつと言葉を紡ぐ。
私の言葉にいち早くうなずきを返してくださったのは、ドバンスさんとアルさん。
「おう。夜はだいたいそろうな」
「だな! 現実世界で寝る前に、こっちで作業しとくか~ってなるんだよなぁ」
「なるほど、そうでしたか」
お二方の言葉に納得を返し、そのまま私も定位置となったアルさんの隣へと腰かけると、右斜め前方の椅子に腰かけているナノさんが、ぱたりと薄いピンク色の翅をゆらし、ガーネットの瞳を煌かせて小首をかしげた。
「ロストシードさんも、作業なのです?」
「えぇ。商品用の作品を制作しにまいりました」
「へぇ? ポーションかい?」
「はい。ポーションと、装飾品ですね」
ナノさんの問いかけに、本日おとずれた目的を答えると、つづいてまったりとした雰囲気で紡がれたアルさんの問いに答える。
刹那、ノイナさんが銀の丸メガネの奥で、薄い青緑色の瞳を煌かせた。
「装飾品!! ちょうど、あたしもつくったところなんだ~! 見てみてくれる? ロストシードさん!」
「おや! それは是非に」
「やったぁ~~!!」
素敵な申し出に即答すると、水色の小さな魔石を飾った、美しい青色の繊細な見目の指輪が一つ、机の上に置かれる。
細やかに波打つ模様が刻まれたノイナさんの新しい作品に、ほぅ、と思わず感嘆の吐息が零れた。
「なんとも繊細な美をもつ作品ですね。水属性の魔法の効能を高めるものですよね?」
「わ! すごい! 一目見ただけでそんなことまで分かるの!?」
「いえ、私も近しい性能の指輪をつくったことがあるだけですよ」
水の魔石とその色合いから判断した言葉に、薄い青緑色の瞳を丸くしたノイナさんに、そっと左手をかかげて中指に飾る青い指輪を見せる。
とたんにハッとした表情になったノイナさんは、以前も見せたことを思い出したようで、一転して笑顔をうかべ、ぽんっと手を打つ。
その姿に微笑んでいると、次はナノさんが小さな片手を上げた。
「ナノは、昨日つくっていたローブが仕上がったのです!」
昨日、刺繍の腕前を披露してくださったナノさんの眼前に広げられた白いローブは、風の流れの模様が綺麗に、銀糸で描かれている。
「あぁ……これはまた、素敵なローブですね、ナノさん!」
「わぁい! 丹精込めてつくったのです!」
「えぇ、そうでしょうとも!」
喜びに可愛らしく頬を染めたナノさんに、称賛を込めて私も満面の笑みを送ると、さらに次いでゴトリと重い音が机の上で鳴った。
何事かと右側へと視線を移すと、いつの間にかドバンスさんの前に長い剣が置かれている。
栗色の瞳と視線が合うと、たっぷりと伸びたひげをさすりながら、ドバンスさんが口を開いた。
「わしも、一本出来たぞ」
「お! アレが完成したのか!」
「おうよ。少々骨が折れたがの」
剣のことを知っているらしいアルさんとの会話を聞きながら、サッと剣を見やりドバンスさんへと問いかける。
「――ロングソード、ですか?」
「おう。とある筋からの、依頼品だ」
「いわゆる、個人指名ってやつだな」
「なんと……!」
そのようなこともあるのかと、驚きながら再度視線を注いだ長剣は、銀色の鞘と柄が眩いほどに磨かれた一品。
改めて、アトリエ【紡ぎ人】のみなさんがつくり出す作品たちは、どれも本当に素晴らしい作品だと、そう心から思った。




