二百四十七話 自作水晶もまた美しく
『すいしょう、たす????』
閃きと共に紡いだ私の言葉に、肩と頭の上でそろって右側へコロリと転がった、小さな四色の精霊さんたちの疑問に対し、強くうなずき弾む声音で説明をする。
「えぇ! 水晶卿の後継者として、私も遺産の水晶を使うだけではなく、水晶をつくってみようと思いまして!」
『おぉ~~!!!!』
とたんに上がった歓声に、どうやら私の案は精霊のみなさんのわくわくを引き出したらしいと察して、微笑む。
方針が決まったのであれば――後は、挑戦あるのみ!
サッと前方へと緑の瞳を向け、足を進めて水晶が煌く奥の部屋の入り口をくぐる。
とたんに小さな四色の精霊さんたちが、ふよふよと水晶のほうへ小さなその身をよせた。
『ぼくのいろのすいしょうだ~!』
『しーどりあ~! ぼくのいろもあるよ~!』
『ぼくのはこれ~!』
『ぼくの、ちいさいよ!』
「ふふっ! みなさんのお色の水晶、とても綺麗ですね」
『うんっ!!!!』
ご自身の色の水晶の上を、くるくると回る姿が愛らしく、つい笑みを零してしまう。
精霊のみなさんそれぞれが小さな姿から発する燐光が、同じ色の水晶にあたりほんのりと煌きを増す様は、暗い部屋の中でいっとう美しく見えた。
しばし煌く水晶とたわむれる小さな四色の精霊さんたちを眺めて、その美しさと可愛らしさに癒される。
つい、いつまでも見ていたい光景だと思ってしまうものの……そろそろ、本題に移る頃合いだろう。
そっと流した視線の先――水晶卿の努力の結晶である水晶たちの左側には、さいわいなことに新しく水晶を生やす実験をしても問題ないていどの、スペースがあった。
その場へと少し移動し、かがんで片膝をつく。
岩の地面を手で撫でると、冷たく湿った硬い地面だと分かった。
残念ながらその良し悪しは私には分からないものの、すぐ右側には美しく煌めく水晶が生えているのだから、ひとまずこの場所で水晶を生やすことができるのか試すくらいは、大丈夫なはず!
ここは素直に、水晶卿クリスタルスさんの手腕を信じよう。
……それはそれとして、だ。
壁で淡く光るコケに照らされた、石の地面へと視線を注ぎ、ぽつりとつぶやく。
「さて。根本的な問題としましては……小さな精霊のみなさん」
『なぁに~~????』
呼びかけに、すぐさまふわりと眼前へ移動してきてくれた精霊のみなさんへと、最大の疑問を投げかける。
「その……そもそも、水晶を生やす魔法などは、存在するのでしょうか?」
水晶卿の石盤の記録を見る限り、彼は魔法を使い、素晴らしい水晶を生み出そうとしていた。
であるのならば、まさしく実際にそのような魔法もありそうなものだが、果たして――。
身をよせ合った小さな四色の精霊さんたちは、相談をするようにふよふよとゆれた後、綺麗にそろって一回転を披露してくれた。
『あるよ~!!!!』
「やはり! 良かったです!!」
予想が当たった喜びに、声音が弾む。
くるくると舞う精霊さんたちに笑顔を向けながら、問いを重ねる。
「どのような魔法か、教えていただけますか?」
『ぼくのまほう~!』
「小さな土の精霊さんの……土の精霊魔法ですか?」
『うんっ!』
くるんと綺麗な一回転を見せてくださった、小さな土の精霊さんの言葉に、ふっと微笑みを深めて、なるほどと納得を胸中でつぶやく。
土属性の魔法でも可能な気はするが、土の精霊さんたちの手による精霊魔法によって生やす水晶ともなれば、なんとも魅力的なものとなる予感がした。
一つうなずき、小さな土の精霊さんへとお願いを紡ぐ。
「分かりました。それでは、小さな土の精霊さん。あなたがたが水晶を生み出す精霊魔法の詠唱文を――ぜひこのロストシードに、お教えください」
真摯に響いた願いの言葉に、一瞬だけその身が発する茶色の輝きを強めた土の精霊さんは、くるくると嬉しげに舞いながら答えを教えてくださった。
『〈ソルフィ・クリスタルステス〉だよ~!』
「ありがとうございます!!」
『えへへ~!』
はっきりと認識できた、新しい精霊魔法の詠唱に胸を高鳴らせ、土の精霊さんへと感謝を伝える。
嬉しげにくるりと舞った土の精霊さんは、他の小さな精霊さんと一緒にゆっくりと私が片手を当てている地面の近くへと降り立った。
深呼吸を一つ。
どのような魔法も、イメージは大切だ。
さいわいにも、手本は右隣で煌いている。
水晶卿のこの素晴らしい水晶たちを想像しながら――教えていただいた精霊魔法を凛と紡いだ。
「〈ソルフィ・クリスタルステス〉!」
刹那、ぱっと現れた幾体もの小さな土の精霊さんが、四色の精霊さんたちがいる地面へと集い、いっせいにその茶色の光を強める。
キラキラと、眼下の地面が数回不思議な煌きを放ったのち。
パキィン! と綺麗な音を立てて――小さな水晶たちが、いきなり地面から生えてきた!!
「これは……!!」
『わぁ~い!!!! だいせいこう~~!!!!』
反射的な驚きと感動の声音に重なるようにして、四色の精霊さんたちの言葉が響く。
と同時に、しゃらんと美しい効果音が鳴った。
少し上げた視線の先には、[〈ソルフィ・クリスタルステス〉]と書かれた光る文字が、暗がりにうかんでいる。
とっさに念じて開いた灰色の石盤には、しっかりと新しい精霊魔法が刻まれていた。
[土の精霊の手助けにより発動する、変容型の技術系精霊魔法。地面から水晶を創出する。創出される水晶は、詠唱者のレベルと想像、土の精霊との友好の度合いにより、さまざまな形や大きさ、種類に変化する。詠唱必須]
そう連なった説明文に、本当に水晶そのものを創り出す精霊魔法なのだと、感心が胸に灯る。
魔法名の意味もまた、この精霊魔法の本質を示す、土の精霊の水晶創出といったものだと気づき、ほぅと感嘆の吐息が零れた。
石盤を消して、眼下の地面へ視線を注ぐと、小さいながらも立派に岩の大地の上へと突き出し煌めく、水晶卿の遺産ではない新しい水晶が緑の瞳に映る。
その数は、合計でちょうど十。
一般的なものである、透明な水晶が六つ。
それに加えて、薄い水色をまとった水晶が二つ、薄い銀色をまとった水晶が二つ、眼下で煌いている。
私の願いに応じてくださった、小さな土の精霊さんたちの力作――自作の水晶もまた、私の目にはとても美しく見えた。




